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医療・健康
朝日新聞社

若年性認知症 〜患者を生きる〜

初出:2014年11月25日〜11月30日
WEB新書発売:2015年3月2日
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 福岡市のアルミサッシ施工会社に勤めていた越智俊二さんは、1994年働き盛りの47歳で物忘れの症状に悩まされるようになりました。いったん下見した工事現場へどう行ったらいいのか、道順をうまく覚えられなくなっていました。仕事上のミスも重なって、次第に職場で孤立するようになり、98年に退職を決意しました。知人に紹介された病院で、若年性のアルツハイマー型認知症と診断されたのは、退職から2年後のことでした。(文中の年齢、肩書などはすべて掲載当時のものです)


道順が頭に入らない


 工事現場へどう行ったらいいのか、道順をうまく覚えることができない――。
 福岡市の越智俊二(おちしゅんじ)さんに異変が起きたのは1994年。47歳のときだった。
 アルミサッシの施工会社に勤めるサラリーマン。入社以来20年余り、営業畑を歩んできた。社内の配置換えがあり、ビルや一軒家などの現場でアルミサッシの取り付け作業をするようになった。その翌年の出来事だった。
 同僚と一緒にあらかじめ現場を下見したのに、なぜか自分だけすんなりたどり着けず、遅刻してしまう。そんなことが続いた。
 道順を覚えるのが特に難しい場所というわけではなかった。仕事を終えて自宅に戻ったある晩、俊二さんは妻の須美子(すみこ)さん(62)にポツリと漏らした。
 「どうしてやろか?」
 毎朝6時半に自分で車を運転して自宅を出発。一日に何カ所もの工事現場を回る日々が続いていた。忙しい時期には2カ月近く、ほとんど休めないこともあった。
 「疲れが出たせいかな」
 須美子さんはそう考え、深刻に受け止めることはなかった。
 地図があれば現場にはたどり着けた。俊二さんは、工事の見積書と住宅地図を会社でコピーしては、毎晩、自宅に持ち帰るようになった。
 夜7時半ごろに帰宅すると、見積書に記された住所をもとに、コピーした地図に蛍光ペンで印をつける。翌日に作業がある現場の位置とその道順を、一つ一つたどりながら確かめていく。自宅の居間のテーブルで夕食をとりながらその作業をするのが、俊二さん、須美子さん夫婦の日課になった。
 あとから考えれば、現場への道順が分からなくなったのは、「若年性認知症」のせいだった。
 65歳未満で発症する認知症で、原因は脳卒中が引き金になるものやアルツハイマー病など様々だ。推定発症年齢の平均は51・3歳。働き盛りでこの病気になり、家計に深刻な影響が出る例も多い。
 ただ、認知症は「高齢者の病気」というイメージを持つ人が多い。須美子さんもそうだった。
 「あの頃はまだ、夫が病気にかかっているとは、全く思っていませんでした」
・・・

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