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朝日新聞社

ドキュメント口蹄疫 「兆し」から「迷走」まで

WEB新書発売:2010年6月11日
朝日新聞

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 4月20日午前4時すぎ。研究所で検査結果を待っていた職員の内線電話が鳴った。「陽性です」と聞いた職員は「巨大な敵が出現した」と背筋に寒気を感じ、机に突っ伏した。家畜の伝染病・口蹄疫(こうていえき)のウイルスが、10年ぶりに国内で確認された瞬間だった。農林水産省も宮崎県も、当初は早期制圧に自信を持っていた。しかし感染は広がり、殺処分は宮崎県が誇る種牛に及んだ。被害拡大の兆しは3月末、すでに現れていた。


■兆し〈3月末〜4月19日〉 水牛が下痢 しかし、口蹄疫の目立った症状見つからず

 3月26日。宮崎県都農(つの)町の農場で、水牛に下痢の症状が出た。モッツァレラチーズを作るため飼われていた42頭のうち1頭。獣医師が31日、県の宮崎家畜保健衛生所に届けた。口蹄疫(こうていえき)の典型症状である口の中やひづめの水疱(すいほう)、流涎(りゅうぜん)(よだれ)はなく、細菌やウイルスも見つからなかった。
 4月7日。約600メートル南の農家を、都農町の別の獣医師青木淳一(38)が往診した。牛1頭が発熱し食欲がなく、口からわずかによだれを流していた。宮崎県が作った口蹄疫のマニュアルには「水疱は発病後6〜8時間以内に表れ、通常24時間以内に破裂する」とある。青木は口蹄疫も疑ったが、マニュアルにあるような水疱などの症状はなく、可能性は低いと考えた。
 9日。この牛の口の中にかさぶたのような直径3ミリほどの小さい潰瘍(かいよう)が見つかった。舌先には表皮の脱落があった。「仮に口蹄疫なら、水疱や激しい流涎が見られるはずだ」と青木はいぶかりつつ、衛生所に相談した。職員が防護服姿で立ち入り検査に来て農場内のすべての牛の口やひづめを調べたが、口蹄疫のめだった症状はなかった。
 ところがすぐ隣の牛に16日夕、発熱と流涎の症状が出た。翌17日、衛生所職員が検査すると、別の1頭に同じ症状がみつかった。衛生所は口蹄疫以外の感染症とみて、症状が出た3頭の隔離を指導。3頭をシートで囲った。他の感染症かどうかを調べたが、原因がわからない。宮崎県は19日午前、症状の出た牛の写真をメールで農林水産省動物衛生課に送った。約1時間後、「検体を送ってください」と返事が来た。
 19日午後11時すぎ。東京都小平市の動物衛生研究所(動衛研)海外病研究施設に、冷凍保存された牛の歯茎の一片が届いた。ウイルスが外に出ないよう5層構造にした高度封じ込め施設で、国際重要伝染病研究チームの職員が調査に取りかかる。


■発覚〈4月20日〜25日〉 要請確認 農水省緊急会議の席上「遅くない?」

 20日午前4時すぎ。検体が入った寒天に、職員が電気を通す。紫外線を当てると、口蹄疫ウイルスの遺伝子を示す線が、青白くぼうっと浮かび上がった。
 別室で待っていた研究管理監の坂本研一(53)は内線電話で結果を聞き、同僚ら約20人に一斉メールを送った。「陽性が確認されました。今後、多くの検査が必要です」・・・

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ドキュメント口蹄疫 「兆し」から「迷走」まで
216円(税込)

宮崎県で猛威を振るっている家畜の伝染病「口蹄疫」。農林水産省も宮崎県も、当初は早期制圧に自信を持っていた。しかし感染は広がり、殺処分は宮崎県が誇る種牛に及んだ。被害拡大の兆しは3月末、すでに現れていた。[掲載]朝日新聞(2010年6月4日、7500字)

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