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政治・国際
朝日新聞社

ニッポンとコリア 百年の明日(9) 在日の家族、人生をたどる

WEB新書発売:2010年8月6日
朝日新聞

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アボジの故郷、どこ

 「僕の父は09年、北朝鮮に永住帰国しました」
 東京都調布市のライブ喫茶。シンガー・ソングライター尹漢信(ユンハンシン)さん(45)はそう言って、歌い始めた。


 ――なつかしい思い出の大地は、オディエカッソヨ(どこに行ったの)

 在日朝鮮人1世の父・尹石千(ユンソクチョン)さん(96)と日本人の母・伊藤洋子さんの間に生まれた在日2世。詞には、日本語と朝鮮語が入り交じる。

 ――あの時のように愛してるなら、ヨギエトラワヨ(ここへ帰っておいで)

 70年以上も日本で暮らしてきた父が「北朝鮮で余生を送りたい」と言い出したのは2年前のことだ。北朝鮮に住む次女に頼るという。
 「自分には父を引き留めるだけの力がなかったのだろうか」。そう考えるとつらかった。日本の韓国併合から間もない1914年、朝鮮半島南東部の農村に生まれた父は、職を求めて34年ごろ日本に渡ってきた。北朝鮮には住んだこともない。なのに、なぜ「帰郷」なのか……。
    □  □  
 「気性の激しい人」。父のことを周囲の人から聞き、そんな印象を持っていた。
 45年の終戦後、愛知県豊橋市で時計店を営みつつ、在日朝鮮人運動に参加した。
 貧しい同胞を助けた。9家族が暮らす朝鮮人集落で焼酎の密造が摘発される。警察官の一人が、集落に嫁いだ日本人女性の顔を「朝鮮野郎と一緒になりやがって」と殴りつけたとき、「訴訟を起こす」と抗議し、一度は没収された道具を取り返した。50年に朝鮮戦争が始まると、反戦活動で逮捕された同胞運動家の釈放を求めて走り回った。
 55年に在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)が結成された後は、夜な夜な自宅に集まってくる総連支部の幹部らの前で、熱弁を振るった。
 祖国は植民地支配から解放されたが、日本に暮らす朝鮮人に生きるすべが与えられたわけではない。・・・

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