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朝日新聞社

なぜ米兵犯罪は裁けないのか 日米地位協定「不平等」の現実

WEB新書発売:2010年8月27日
朝日新聞

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◇続く「不平等」の現実 米兵らの事件、裁けず
◇被害賠償は肩代わり 訴訟に米国法の壁も
◇米軍、犯罪防止に躍起 硬軟交え「隣人」教育


続く「不平等」の現実 米兵らの事件、裁けず

 寄り添う幼い兄弟を母親は両手で抱きとめる。夏の木漏れ日が照らす「愛の母子像」。港の見える丘公園(横浜市中区)にたっている。今も花を手向けて手を合わせる人が後を絶たない。
 2008年に82歳で亡くなった土志田勇さんが、31歳で逝った娘和枝さんをしのんで建てた。園内には勇さんが品種改良した「カズエ」という名のバラも咲いている。


 1977年9月27日、米海軍厚木基地を離陸した米海兵隊のファントム偵察機が横浜市緑区(現青葉区)に墜落。和枝さんの自宅を炎が襲い、和枝さんと3歳の長男、1歳の次男が大やけどを負った。「パパ、ママ、バイバイ」。全身に包帯を巻かれた幼子2人は、痛みに苦しみながら間もなく息を引き取った。
 和枝さんの兄隆さん(61)によると、一命を取り留めた和枝さんがショックを受けないように周囲は2人の死を隠した。1年4カ月後に死の事実を知った和枝さんは悲嘆に暮れた。2人の子を「もう一度、抱きしめたかった」。闘病の末、その3年後に亡くなった。
 勇さんは生前、「事故の原因や責任はうやむやにされた」との思いを抱き続けていた。別の被害家族がパイロットらを刑事告訴したが、不起訴処分となる。日米地位協定に基づき、米兵らの公務中の事件事故は米側に第一次裁判権があるためだ。
 この原則は現在も変わらない。04年に起きた沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落事故で、米軍は沖縄県警の現場への立ち入りを拒否、捜査をさせなかった。07年8月、県警は航空危険行為処罰法違反容疑で米兵ら4人を氏名不詳のまま那覇地検に書類送検。しかし地検は全員を不起訴にした。
 隆さんは「無条件降伏して65年たっても敗戦国という現実は変わらない。日本にせめて罪を裁く権利があれば」。
    ◇
 地位協定は、公務外で米兵らが起こした事件は日本側に第一次裁判権を認める。しかし、捜査機関の裁量で実質的には裁判権を放棄する例も少なくないようだ。
 2009年7月8日夜、横須賀市内の路上で38歳の男性が少年3人に携帯電話などを奪われた。県警は米兵の家族3人を強盗容疑で逮捕したが、不起訴処分となる。捜査幹部は「米側から『厳しく処罰する』と連絡があった」ことが不起訴の理由にあると説明する。米海軍は釈放された3人を国外退去処分にした。
 横浜市のタクシー運転手田畑厳さん(64)は06年9月、横浜駅で米海軍横須賀基地所属の水兵ら4人が代金を払わずタクシーを降りたため、「マネー」と呼び止めると、顔面を殴られケガを負った。
 「被害届をいったん取り下げており、起訴しても無罪になる」。田畑さんは、横浜地検の検事から示談を勧められた、と話す・・・

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