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朝日新聞社

イチローの高い年俸はフェア? 日本でも「白熱」 サンデル教授

WEB新書発売:2010年9月10日
朝日新聞

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イチローの高い年俸はフェア?
―「人を楽しませる」「課税で再分配を」

 講義は冒頭から盛り上がった。「日本人はシャイで議論に参加しないと聞いたけど、間違っているよね? だれか証明できる人」。男子学生が「僕らは新しい世代だから」と答えて会場が沸いたところで「OK、では始めよう」。ルールは、ファーストネームを名乗り、簡潔に発言することだけ。教授は次々に問いを繰り出した。
 「身近な話をしよう」
 「日本人で最も年収の多い人は?」と会場に尋ねる。「イチロー」と声があがった。「そうかもしれない。彼の年俸はいくらかな? 1800万ドル。私は野球が大好きだ。アイラブイチロー」。続けて「平均打率は知ってる?」。会場からの「3割3分」という声に「3割3分1厘だ。昨日の試合で2本ヒットを打ったからね」。
 軽妙なやりとりの後、間髪入れずに「どこまでの格差なら社会的に認められるか」と大きな問いに移る。「イチローの年俸は日本の教師の400倍、オバマ大統領の42倍だ。これはフェアだろうか」
 多くの手が挙がる。「では少数派の意見から聞こう」
 「イチローは高い年収に値しない」と答えたのはユズハさん。「野球は娯楽。でもオバマ大統領は国全体の責任があり、世界中に影響を与える」。別の女性が「多くの人に楽しみを与えているから高い収入をもらうことは間違いではないと思う」と発言すると「収入の半分を税金で取るのは?」と教授が聞いた。「課税は反対。自分の考えで貧しい人にお金を出すべきです」。課税による再分配の是非に議論が移った。
 タカシさんが「イチローが努力と才能で得た収入。それを国が再配分するのはおかしい」と主張すると、教授が「イチローは個人の基本的権利を侵害されているということ? あなたはリバタリアン(自由至上主義者)ですね?」。
 リョウタロウさんが「財産の一部を取られても、生命までなくなるわけではない」と課税を肯定すると、タカシさんは「生命も財産の一部。生命を他者が自由に扱う権利がないのと同様、財産も国家とて奪う権利はない」と反論した。そこで教授は「功利主義者はどう考えますか」とアキラさんに水を向けた。
 「10億ドル稼ぐ人が5億ドルとられても痛くもかゆくもない。再分配は多くの人を幸福にする」と答えると、ひときわ大きな拍手。彼は、教授の最初の問い(漂流ボートでの殺人は許されるか)に「全員死ぬより、少年を殺して3人が生き残るほうが社会的に有益」と発言して反論を浴びていたのだ。
 「面白くなってきましたね」。教授がにやり。・・・

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