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特別版
朝日新聞社

原因不明の奇病と恐れられて 1980年代 全米エイズ・パニック

WEB新書発売:2010年9月1日
朝日新聞

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 米国のエイズ報道第1号は、1981年6月5日付のロサンゼルス・タイムズ紙の記事だった。エイズという病名はなく、「ゲイ男性に肺炎」との見出しで、ロスやニューヨークの男性同性愛者に原因不明の重い肺炎が発生していると伝えた。
 85年10月、俳優ロック・ハドソンのエイズ死を機に、エイズは米国内最大のニュースの1つとなる。エイズ心中、エイズ殺人――、当時の紙面には衝撃的な見出しが踊る。
 エイズ・パニックに襲われる米国の様子を描いた1980年代当時の生々しいレポートで、「不治の病」と恐れられた当時の様子を振り返る。

(1)アメリカ エイズにおののく普通の人々:1987年
(2)中年の2男性、『エイズ心中』 NYで飛び降り:1985年
(3)米のエイズ少年 「感染怖い」と拒まれる登校:1986年
(4)職場で地域社会で学校で進行するエイズ差別:1987年
(5)無視と混乱 米国のエイズ報道の軌跡:1994年
(巻末)「命をつなぐ」から、グエン・クオック・カーン/ベトナム


アメリカ エイズにおののく普通の人々:1987年

 この健康そうな人が、ひょっとしてエイズウイルスを持っているかもしれない――米国人は、性と愛の世界で、こんな不安に包まれ始めている。毎日、全米で30人をこす新たなエイズ患者が確認されているが、それは、エイズウイルスが、米国ではごく普通の男女間の性交渉の中に入り込んでしまったからだ。これまでの死者1万7000人、死を待つだけの患者1万3000人。そして100万人から150万人の人たちがエイズウイルスに感染し、本人たちの多くは、そのことを知らずに、新たな感染源になっている。レーガン大統領は、新年度予算に5億ドルのエイズ研究費を計上し、医学研究の最優先課題としたが、効果的な治療法の発見にはまだ遠い。さすがに、奔放だった米国人の性の世界にブレーキがかかり、夫婦と恋人の元に戻る性的保守化の現象が起こりつつある、との指摘を聞く。
 セックス地帯から、夜の女性が潮が引くように姿を消している。ニューヨークとならぶゲイ(男の同性愛者)の街で、米国でのエイズの震源地でもあるサンフランシスコでは、その種の女性が「1人もいなくなった地区もある」と市警察がいう。ニューヨークも同じ傾向にあり、ネバダ州の公娼(こうしょう)地区では、店をたたむところもでた。女性はエイズを恐れ、客の男性も女性のエイズを恐れて遠のく。この種の女性には麻薬常習者が多く、注射針から感染している可能性が高いからだ。男と女の簡単な出会いの場所であるシングルス・バーの客足も各地で減っている。・・・

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