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朝日新聞社

これは行政の犯罪だ 薬害エイズ事件 ドキュメント1996

WEB新書発売:2010年9月1日
朝日新聞

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 1980年代にエイズウイルス(HIV)に汚染された非加熱濃縮血液製剤が流通し、投与された血友病患者らに感染が広がった「薬害エイズ事件」は、日本とエイズを語るうえで最も重要な要素の1つである。多数の死者を出したこの事件は、その危険性を認識していたにも関わらず、回収など適切な措置を取らなかった国と製薬会社の責任が問われる刑事裁判に発展。一審無罪、被告の死亡による公訴棄却など、さまざまな局面を経て、裁判が終結したのは2008年。発生から四半世紀が経っていた――。
 存在しないと言われていた資料の「発見」、謝罪、和解、逮捕――。薬害エイズ事件にとって、大きな転換期だった1996年を当時の朝日新聞で振り返る。

〈薬害エイズ事件 1996年のできごと〉

 1月23日、厚相に就任した菅直人氏の指示で、原因解明のための調査班が発足。
 2月9日、過去の調査で「ない」とされてきた資料が「発見」され、83年当時、厚生省が非加熱製剤の危険性を認識していたことが明らかになる。
 2月16日、菅厚相は国の責任を認め、非加熱の血液製剤でエイズウイルスに感染した血友病患者や遺族らに初めて正式謝罪した。製薬会社も和解を受け入れることを決め、3月14日、謝罪。
 3月29日、東京と大阪のHIV訴訟で和解が成立。
 7月23日、元厚生省エイズ研究班長の前帝京大副学長らを衆院で証人喚問。
 8月29日、東京地検は前副学長を、10月4日、元厚生省課長を業務上過失致死容疑で逮捕、大阪地検も9月19日、製薬会社「ミドリ十字」歴代社長3人を同じ容疑で逮捕した。

(1)血液製剤によるHIV感染、83年に危険認識 国の方針を転換:2月
(2)ないない一転、厚いファイル9冊も エイズ資料、厚生省書庫から:2月
(3)官僚を動かした『菅流』 厚生省エイズ資料発見の舞台裏(時時刻刻):2月
(4)菅直人厚生大臣 「霞が関」を変えられますか :2月
(5)エイズ薬害、厚相が謝罪 国の責任を認める HIV感染者に対策約束:2月
(6)薬害に散った少年たちの夢 17人の十代逝く HIV訴訟きょう和解:3月
(7)誤り・うそ重ねエイズ薬害加速 ミドリ十字歴代3社長起訴:10月
(8)厚生省 川田龍平さんと行く(ニッポン現場紀行):11月
(巻末)「命をつなぐ」から、ホセ・ルイス・トマホンボ/ペルー


血液製剤によるHIV感染、83年に危険認識 国の方針を転換

 輸入血液製剤の投与によって血友病患者らがエイズウイルス(HIV)に感染した問題で、菅直人厚相は2月9日夜、「1983年当時、厚生省内に非加熱の血液製剤が危険だという認識があった」という見方を初めて示した。厚生省内の調査でエイズ研究班の資料などが新たに見つかり、書かれていた内容などから判断した。東京、大阪両地裁の和解交渉で示された裁判長の所見を大筋で受け入れるもので、菅厚相は「おのずから国の責任もはっきりしてくると思う」とも述べた。厚生省が薬害問題で自ら責任を認めるのは極めて異例。エイズ薬害問題で国の責任を避けてきた厚生省にとって大きな方針転換になり、和解交渉にも影響を及ぼすのは必至だ。
 菅厚相は9日夜、緊急に記者会見し、厚生省薬務局などの書庫から当時の生物製剤課長が記録していた研究班の第1回から3回目までの資料などが見つかったことを明らかにした。いずれもこれまで、国会議員などの質問に「確認できない」などとしていたものだった。
 その資料を見たうえで菅厚相は83年時点の厚生省の認識として(1)研究班を設置するまでの経緯の中で、HIVが血液から感染する危険について問題意識があった(2)外国の資料を引用したものなど、当時いろいろなところが(安全な)加熱製剤の使用について指摘していたものがある――などを挙げた。
 さらに「(非加熱製剤によるエイズ感染の)危険性を感じて研究班がスタートしている。安全な加熱製剤を使用するよう求める声が高まる場合への対応など、当時、いろいろなことを(想定して)検討しているという感じがする」と述べた。
 東京、大阪両地裁裁判長の所見は、83年当時の厚生省内の動きについて、「生物製剤課長は83年初めごろからエイズと血友病に関する情報の収集に努めており、米国の事情を知っていたと認められる」と判断。さらに「研究班でもエイズはウイルス感染症である可能性が高いことを前提として議論が行われている」などとし、国の対策の遅れが血友病患者のHIV感染という悲惨な被害拡大につながったことは否定できないと断じていた。
 これまで厚生省は国会答弁などで、「裁判所の所見を重く受け止める」としながらも、「医学の知見のもとで、血友病患者がエイズに罹患(りかん)する危険性というものを予見できなかった。相応の努力はしたと考えている。結果として被害の拡大を防止できなかったことは残念」(荒賀泰太薬務局長)という立場を繰り返してきた。
(1996年2月10日朝日新聞掲載)




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