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朝日新聞社

「二番底」は来るか 「日本型」危機が米経済を襲う

WEB新書発売:2010年10月8日
朝日新聞

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月収62万円、ローン毎月42万円 返せずに失う家

 「これでもうおしまいだ」
 米ネバダ州ラスベガス市内で、高い塀で囲まれた安全で静かな住宅街。革張りのソファに身を沈め、カーティス・シングルズさん(63)は17日、何度もこう口にした。
 前日、帰宅すると、見慣れぬ紙が車庫に張り付けられていた。「あなたは家を失う可能性があります」。ずっと恐れていた銀行からの差し押さえ通告だった。
 20畳はゆうに超える広々としたリビングルームには、大型テレビが備え付けられ、隣にあるシステムキッチンは最新式だ。ダイニングにはシャンデリアがかかる。2006年に84万5千ドル(約7100万円)で買った。全額を住宅ローンで賄った。ラスベガスの大手ホテルのカジノで38年働き続けてきたカーティスさんが手にした「夢の家」だった。

 購入当時の月収は、約7400ドル(約62万円)。住宅ローンの支払いは計月5千ドル(約42万円)に達した。無謀に見える資金繰りだが、「あなたには借りる資格がありますよ」という金融機関の甘い言葉を信じた。住宅価格は上がり続けるもの、と思っていただけに「(いざとなれば)買い替えればいいと思っていた」と妻のルラさん。
 1972年に2万6千ドル(約220万円)で買った旧宅の住宅ローンも、一時22万ドル(約1800万円)と10倍前後まで拡大した。旧宅の価値上昇で、担保価値が上がった分だけ、追加で借り入れた結果、そこまで膨らんだ。
 暗転のきっかけは、住宅バブルの崩壊だった。07年以降、住宅価格は急降下。続いて起きた金融危機を背景とする景気後退で収入は約4千ドル(約34万円)まで落ち込み、ダブルパンチになった。家だけは守ろうと、約1100万円の貯金をすべて使い、退職金やクレジットカードの借入金も回した。しかし、1年半前から新居のローン返済ができなくなり、半年前には旧宅のローン返済も滞った。
 まず、約1カ月半前、旧宅について、銀行から差し押さえの可能性を伝える通知が届いた。そして16日、通告は今住んでいる新居に及んだ。
 新居の価値は35万ドル(約2900万円)に激減した。購入価格の4割だ。ストレスで心臓病も患うようになったカーティスさんは「突然、風船が破裂して、すべては地獄のようになってしまった。いますべてを取り上げられようとしている」とつぶやいた。

2010年の破綻、すでに120機関 不良債権、苦しむ金融

 バージニア州南部の小都市マーティンスビル。8月下旬、80年の歴史をもつ「インペリアル貯蓄ローン組合」がひっそりと破綻(はたん)した。
 この地域の7月の失業率は全米で最悪に近い20・6%。地域を支えていた中小企業がリーマン・ショック以降相次ぎつぶれた。
 失業して住宅ローンを払えなくなる人が続出し、住宅ローンを主な事業としていたインペリアルは持ちこたえられなかった。
 町には「この家、売り出し中」の看板があふれる。不動産業のロッド・ベリーさんによると、人口約1万5千人の同市で約900軒が売りに出されている。「価格は30年前と同水準なのに買い手がいない。回復の芽が見えない」とベリーさんは話す。
 インペリアルは1929年、教会の地下で金融事業を始めた。米南部でアフリカ系米国人への差別が激しかった時代、彼らに融資する銀行はほとんどなかった。彼らが家を買ったり子供を学校に行かせたりするための資金を細々と貸し付けてきた。
 破綻時の顧客は約1500人。口座をもつ年配の女性は寂しそうに肩をすくめる。「こんな経済情勢だから、なにが起きても驚かないわ」
 米国では10年、すでに120以上の金融機関が破綻した。米連邦預金保険公社のシェイラ・ベアー総裁は「破綻件数は09年の140を超えるだろう」とみる。・・・

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