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朝日新聞社

美しいだけではだめ 岡田武史、W杯16強の真実

WEB新書発売:2010年10月8日
朝日新聞

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 スペインの初優勝で幕を閉じた2010年のワールドカップ(W杯)南アフリカ大会。岡田武史が指揮する日本代表は、海外でW杯初勝利を挙げ、自国開催以外で初めてのベスト16に進出した。ひりひりするような戦いの中で代表チームをまとめ上げた日々は、岡田武史にいまどう映るのだろうか。2年8カ月に及ぶ代表監督としての時間と真実を、今語り明かす。


〈1〉美しいだけではだめ

バルサもいいが必死に走る姿こそ、より大きな感動
 沖縄から北海道まで、岡田は相も変わらず忙しく全国を動き回っている。
 帰国直後の首相官邸への表敬訪問に始まり、御所にも招かれた。出身地の大阪などで表彰式に顔を出し、お世話になった人へのあいさつ回りに出向く。代表監督としての日本サッカー協会との契約期間は8月いっぱい。2022年のW杯開催を目指す招致大使に駆り出され、協会理事に就任。ライフワークと位置づける環境保護活動も再開した。知人、友人から酒席への誘いも絶えることはない。
 「さすがに今回はちょっと疲れた。監督の時は1日に3試合分と練習を含めた映像を見ていたけど、もう見なくていいんだという解放感がある。今でも夜中に目が覚めて、今日は何をしなきゃいけないんだっけとふと考えて、そうだ、何もしなくていいんだ、何も考えなくていいんだとほっとすることもある。リフレッシュするというか、日常生活に戻るためのリハビリが必要だと感じる。少しの間、全部をばーっと投げ出すような」
 どんな批判にさらされてもずぶとく振る舞ってきた岡田にも、07年12月に日本代表監督に就任してからためてきた疲労は色濃い。3戦全敗で終わった98年フランス大会で感じた周囲の過熱ぶりとの温度差は今回も同じだ。それでも、サッカーから離れたいという心境は一時的なものだと断言している。忙しいスケジュールを縫ってJリーグ観戦にも足を運ぶ。12年前に「人生10年分の経験をした」と話し、サッカーから距離を置こうとした当時には考えられなかったことだ。
 「12年前は、W杯8カ月前に監督になってともかく予選を突破して、その勢いでわけのわからないまま無我夢中でやっていた。敗退してフランスに残って試合を見たけど、観客席からピッチを見て、えっ、おれはあそこでやっていたんだと。余裕がなくて中にいる時はゲームのことしかなかった。今回は試合前にスタジアムの雰囲気を楽しむこともできた。W杯に参加したという実感がある」
 帰国直後は「これから何をするかは白紙状態」と話した。進むべき道は、日本人監督として唯一、W杯の舞台に2度までも立ったからこそ見え始めている。

 「W杯は自分を大きく飛躍させてくれる、乗り越えるべき壁だったのかもしれない。決勝をテレビ中継で見て、ああ、すべて終わったんだなと無性にさみしかった。競り合うライバルがいて、負けて悔しい時もあるけど、そいつが急にいなくなって感じるさみしさのような。W杯は自分にとってはライバルだったのかもしれない。いろんなものを犠牲にして、いろんな人を巻き込んで戦ってきたから。自分は次にどこにチャレンジしていくのだろうか」
 この1カ月の間に、非公式なものを含めJリーグやアジアの代表チーム、欧州クラブなどから監督就任の話を受けたが、吟味した上ですべてを断った。ただし、12月以降は一切のスケジュールを入れていない。言葉にはしないが、現場の魅力に取りつかれたのは容易に想像できる。視線の先にあるのは海外進出だ。・・・

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