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朝日新聞社

大阪地検 はびこる病理 続・FDデータ改ざん事件

WEB新書発売:2010年10月15日
朝日新聞

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 「最強の捜査機関」と呼ばれてきた地検特捜部。そのエースに続き、元トップと元ナンバー2が2010年10月1日、逮捕された。大阪地検特捜部が押収したフロッピーディスク(FD)のデータ改ざん事件。エリート組織の内側で、検事らをむしばむ病理がはびこっていたのか。検察組織を揺るがす事件の解明は始まったばかりだ。

「割り屋」の後輩、重用/主任検事に次々指名

 「来るなら来い、という気持ちだ」。10月1日、最高検から呼び出しを受けた大阪地検特捜部の大坪弘道・前部長(57)は周囲に語り、大阪地検が入る大阪市福島区の大阪中之島合同庁舎に向かった。9月28日まで連続して聴取されたあと、有給休暇を取って親族宅に身を寄せていた。
 知人らにも電話し、身の潔白を説明していた。
 証拠品のフロッピーディスク(FD)のデータを意図的に書き換えたと聞いていないし、自分のところで握りつぶすほどばかじゃない――。
 前部長を知る検察関係者は「隠蔽(いんぺい)が本当なら、自分に尽くしてくれた部下に情がわいたのか」と衝撃を語る。
 大坪前部長は、中国山地の山あいの町、鳥取県智頭町出身。中央大卒業後、28歳で司法試験に合格した。「弱者を助けたい」と弁護士を志したが、大学OBの元検事から「検察は国民の最後のよりどころだ」と言われ、検事の道を選んだ。
 若手時代、特捜部の応援に入った事件で、取り調べた中年の男が新婚と聞かされた。気の毒で逮捕をためらい、主任検事からしかられたことがある。情に厚く、相手の身になって考える。その人柄で、重要な供述を引き出す「割り屋」として開花した。
 東京地検特捜部時代、1995年のオウム真理教事件の取り調べで、幹部信者にサリン製造方法を語らせた。その前後に在籍した大阪地検特捜部でも数々の事件でキーマンとなる関係者の取り調べを任され、組織の期待に応えた。「大坪に助けられた」。特捜部OBは今でも感謝する。
 「不正義や欺瞞(ぎまん)、癒着が隠れている。グレーに見える黒を暴くのが、検察の仕事だ」。2008年秋、念願の特捜部長に就任した時の会見ではこう語った。「贈収賄だけが特捜部が狙う悪ではない」と、郵便法の罰金刑の規定を駆使し、企業が郵便割引制度を悪用して数百億円もの郵便料金を免れた事件を摘発した。
 一方で、大手商社が被害者とされた詐欺事件を自身で手がけた際、「露骨な利益誘導や脅迫まがいの取り調べがあり、捜査手法が強引だ」と06年の一審判決で批判され、無罪を言い渡されたこともある。
 特捜部長に就任してからは、同じ「割り屋」の前田恒彦容疑者(43)=証拠隠滅容疑で逮捕=を重用した。部長になって初めて指揮した音楽プロデューサーの小室哲哉氏の詐欺事件で、前田検事を主任に充てた。郵便法違反事件をきっかけに、自称障害者団体に偽の証明書が厚生労働省から発行されていたことが明らかになると、その主任にも指名した。
 10年5月、証明書発行事件の公判で、前田検事の捜査チームが関係者からとった供述調書の大半が「誘導でつくられた」などと証拠として採用されないと、大坪前部長は前田検事を夜に呼び出して会食し、励ましていた。

 佐賀元明・大阪地検特捜部前副部長(49)も、前田検事の手腕を高く買う上司だった。・・・

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