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教育・子育て
朝日新聞社

お手本は元ヤンチャ 生徒とご近所「ナナメの関係」

初出:2011年2月8日〜3月1日
WEB新書発売:2011年3月11日
朝日新聞

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◇お手本は元ヤンチャ/ご近所300人が学校応援団
◇「姉と兄」へ、素顔を出せる部屋
◇希望くれた部屋、今度は恩返し
◇桃の和菓子、結ぶ縁
◇土曜の朝の笑い声、DJの時間
◇一緒に勉強、時々おしゃべり
◇気づけば汗だく、鉄板の魔法
◇強くなるには「夢より目標」
◇キムチ作り奮闘、韓国に興味
◇オジサンと「史上最弱」返上だ
◇不ぞろいのすしも竹輪もご愛敬
◇支えがある、厳しくても働ける
◇畑のおばちゃんと「命」語った
◇ハングル学ぶ母に希望もらった
◇そうか、「それもそうやなあ」
◇何でも自由に描いていいんだ
◇受験前に餅つき「最後まで粘れ」
◇生徒も大人も、つながって元気


お手本は元ヤンチャ/ご近所300人が学校応援団

 その人が入ってきた時、大阪府池田市立池田中学校の多目的ホールに集まった3年生から、「おおー」と声がもれた。
 筋肉質のごつい体。あごにはヒゲ。黒い革のスーツに身を包み、凝ったフレームのサングラスをつけている。

 今来(いまき)淳平君は「うわ、黒っぽいオーラの人やなあ」と驚いた。児玉周平君は「どんな話、すんねやろ」と身を乗り出した。
 「その人」は池田中OBの今福彰俊さん(42)。毎年11月にある進路指導講演会に招かれて3年目になる。少し早口で始めた内容がまたすごかった。
 「中学の時はすごいヤンチャ。けんかが強い、手が早い。先生を一番殴っとった。でも間違えんといてや。ヤンチャがエライんやないで」

    □    □

 池田市は大阪の北部に位置する人口10万人ほどのベッドタウン。池田中は駅から歩いて10分ほどの住宅街にある。
 公立中には様々な生活環境で育った子どもが集う。社会が多様化し、教師のモノサシだけでは対応できないことも増えた。ならば学校を近所に開放し、「ご近所力」にとことん頼ろう。そんな思いで4年前、周辺住民らを巻き込んだ学校応援団「マイタウン・プロジェクト」を立ち上げた。約300人が登録し、日常的に生徒とかかわる。
 今福さんが呼ばれたのもその一環だ。身近な先輩の一人として、ケンカに明け暮れた「ヤンチャな男」が空間デザイン事務所の社長になるまでを40分かけて語った。

    □    □

 学校で暴れていたのは、目的がなかったから。中3の春、ある教師に「足が速い。君はダイヤモンドの原石や」と言われて一変した。「よし、高校へ行ってラグビーやろう」。推薦でスポーツの強豪校へ。大卒後、広告会社勤務を経て空間デザインの道に進み、28歳で社長になった。「夢を持って走ったら支援してくれる人に出会う。チャンスは、こうありたいと思っている人だけにくるねん」
 今福さんの口調が熱を帯びてくるにつれ、聞いている生徒たちの目も輝いていく。
 「黒っぽいオーラ」に圧倒されっぱなしだった今来君は「枠にはまらない生き方がほんまにあるんや」と感心した。
 今来君は友達とバンドを組んでいる。将来の夢はギタリスト。受験を控え、最近は感情の起伏が激しくなったと感じる。「『悲しい』と『楽しい』が交互に来る感じ」。落ち込むと「自分には何もできない」と思ってしまう。
 そんな時、どうするの?
 「自分の部屋で、じっと時間が経つのを待つっていうか」
 ギタリストになる方法はわからない。でも、今福さんの話を聞いたら、「中学ン時はどんな夢でも見ていいんだ。落ち込むことはないんやな」と安心した。勉強の合間に、一日少しの時間でもギターにさわるようになった。
 身を乗り出して聞いていた児玉君の夢は考古学者。「無理だと決めつけず、今からでもがんばれば、自分もすごいところまで行けるかも・・・

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