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経済・雇用
朝日新聞社

青森アワビ5万円、南部鉄瓶4万円 中国に浸透する「みちのく」

初出:2011年1月18日〜2月22日
WEB新書発売:2011年3月11日
朝日新聞

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◇みちのく、中国に浸透
◇「ニッポン」を前面に
◇青森のリンゴ、定番に
◇駆け足ツアー転換狙う
◇市場に活路、試行錯誤
◇海渡り互いを知った/夢や活躍の場、求めて


みちのく、中国に浸透

 猛スピードで日本を追い抜き、世界第2位の経済大国に躍り出た中国。2011年も13億人の巨大市場と広大な国土をもつ超大国が、世界への影響力と存在感を増すのは確実だ。日本海をはさんで向き合う東北6県とのヒト・モノ・カネの往来も急速に活発化し、新たな世紀を迎えている。その最前線を双方の現場から報告する。まずは海を渡ったサクランボの物語からひもとこう。

山形のサクランボ、技術根付く/旅順

 中国の大地に、山形生まれの240本のサクランボの木が根を張っている。日露戦争の激戦地、大連市旅順口区。その北西部に位置する鉄山街道対庄溝村だ。「佐藤錦です。夏にとびきり甘い実がつきますよ」。案内してくれた村長の王敏さん(45)と畑を管理する梁恩堂さん(50)が教えてくれた。

 話は2000年にさかのぼる。日中東北開発協会が都内で主催した昼食会で、デザートの佐藤錦をほおばるなり、「うまい」とうなった人がいた。当時の大連市長、薄熙来さん(現重慶市書記)だ。薄さんはその佐藤錦を山形から持参した日本地下水開発株式会社会長の桂木公平さん(84)に、旅順での栽培指導を依頼した。
 「熱意に動かされた。日本人がすごいっていうところを見せたかったしね」と話す桂木さんは翌01年、山形県職員OBや東根市の農家の協力を得て、対庄溝村で佐藤錦栽培プロジェクトに着手した。
 もともと一帯は中国品種のサクランボ「紅灯」を育てている畑だった。だが、土はやせていた。肥やしにするため、トウモロコシや大豆を植えることから始めた。
 地元農家の信頼を得ることにも苦心した。100人近くに教室で理論を、紅灯畑で実地を教えた。枝を水平に伸ばす剪定(せんてい)方法、摘果(間引き)のやり方、わらを石と一緒に地中に埋める工夫――「知らないことばかり。みんな半信半疑でした」と梁さんは振り返る。でもやってみると、より大きく、より甘い実がついた。
 佐藤錦の1メートル足らずの苗木を山形から持ち込み、2ヘクタールの畑に植えたのは3年目の03年だ。梁さんが山形方式で管理し、8年間で3メートル近くに育った。2010年夏の実はまだ小ぶりのMサイズながら、糖度は18度で紅灯の14度より甘くなった。
 山形方式で中国品種のブランド力も上がり、この10年でサクランボ畑は8倍の約50ヘクタールに拡大した。農家の収入は約3倍になり、北京五輪の公式果物にも指定された。佐藤錦の畑はモデル農園として、遠方からの見学者も少なくない。
 〈公平友誼園区〉。畑の一角に桂木さんの名を刻む石碑がある。旅順政府が、損得抜きで地元に貢献してくれた桂木さんの「友情」をたたえた碑だ。副区長の張文哲さんは言う。「桂木さんは中日友好の懸け橋、平和の使者です」
 対庄溝村の佐藤錦は2011年初夏、一回り大きくなって、いよいよ中国人の食卓にデビューする。

南部鉄瓶「伝統感じる」/上海

 岩手の伝統工芸品、南部鉄瓶を2010年1千個以上売った店が上海市にある。高級茶館「大可堂」だ。
 3階建ての洋館の店に入ると、高さが1・6メートルある巨大南部鉄瓶が迎えてくれた。岩手県が上海万博で展示した特注品だ。1階には主力商品の年代物プーアル茶が並ぶ。2、3階は会員制の個室だ。
 大可堂は2008年に南部鉄瓶の販売を始めた。その理由と買い手について、曹正良部長(26)は「近代中国には優れた鉄瓶がほとんどありません。最近は浙江省などで作っていますが、上質とは言えない。上海では新しい形の『お茶文化』を追究する中産階級が増えており、彼らが南部鉄瓶を強く支持しています」と話した。
 現在、奥州市の水沢鋳物工業協同組合を通じて3社と契約を結んでいる。注ぎ口が高い位置にある鉄瓶など、大可堂の得意客の要望に応じた特注品も誕生している。
 1階のサロンで、会社社長の李雪峰さん(32)と銀行マンの呉彦傑さん(25)がプーアル茶を楽しんでいた。店の茶技師の女性が急須に茶葉を入れ、南部鉄瓶で沸かした湯を注ぐ。「南部鉄瓶を使うと水が軟らかくなる。100度に近い高温を維持できるのもいい。お茶がおいしくなるんです」と2人は口をそろえた。

 呉さんはトヨタ車に乗り、日本アニメの大ファン。2010年3月に3500元(約4万4千円)で初めて南部鉄瓶を買い、気に入った。李さんは上海万博の展示で知って購入。ほとんど毎日使っているという。
 「お茶を飲むときには中国の数千年の歴史を感じる。伝統のある日本の南部鉄瓶にも、同じような価値を感じるのです」と李さん。これまでに10個ほど買い、友人にも贈っているという。・・・

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