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政治・国際
朝日新聞社

独りテロリスト、欧州で増殖中

初出:2011年2月23日〜2月27日
WEB新書発売:2011年3月11日
朝日新聞

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◇組織無縁、独りテロ/「ノーマーク」捜査側衝撃
◇ドイツの若者が「殉教」/イスラムに改宗、過激派に
◇テロを支える女たち/ネット通じて若者たちを扇動


組織無縁、独りテロ/「ノーマーク」捜査側衝撃

 イスラム・反イスラムの激しい対立を呼び、世界の様相を一変させた米同時多発テロから、2011年で10年。欧州で産み落とされるテロリストたちの姿を追う。国際テロ組織アルカイダのような組織背景を持たない移民や、キリスト教からイスラム教に改宗して母国にテロをしかける若者など、新たな「ジハーディスト」が現れている。
 〈ジハーディスト〉 「ジハード」は、「全力を尽くして努力する」という意味のアラビア語。イスラム教の文脈のなかで、神の道のために異教徒と戦う「聖戦」という限定的な意味も持つ。「ジハーディスト」は9・11以降、イスラム過激派のテロ実行者を指す造語として欧米で使われるようになった。

移民・地雷被害・母は不遇/デンマーク

 米同時多発テロから9回目の「9・11」を翌日に控えた2010年9月10日午後1時すぎ、デンマークの首都コペンハーゲン中心部のホテルで轟音(ごうおん)が響いた。爆発が起きた1階トイレから出てきたのは、飛散したクギで血だらけになった義足の男だった。
 「クレジットカードも携帯電話も持たず、身分証はすべて偽物。義足の製造番号も削られていた」と捜査を指揮するスベン・フォレヨ氏は明かす。欧米の情報機関に「義足のテロリスト予備軍」を照会したが該当はなかった。全くノーマークのテロリストの出現に捜査側は色を失った。
 地元紙が男の写真の鼻の特徴からボクシング経験者と見立てて欧州各地のジムを取材した結果、ベルギー東部リエージュに住むアマチュア選手、ロルス・ドゥカイェフ容疑者(24)と判明した。ベルギー国籍のチェチェン人で、熱心なイスラム教徒だった。

 警察の調べによると、標的はデンマーク紙ユランズ・ポステン。2005年、イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画12枚を掲載し、イスラム世界から猛反発を受けた新聞だ。容疑者は同紙に爆弾を送りつけようと計画し、ホテルで仕上げの作業をしていて暴発させてしまったらしい。
 背後関係などについては黙秘を続けている。爆発物の構造から、ロシアからの独立を目指してテロ攻撃を続けるチェチェン・イスラム過激派の手ほどきを受けた可能性が指摘されるが、真相は不明だ。
 ただ、母親と暮らしていたベルギーでの足跡をたどると、横顔が浮かび上がった。
 ロシア南部チェチェン共和国から難民として移住。05年から3年間、地元大学で建築を学んだ。ボクシングを5年間指導した警察官のアルベール・シベンさん(60)は「彼は仏語もマスターし、社会になじんでいた」と振り返る。
 大学で容疑者を指導したノルベール・ネレス学科長(54)は、ロシア軍の地雷で幼少期に右足を失った体験の影響を懸念する。「医師だった母親の免許がベルギーでは認められず、つらい仕事を強いられていた。その姿に社会の不公平さへの怒りもため込んでいたかも・・・

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