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医療・健康
朝日新聞社

闘病と仕事を両立させたい  〜患者力アップ作戦〜

初出:2011年1月27日〜3月31日
WEB新書発売:2011年4月8日
朝日新聞

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【働く】
 闘病も仕事も人生
 療養と収入、支えあり
【依存症】
 害の認識、治療の一歩
【くすり】
 効用と痛み、表裏一体
【お年寄りとくすり】
 のみすぎ注意、処方薬
【ジェネリック医薬品】
 効果同じ、財布に安心
【痛み】
 我慢せず早めに受診
【住まい】
 自宅で療養、快適に
【病と向き合う】
 生きよう、自分らしく
【減災】
 身を守る、日頃の準備


【働く】 闘病も仕事も人生

 最近は、がんのような病気でも手術後は通院治療が珍しくなくなりました。その分、仕事との両立や新たな職探しが課題になっています。仕事は収入の柱であり、生きがいともなります。がんで20回入退院を繰り返しながらも仕事を続けてきた公務員の男性や、がん患者の就労を支援する会社の話から、仕事と闘病の両立について考えます。

できること全力
 広島県内の公務員男性(49)は、がんが発覚するまでは「モーレツ職員」だった。
 花形とされる企画の部署で、人がやりたがらない仕事を進んで引き受け、残業もこなした。通勤で時間を無駄にしたくないと、自宅は職場の近くを選んだ。仕事の合間に英語も勉強した。
 そのかいあって、2007年春、国の公益法人の米国支部への出向が決まった。事実上の「栄転」だ。
 荷出しも終え、渡米を心待ちにしていたころ、便意があるのに排便できない状態が続いた。渡米予定の5日前に総合病院を受診。検査でへそと膀胱(ぼうこう)の間にできる尿膜管がんと分かった。症例は少ない。
 渡米は中止、即入院した。手術を経て、その年の暮れまで270日入院した。「天国から地獄。人生の分かれ道とはこのことだと思った」
 08年初め、元の職場に復帰した。「前のように仕事できるだろうか」。恐る恐る再開したのもつかの間、3月に、がんの再発が見つかった。
 年度が変わり、窓口業務の部署に異動した。仕事は、文書の体裁のチェック、データの集計・処理が中心。自分がいなくても仕事が回るよう、いつも2人以上で仕事した。
 「皆の『最低限』の水準にプラスαを加えるのが自分に求められた仕事、といつも言い聞かせた」
 1回目の入院から約3年間で、抗がん剤治療などで10日間ほどの入院を19回繰り返した。計5種類の抗がん剤の投与を計30回。入院の間は激しい吐き気に苦しむ。
 だが、退院後は職場に戻った。上司には病状や治療予定をその都度伝えた。有給休暇を使い、早退もした。「周りからしたら自分はお荷物だ」と思ったこともあるが、「少しでも役に立てる」という自負が勝った。職場の理解や公務員ならではの制度もあったから続けられたとも思う。「でも、権利の行使は最小限にとどめたいと思ってきた」。いま20回目の入院中だ。

 闘病と仕事と並んで、力を入れていることがある。
 最初の入院から「ガンファイター」の名で、インターネットでブログ(http://melit.jp/voices/fight/)を続けてきた。検査データや病状の変化、医学事典やネット上の詳細な情報を日々更新している。その量4千ページ。症例の少ない尿膜管がんの情報を得るには、まず自分の情報から公開を、と思ったからだ。
 自分と同じがんで家族を亡くしたオランダ在住の女性が作った医療情報の英語サイトを翻訳し、ネットで公開もしている。これまで2回、女性を訪ねてオランダへ渡った。
 何事も一生懸命なのは、10歳で母を胃がんで亡くし、「人の命には限りがある」と学んだからだという。「病気との闘いが、日常生活の一部と受け入れるしかない。俺は役所の課長補佐止まりか、なんて思う時もあるけど、『できることをしよう』というのが、自分の生き方だから」

周囲の意識カギ
 「働くことは、本人の存在証明。社会とのつながりを持つ意味があるんです」
 がん患者の就労コンサルタント会社「キャンサー・ソリューションズ」(東京)の桜井なおみ社長(43)は言う。
 09年に同社を設立。がん患者の就労問題を訴える講演を続ける。製薬会社などの依頼で、がん患者の生活ニーズ調査もする。
 桜井さん自身、壁にぶち当たった経験がある。設計事務所にいた04年7月、乳がんが判明。入院を経て翌年4月に職場復帰したが、会議と通院日が重なることが増えた。「また欠席かよ」「もう治ったんじゃないの」と、取引先から言われたこともある。
 長期休職した後ろめたさもあり、次第に居心地が悪くなった。06年秋、上司に「工程のめどが立たない人間はいらない」と言われ、退社を決意。パートの仕事をしながら通った公共職業安定所(ハローワーク)では、「病気を治してから来て」と言われた。
 退社から約1年後、再就職を果たす。その傍ら、東京大学の社会人講座に通い、がん患者の就労調査を実施。「仕事を続けたい」患者は76%に上った。別の調査で、定収入がある20〜69歳の67%ががんを機に減収を経験していた。

 「最近のがん治療は通院治療が増え、働きながら治療を続ける患者が増えた。だが、がんと共に生活するという認識は広がらず、長期通院治療のための休暇など、制度作りも不十分。企業や社会の意識改革が必要です」・・・

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