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朝日新聞社

備え空白の30km圏  西の原発銀座・福井

初出:2011年3月28日〜4月1日
WEB新書発売:2011年4月22日
朝日新聞

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◇備え空白の30キロ圏/防災計画見直しは必至
◇「欠陥」後追いの補強/県内事業者、地元広報に力
◇「フクシマ」で逆風一気/事故の衝撃、世界めぐる
◇問い直される安全策/統一選、「脱原発」の訴えも
◇「負の連鎖」の教訓/生かせるか、県は正念場に


備え空白の30キロ圏/防災計画見直しは必至

 「骨組みだけになってませんか……」。唐突にテレビのキャスターが声を上げた。直方体の原子炉建屋の空色の壁が、跡形もなく消えていた。
 2011年12日午後3時36分ごろ、炉心溶融が始まった福島第一原発1号機の建屋で、水素爆発が起きた。県庁10階の原子力安全対策課に緊張が走った。次々と流れるテレビ速報や枝野幸男官房長官の会見を横目に、課員らは張り出した紙に聞き取った断片情報を書き記していった。

 「起きてはいけないことが起きた……」。過去幾多の原発トラブルと向き合ってきた岩永幹夫課長も、言葉が出なかった。だが、それはまだ始まりに過ぎなかった。3号機や4号機の使用済み燃料プールでも爆発は起きた。
 徐々に明らかになる放射能漏れの事態を受け、西川一誠知事は15日の県議会・全員協議会で「避難態勢の色々な見直しが必要だ」と県の原子力防災計画の改定に言及した。
    ◇  ◇
 原発事故時の行政の対応をまとめた同計画は、敦賀原発1号機が運転を始める前の1969年に策定された。多くの部分は国の原子力防災指針に準ずるが、放射能漏れの際の退避は「より早く」(危機対策・防災課)という観点から国の基準よりも厳しい。
 一方、人体に影響が及ぶ危険がある距離として、原発の半径10キロ圏を避難対策の重点地域とした点は同じだ。
 だが、福島第一原発の事故は、想定をはるかに超えた。福島県は27日現在、半径20キロ圏内に「避難指示」を出し、「屋内退避指示」だった20〜30キロ圏内を「自主避難」の対象としている。
 県内で原発の「10キロ圏内」の人口は、最も少ない高速増殖原型炉もんじゅの周辺で約3千人、最多の大飯原発周辺だと約2万3千人にのぼる。だが県は、半径20キロ、30キロと範囲を広げた場合に対象となる人口を試算していない。
 若狭湾の各原発を中心に半径30キロの円を描くと、東は鯖江市、南は滋賀県、西は京都府が含まれる。これまで原発と関わりが薄かった自治体は今、戦々恐々の様相だ。
 大飯原発の20キロ圏内に全域が入る小浜市の松崎晃治市長は「安全神話が崩れた」と言い切った。敦賀原発から30キロ圏内の越前市の防災会議で、「計画を見直すべきだ」と切羽詰まった意見が相次いだ。
 県境から敦賀原発まで最短13キロの滋賀県では、嘉田由紀子知事が国の指針を「現実離れ」と指摘し、同県の防災計画を見直す考えを示した。高浜原発から20キロ圏内の京都府舞鶴市の防災担当者も、計画見直しの必要性に言及した。
    ◇  ◇
 波穏やかな内浦湾を挟み、高浜原発の対岸にある高浜町音海地区。2月末現在、71世帯155人が暮らす。
 集落と町の中心部をつなぐのはたった一本の県道だ。道沿いに高浜原発があり、大事故や放射能漏れが起きれば陸上の避難路は断たれる。
 2008年の県の原子力防災訓練で、住民は海上保安庁の船で避難した。前回はバスを使ったが、原発の前を通ることに今回異論が出た。集落の男性(63)は「時化(しけ)だと船が出せない。悪天候ではヘリコプターも飛べない。どうすればいいのか」と気をもむ。
 県内の他の原発でも、近隣住民の避難ルートの確保は立地以来の大きな課題だ。いずれも山を切り開いて造った道がほぼ1本あるのみ。放射線にさらされる「孤立集落」が出る恐れは十分にある。
 敦賀市の市民防災課の担当者も「地震、津波、土砂崩れなどが重なる複合災害が起きたら、コンクリート造りの避難所で放射能を避けながら救助を待つ以外ない。改めるべき点は多いだろう」と話す。県平和環境人権センターの吉村清・特別幹事は「県は交付金をもらっているのに、防災道路すら造ろうとしない」と批判した・・・

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