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科学・環境
朝日新聞社

世界遺産登録にほんろうされる小笠原

初出:2011年7月4日〜8日
WEB新書発売:2011年7月27日
朝日新聞

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◇豊かな固有種、残すため
◇森はフェンスの向こう
◇上陸ルール、在り方模索
◇空港構想、島民ほんろう

 小笠原諸島の世界自然遺産への登録が決まった。固有種は、カタツムリ類100種、樹木やシダ植物など161種、昆虫類379種に上る。オガサワラオオコウモリなど絶滅が危ぶまれる希少種も多い。小笠原を守る島民たちの試行錯誤を追った。


豊かな固有種、残すため

 深い緑の山並み、背後から立ち上がる入道雲。6月中旬の小笠原諸島・母島は強い日差しが降り注ぐ。

 父島からの定期船「ははじま丸」が接岸した。岸壁に立つ東京都自然保護員の向哲嗣(むかいあきつぐ)さん(32)が、声を張り上げた。
 「海水マットで靴底の泥落とし。お願いします」
 船のタラップを下りた観光客らは約60人。緑色のマットに一人ずつ、靴の裏をこすりつけてゆく。
 マットには海水をたっぷり含ませてある。ヒルのような姿をした外来種のウズムシを海水で駆除する。カタツムリの天敵だ。泥と一緒に靴の裏に付着して入り込む恐れがある。母島にはまだ侵入しておらず、マット作戦が、カタツムリを守る最後の砦(とりで)となっている。
 父島には1980年代以降に定着。希少な陸産貝類に壊滅的な打撃を与えた。東北大の千葉聡准教授(進化生態学)は「このままでは、在来種の陸産貝類は、あと10年で父島から姿を消す恐れがある」と話す。
 在来の陸産貝類は100種余り。9割以上が固有種だ。世界遺産の選定でも固有種の多さが評価された。
 母島南部の薄暗い森。東北大大学院生の和田慎一郎さん(26)の調査に同行した。黒光りする貝を見つけた。殻が2センチほどの固有種「コガネカタマイマイ」の健在な姿が確認できた。

 カタマイマイ類は、約300万年前に島へ流れ着いた祖先から20種以上へと枝分かれした。大陸と地続きになったことがない小笠原。隔絶された地での独自の進化を体現する生物だ。
 東京都は近く水際対策を強化し、ははじま丸の利用者が海水マットを踏む機会を2回に増やす。
 「失敗すれば、父島と同じ轍(てつ)を踏む」。小笠原支庁の今村滋課長は、危機感をにじませる。
 「世界遺産への登録は、ゴールではない。むしろ・・・

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