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政治・国際
朝日新聞社

世界はテロの恐怖に覆われた

初出:2011年8月25日
WEB新書発売:2011年9月9日
朝日新聞

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 2001年9月11日の米同時多発テロから、まもなく10年。この間、世界で不信の連鎖が途切れることはなかった。テロ事件が相次ぎ、人種や宗教を理由にした犯罪も多発、国家は市民の監視を強めた。11年5月、オバマ米政権は、国際テロ組織アルカイダ指導者のオサマ・ビンラディン容疑者を殺害。だが、アフガニスタンとイラクを舞台とした勝者の見えない「対テロ戦争」は、命と富を犠牲にしながら、なお続いている。

◇テロ組織の現状は? アルカイダ分派、活発化
◇アフガン・イラク戦争なぜ? 名目はテロとの戦い
◇米社会どう変わったか? 警戒の目、空港で街で
◇止まらぬ犠牲、膨れる戦費
◇米市民@グラウンド・ゼロ
◇裏切りが生んだ「怪物」 ビンラディン@スーダン


テロ組織の現状は? アルカイダ分派、活発化

 11年5月、アルカイダは米軍の殺害作戦で、指導者のオサマ・ビンラディン容疑者を失った。オバマ政権は「米本土で壊滅的攻撃を実施する能力をほぼ喪失させた」と、アルカイダ掃討に自信をみせる。
 アルカイダは新指導者にアイマン・ザワヒリ容疑者を選び、態勢を立て直している。ただ、同容疑者はビンラディン容疑者に比べてカリスマ性が乏しく、「全世界的な聖戦」を呼びかけるだけの影響力はないとみられている。米軍や米中央情報局(CIA)はこの機会に、ほかの主なアルカイダ幹部の逮捕や殺害を進めて、指導部を壊滅させる考えだ。
 米国はむしろ、アルカイダから枝分かれした組織によるテロを警戒する。なかでも、イエメンを拠点とする「アラビア半島のアルカイダ」、ソマリアの「シャバブ」は動きが活発だ。ともに政情が極めて不安な国を隠れ場所とし、ネットで世界各地の「同志」にテロへの参加を呼びかけている。下着に爆弾を仕掛けたり、貨物機を狙ったりするなど、新たな手法を編み出しており、対策が難しい。
 ただ、10年末から続く「アラブの春」と呼ばれる中東や北アフリカの民主化の動きによって、「暴力のみが変革をもたらす」とするアルカイダの主張は覆されつつある。
 米国が親米的な強権国家との関係を重視する「二重基準」の外交を続けてきたこともあり、この地域の人々は反米的なアルカイダを支持しがちだった。米国は今後、地域の市民が望む形の民主化を後押しし、こうした土壌を変えていくことも必要になる。


アフガン・イラク戦争なぜ? 名目はテロとの戦い

 米国は、同時多発テロの直後、ビンラディン容疑者が当時いたアフガニスタンの政府に、同容疑者の引き渡しを求めた。しかし、同国の政権を握っていたタリバーンは、この要求を拒んだ。そこで米軍などは01年10月に攻撃を始めた。
 開戦後まもなく、タリバーンは政権を追われた。だが、暫定政府ができると反政府勢力として米軍など外国軍と徹底的に戦うようになった。
 タリバーンとアルカイダの関係は弱まったとみられている。それでも米国は、アフガンが再びアルカイダの隠れ場所となることがないよう、平和と安定の回復を目的に軍事作戦を続けている。
 イラクについては、当時のサダム・フセイン政権が、生物、化学、核といった大量破壊兵器を隠し持っている、という疑惑が直接の理由だった。
 ブッシュ政権は、フセイン政権がアルカイダの工作員を訓練するなど、テロリストを支援しているとも主張。大量破壊兵器がアルカイダの手に渡れば、米国で大規模なテロが再び起こりうる、と開戦を正当化した。
 しかし、大量破壊兵器はみつからず、フセイン政権とアルカイダとのつながりもはっきりしなかった。戦争の本当の目的はイラクの石油権益確保だったのではないか、という批判も強い。ブッシュ政権が、「ネオコン」と呼ばれる保守派の政策に従って、フセイン政権に代わる親米政権を強引につくろうとした、という見方もある。
 両国とも治安は安定しないが、オバマ政権は財政難と厭戦(えんせん)的な世論を背景に、戦争からの出口を急ぐ。


米社会どう変わったか? 警戒の目、空港で街で

 同時テロを受けて米国社会は驚くほど変質した。移民や外国人に開かれた自由の国だったのが、だれであれ米国人以外の者には警戒の目を注ぐ国になった。
 かつて米国の空港では乗客が身元を照合されることは少なく、荷物を調べられることもまれだった。しかしテロ後は一変・・・

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