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朝日新聞社

放射性物質に汚染された「食」 今後の最大の焦点は?

2011年09月22日
(7700文字)
朝日新聞

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 見えない放射能汚染が、「食」を脅かしている。東京電力福島第一原発の事故発生から半年たっても、消費の現場には不安が残る。出荷停止が解除され、放射性物質の値が国の暫定基準値以下、あるいは不検出でも消費者の不安をぬぐえず、生産の現場は戸惑う。住民がふたたび暮らすために欠かせない除染作業も、政府はまだ具体像を描けていない。

◇「基準あいまい」食に不安 検査済みでも買い控えの動き
◇除染、手探りのまま 廃棄物の行き場、難題


「基準あいまい」食に不安 検査済みでも買い控えの動き

 東京都江東区の食品スーパー。精肉コーナーの棚に、国産牛の牛肉が並ぶ。パックの表には「検査済」のシール。納入業者が放射能検査をして太鼓判を押した牛肉だが、客の手は伸びない。
 3歳の子どもを持つ主婦(41)は「牛肉を買うならば豪州産。子どもに放射性物質を摂取させたくない」。別の主婦(33)は、子どもが4歳。肉も野菜も、西日本産を買うようになった。仙台市出身で東北を応援したい気持ちはある。しかし、「国の基準があいまいで、安心できない」。
 ある首都圏のスーパーは「本来夏は牛肉が売れるのに、和牛は3割減った」と頭を抱える。
    ◇
 イオンは7月から、独自に牛肉を検査。国の放射性セシウムの暫定基準値、1キロあたり500ベクレルに対し、「検出されるのは高くても30ベクレル以下」(担当者)だが、消費者の不安は簡単には消えない。
 ある中堅スーパーは、北関東産の小松菜を2割値引きで売り、ようやく前年並みの売り上げを保つ。食材宅配サービスをてがける「大地を守る会」(千葉市)は7月、「子どもたちへの安心野菜セット」(宅配価格1980円)を発売した。北海道と甲信越、愛知県以西の野菜だけを集め、発送前には放射能検査する。7、8月の入会者は前年の2倍を超えた。
 一方、大手スーパーのいなげや(本社・東京都立川市)は、コメの売り上げが7月は前年比5・8%増、8月は9・1%増だ。売れ筋は2010年産や宮崎、高知の早場米。東北産の新米の汚染を心配した「買いだめ」とみられる。
 筑波大大学院の氏家清和助教(食料消費分析)は、福島、宮城、茨城各県の2011年産米について8月、既婚女性5614人(有効回答1760人)に聞いた。放射性セシウムが暫定基準値以下でも買わないと答えた人は、各県産米とも首都圏で5割以上、関西で6割以上にのぼった。不検出でも買わない人も、首都圏で約3割、関西で4割以上いた。
 「風評被害」の著書がある東洋大の関谷直也准教授(社会心理学)は「消費者は漠然としたイメージだけで買い控えているのでなく、勉強して自分なりに合理的に判断している。社会的に受け入れられる基準値を設定し、流通させる食品の放射線量の情報を十分に公開しないと、疑心暗鬼を止められない」と指摘している。
    ◇
 福島県は全国2位のモモの産地。主力の「あかつき」は、18年連続で皇室に納めている高級品だ。同県伊達市の専業農家、丹野収一さん(59)の果物畑は、東京電力福島第一原発から約60キロ離れている。晩生種「ふくよか美人」はたわわに実り、収穫を待つが、丹野さんの顔は暗い。

 出荷最盛期の8月中旬、卸値は1キロあたり200円を割り込んだ。平年の半値以下だ。「例年より色もよく、収穫量も多かった。モモを育てて35年、こんな値段は見たことがない」と丹野さん。
 最初から安値だったわけではない。JA伊達みらいによると、出荷が始まった7月上旬の卸値は、平年より1割ほど安い1キロあたり370円ですんでいた。農畜産物の出荷制限が順次解除され、風評被害は沈静化しつつあった。
 ところが、7月下旬、汚染牛問題が拡大。汚染された稲わらを食べた牛の肉が全国各地に流通したことがわかり、「食」全体に対する不安が一気に高まった。
 伊達市内で収穫した「あかつき」から、暫定基準値を超える放射性物質は検出されていない。JA伊達みらいの萩原嘉昭常務理事は「汚染牛の問題以降、放射性物質がわずかでも検出されると、消費者は受け付けない」と戸惑う・・・

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放射性物質に汚染された「食」 今後の最大の焦点は?
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見えない放射能汚染が、「食」を脅かしている。東京電力福島第一原発の事故発生から半年たっても、消費の現場には不安が残る。出荷停止が解除され、放射性物質の値が国の暫定基準値以下、あるいは不検出でも消費者の不安をぬぐえず、生産の現場は戸惑う。住民がふたたび暮らすために欠かせない除染作業も、政府はまだ具体像を描けていない。[掲載]朝日新聞(2011年9月8日、7700字)

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