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教育・子育て
朝日新聞社

橋下徹の「教育維新」は英断か、暴挙か

初出:2011年10月26日〜10月30日
WEB新書発売:2012年7月13日
朝日新聞

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 大阪府の人気知事、橋下徹氏が率いる地域政党「大阪維新の会」がつくった「大阪府教育基本条例案」が波紋を呼んでいる。成立すれば「教育の政治的中立」という戦後日本の大原則を根本から転換することになる。条例案が問うているのは何か。問題点はどこか。

◇橋下知事が決める教育目標
◇競争・成果主義を貫く
◇保護者も学校運営担う
◇どこが問題、どんな影響?
◇生きる「根っこ」切るおそれ(あさのあつこさん)
◇競争は必要 学力以外も評価を(乙武洋匡さん)
◇多様な価値観認めず時代錯誤(尾木直樹さん)
◇荒っぽいが、本質は公務員改革(藤原和博さん)
◇勝者と敗者生む企業の論理(志水宏吉さん)


橋下知事が決める教育目標

 大阪府の人気知事、橋下徹氏が率いる地域政党「大阪維新の会」がつくった「大阪府教育基本条例案」が波紋を呼んでいる。今の教育が保護者のニーズに応えていないのは、首長といえども口出しできない教育委員会制度に問題があるとして、知事が決めた目標に向かって努力させるピラミッド型組織に作り替えようとしているからだ。成立すれば「教育の政治的中立」という戦後日本の大原則を根本から転換することになり、影響は全国に波及しかねない。条例案が問うているのは何か。問題点はどこか。シミュレーションをまじえ考える。

◎20××年×月、知事が会見で発表――世界で勝てる人材育成
 「教育目標は『グローバル社会を勝ち抜く世界標準で競争力の高い人材を育てる』に決めました」。知事が記者会見で発表した。
 知事の目標に沿うよう、府教委は具体的な「指針」を示さなければいけない。教育委員会会議が開かれ、「難関大への進学者数増」「英語力の向上」「ディベート力の強化」の3指針が決まった。
 各府立高校の校長は指針をもとに、学校が目指す具体的な数値目標づくりにとりかかった。
 成績下位の生徒が集まるA高校の校長は悩んでいた。生徒の4割が卒業せずに辞めていく。先生たちは面談や家庭訪問を繰り返しているが、やる気を失った生徒が心を開くのには時間がかかる。具体的な数値目標と言われても……。考えたあげく、職員室に先生を集め、目標を発表した。「生徒の自尊心を高め、中退率を下げる」
 数字に出ない努力を続けている先生たちの表情がいらだったように見えたのは気のせいだろうか。
 でも文句を言う先生はいなかった。教員は校長の職務命令に従うと条例で決められているからだ。議論しなくて済むのは楽だが本音でぶつかり合うこともない。本当にこれでいいのだろうか――。


競争・成果主義を貫く

 きょうは、条例案を貫く「競争主義」「成果主義」について、その具体的な内容を報告する。教師としての資質や指導力に問題のある「不適格教員」の存在や、子どもの学力低下などの問題を受けて公教育へのまなざしが厳しさを増す中、橋下徹・大阪府知事率いる「大阪維新の会」は、先生たちを競わせて成果を厳しく問うことで現場は活性化するという。あなたはどう思いますか。

◎20××年×月 廃校の危機、迫る――定員割れ、校長も降格
 2年連続で受験者数が募集定員に満たなかったA高校。2012年の入試でも定員割れすれば統廃合の対象だ。
 校長は部活動や生活指導に力を入れてきた実績を学校のホームページでアピールし、中学生や保護者向けに学校の説明会もたびたび開いてきた。だが「不人気校」のレッテルをはがすのは難しく、中学校を訪ねても、進路担当教諭から「廃校の可能性がある高校に子どもを送り出すわけにはいかない」と言われてしまう。
 「先生、私たちの高校なくなるの?」。生徒に聞かれ、返す言葉がなかった。条例施行後、校長は「任期付き」となり、学校目標に照らして業績を評価されるようになった。このままでは校長自身も「任期中に結果を出せなかった」として、ヒラ教員に降格されそうだ。
 B高校の校長も憂鬱(ゆううつ)な日々を過ごしていた。2年連続で最低のD評価をつけた教員に「なぜですか」と連日詰め寄られているからだ。確かに、この教員は2010年より頑張っていた。でも教員の5%に必ずDをつけなければならない。B高校の教員数は60。その5%は3人だ。力量の劣るこの教員を入れざるを得なかった。
 2年連続のD評価は免職を含む処分の検討対象になる。「クビになれば、あなたを訴えます」。教員にそう言われ、校長は胃痛がひどくなった――・・・

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