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朝日新聞社

記者が消えた街で起こる無秩序 米「取材空白域」の深刻な実態

初出:2011年10月29日
WEB新書発売:2011年11月14日
朝日新聞

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 米国では経営不振から地方紙が撤退した街々で、公務員の不祥事や投票率の低下など予想されなかった現象が起きている。記者の取材が絶え、住民は頼るべき存在を失ったからだ。米連邦通信委員会(FCC)から委託されて全米のニュース需給事情を調べた元米誌記者スティーブン・ワルドマン氏にそうした「取材空白域」の実態を聞いた。

◇米で地方紙が激減、監視なき役人給与は大統領の倍にも
◇ニュースの発掘力、ネットは補えない 報道はNPOで


米で地方紙が激減、監視なき役人給与は大統領の倍にも

■スティーブン・ワルドマンさん/取材空白域を調査した元米誌記者

 ――リーマン・ショックから3年、米新聞業界の現状は。
 「暴風雨は脱しましたが、依然厳しい。新聞広告収入はこの5年で半減しました。その間にページ数を減らし、記者の賃金を下げ、記者の数を減らしました。休刊したのは212紙にのぼる。20年前、全米で6万人いた新聞記者が、今では4万人しかいません」

 ――記者減らしはどう進んだのですか。
 「まず削られるのは整理部です。見出しをつける作業などをする部署ですが、取材部門とは違い、読者から見えない部署だから。次は文化部。映画評や書評は、社員記者が書いたものである必要がないから。教育、裁判、環境、農業などの記者も軒並み減らされています。削られたのは、大切だけれど忙しいから読み飛ばそうと読者に思われがちな分野。米国ではそれを『ブロッコリー分野』と呼ぶ。栄養面では大事だが、味が味だから食卓では残してしまう野菜になぞらえた表現です」

 ――新聞社の編集局は様変わりしたと聞きました。
 「何かひとつ取材するたび、写真と動画を撮り、ネットに速報を送り、新聞原稿を書き、記者ブログを更新し、フェイスブックに書き込み、ツイッターにつぶやく。ひとり7役か8役。会社の机で余裕なく書き続ける姿は、飼育かごの中で回転車輪を走り続けるハムスターのよう。自虐を込めて『ハムスター記者』と呼び合っています」
    ◇
 ――報道内容に悪影響は。
 「深刻です。最も大変なのは地方取材です。小さな街の役所や議会、学校や地裁に記者が取材に行かなくなったのです。米国にはもともと、全州に記者を常駐させてくまなくカバーするような全国紙はありません。地元案件はもっぱら、地方紙かもっと小さなコミュニティー紙が取材報道してきた。頼みのローカル紙が休刊し、残った新聞でも記者が減らされた結果、記者が来ず報道もされない『取材空白域』があちこちに出現するようになりました・・・

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