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政治・国際
朝日新聞社

TPPの裏に潜むオバマの思惑 米国基準押しつけ、日本は何を得る?

初出:2011年10月28日〜11月11日
WEB新書発売:2011年11月11日
朝日新聞

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 日本国内で賛否の議論が沸騰している環太平洋経済連携協定(TPP)は、高い失業率に苦しむオバマ米政権にとっては、雇用を増やす頼みの綱だ。成長を続けるアジア・太平洋地域を巡る、中国との勢力争いという側面もある。

◇米浮揚へ頼みの綱
◇日本の損得、どう判断
◇減反やめ、海外に目を/佐藤彰一氏
◇アジア取り込み、米が必要/坂根正弘氏
◇「バスに乗れ」は米の焦り/加藤紘一氏
◇多国間交渉で主張反映を/川口順子氏
◇参加決めれば政権もたぬ/亀井静香氏
◇国際大競争時代、危機感を/江田憲司氏


米浮揚へ頼みの綱

 「TPPは野心的かつ次世代の貿易合意を目指すものだ」
 米国の貿易交渉役を担う米通商代表部(USTR)のカーク代表は2011年10月26日夕、ワシントンでの演説でこう強調した。オバマ政権は11年10月21日、ブッシュ前政権時代から懸案だった韓国、コロンビア、パナマとの二国間自由貿易協定(FTA)の批准を完了させた。次の目標のTPP合意に向けて政権内の意気は上がっている。
 オバマ大統領は2010年1月の一般教書演説で「今後5年で輸出を倍増させる」と打ち出した。9%台の高失業率が続くなかで、輸出倍増を通じて200万人分の雇用を支えるというのが大統領の目標。TPP合意は、その戦略の中心に位置づけられている。輸出倍増の期限とした2014年が近づくなかで、TPP早期妥結を求める姿勢は今、強まっている。
 米国が輸出増に頼る姿勢を鮮明にしているのは、マイナス面ばかりの米経済にあって、「輸出は前向きな要素の一つだ」(米ハーバード大のフェルドスタイン教授)というのが米国内の共通認識だからだ。「住宅価格下落」、「個人消費の不振」など八方ふさがりのなかで、ドル安を追い風に好調さを保っている輸出は、オバマ政権にとっては雇用増を確保するうえでの頼みの綱になっている。
 オバマ大統領は、1年後に再選をかけた大統領選を控えている。9.1%という異例の高水準を続ける失業率をどこまで下げられるかが、勝利のカギを握る。
 「世界にメード・イン・アメリカ(米国製品)を売る米国に戻ろう」
 オバマ米大統領は11年10月25日の演説でこう訴えた。
 米景気浮揚と、自らの再選を視野に、オバマ政権は強い意欲でTPP交渉の妥結を目指している。



◎本気の交渉、要求
 「日本が決断するのを待っている」
 カーク代表は11年10月26日夕、一部記者の取材に応じてこう答えた。参加への検討だけでも「歓迎する」というのが、TPP問題での米国の基本的なスタンスだ。
 オバマ大統領は、9月下旬の野田佳彦首相との初めての会談で、TPPの交渉状況を丁寧に説明した。米国側の期待の証しだ。
 ただ、公式見解から一皮むいたオバマ政権内の見方には濃淡がある。
 対アジア政策を立案する高官らには、日本を経済圏に組み入れることを重視する戦略的な思考が強い。日本が入ればTPPは世界の国内総生産(GDP)の4割近くをカバーし、経済的な利点も広がる。
 だが、交渉の最前線では、日本の参加がTPP交渉全体を遅らせるのではないかという懸念が強い。日本が国内調整が不十分なまま交渉入りすれば、関税撤廃の例外規定の調整が長引き、交渉が複雑化しかねない。関係者によると、米政府は日本側に対して、これまで何度も「TPPは高いレベルの貿易自由化を目指している」とクギを刺して、「本気の取り組み」を求めている。

◎中国は拡大警戒
 中国はTPPを、経済、外交の両面から米国がアジアへ関与を強める道具だと見ている。アジアをめぐる「米中パワーゲーム」の舞台という位置づけだ。
 中国外務省の姜瑜副報道局長は27日の会見で、アジアの経済共同体に対する考え方について「開放的な態度」を基本としつつも、「現在ある仕組みを十分に生かして地域の一体化を徐々に進める」と強調した。
 中国にとって地域の経済協力は、東南アジア諸国連合と日中韓の「ASEAN+3」が基本。中国は自由貿易協定(FTA)交渉も、ASEANから始めた。政府関係者は「市場としてだけでなく、外交的にも近隣国との関係を重視」していると話す。日韓とのFTAにも前向きだ。
 TPPについて政府系シンクタンクの幹部は「米国にはアジアの成長の活力を取り込むとともに、勃興する中国を抑制する狙いがあるのは間違いない」と語る。日本がTPPに傾けばタイなどアジア各国も動くのではないか、との警戒もある。
 温家宝(ウェンチアパオ)首相は11年10月21日、ASEAN各国との会合で「中国とアジアは最も活力ある経済体。経済貿易協力をもっと強めるべきだ」と訴えた。この会合には、TPPの交渉参加国の一つ、マレーシアのナジブ首相の姿もあった・・・

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