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政治・国際
朝日新聞社

中国軍解剖〔1〕 「美人スパイ」「なりすましメール」のわな

初出:2011年11月7日〜11月10日
WEB新書発売:2011年11月18日
朝日新聞

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 中国軍が存在感を増し、周辺国や米国は警戒感を強めている。相次いで発覚した衆議院などへのサイバー攻撃では、中国のサーバーが使われ、関係者を装った「なりすましメール」でウイルスに感染させる手法が使われた。「世界最大規模」とされる中国軍のスパイ活動は、モデルのような素人女性を動員するなど手口が巧妙化している。中国軍はどのような能力を持ち、どんな戦略に基づいて動いているのか。その実態を報告する。

◇サウナで買春誘導/女性スパイ 素人動員
◇サイバー戦に備えよ
◇なりすましメール、記者にも
◇軍主導、宇宙への長征/ロケット担う系列企業
◇一党支配の源/国でなく党に忠誠


サウナで買春誘導/女性スパイ 素人動員

 サイバーや宇宙など先進分野への進出が目立つ一方で、中国軍の活動や戦略を支える伝統的な手法がある。スパイだ。対人情報収集活動を担当する総参謀部第2部が中心となり、スパイ活動も活発化している。
 実際にスパイ活動に協力した女性に話を聞いた。
 現在、企業の受付で働く女性(23)は身長170センチ、モデルのような体形だ。内陸部の農村出身で、17歳のとき、軍人のいとこに誘われて北京に来た。言われるがまま「局長」と呼ばれる男性と会うと、「特務をしてもらう」と告げられた。
 対象者の写真を見せられ、接触を指示された。職業は知らされなかったが、外国人が多かった。北京市の大使館が集まる地区に近い繁華街、三里屯のバーなどに行き、音楽に合わせて踊っていると、吸い寄せられるように対象者が声をかけてきた。
 特定の文書や情報を手に入れるよう指示されることはなく、ふだんの会話から出張予定や同僚の話などを報告するだけでよかった。固定給はなく、任務を終えたときに数千元(1元=約12円)の報酬があった。アパートも与えられた。
 高級サウナ店に入り込み、マッサージ師に扮したこともあった。店に協力させ、対象者が買春するよう仕向けた。対象者がどうなったのかはわからない。
 女性は2年ほどで足を洗った。「愛国のため」と協力したが、将来性もなく稼ぎもそれほど良くなかったからだ。「やはり人をだますのは罪悪感があった」
 軍は国家安全省と並び、国内外でスパイ活動を繰り広げているとされる。狙うのは、他国軍の新兵器や部隊の配置などの情報だ。
 日本政府関係者は「中国のスパイ活動は世界最大規模だが、全体像がつかみづらい」と話す。プロだけではなく、普通の留学生や研究者らを使い、幅広く情報を集めているからだ。あらかじめ狙いをつけた情報をとるのではなく、広く網をかけてすくい上げた膨大な情報から有用な情報を抜き出す。軍は情報の分析能力に優れているという。



◎拒んだ女優、姿消す
 総参謀部第2部は芸能界にもスカウトの手を伸ばしているようだ。
 「私はずっと総参2部に監視されている」
 中国の建軍記念日の11年8月1日。テレビ番組の司会や映画で活躍していた女優、邵小珊さん(31)の中国版ツイッター「微博」に総参謀部第2部を批判する文が書き込まれた。同部幹部からスパイとなるよう迫られていたと暴露する内容だった。「外国メディアの取材だけ受ける」とあり、携帯番号が記されていた。連絡をとりあい、3日後に会う約束をした。
 当日、北京市内のホテルで会った。左右や後ろを何度も見渡し、警戒しているようだった。記者証を見せると、「本物ね」と表情がゆるんだ。たばこをふかしながらの話は約3時間にわたった。ときおり興奮することがあったものの、矛盾なく過去を振り返った。
 父親が軍人の家庭に育ち、17歳でデビュー。香港のテレビ番組の司会で人気を集めていた2003年、父の知り合いの総参謀部第2部の高官から呼び出された。スパイになるように勧められたが、「人を裏切る仕事にかかわりたくない」と断った。その後尾行されたり電話が盗聴されたりするようになったという。
 10年11月、別の高官が接触してきた。交際していた欧州のある国の北京駐在武官から内部情報を聞き出すように迫られた。再び拒むと監視がいっそう厳しくなり、「車にひかれて殺されるぞ」などと脅しを受けるようになった・・・

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