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政治・国際
朝日新聞社

北朝鮮の国家犯罪を検証する テロ、暗殺、ゲリラ、武力挑発

初出:2011年11月28日〜12月2日
WEB新書発売:2011年12月9日
朝日新聞

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 北朝鮮軍による韓国・大延坪島(テヨンピョンド)への砲撃から1年。国ぐるみで様々な武力挑発やテロを繰り返してきた北朝鮮の姿を伝える。

◇脱北者を操り暗殺計画
◇孤立国家に武器で再接近
◇ゲリラ部隊、韓国に脅威
◇半島揺るがす武力挑発


脱北者を操り暗殺計画

 2011年9月3日夕刻、ソウル市南部の繁華街。日本料理店を出て車に乗ろうとした男を、韓国の情報機関、国家情報院の要員ら数人が取り押さえた。男のズボンの右ポケットからは毒を塗った弾を仕込んだ万年筆型の銃、左ポケットからは毒薬カプセルを隠した化粧品が出てきた。


 男の名前はアン・ハクヨン(54)。殺そうとした相手が現れず、逃走しようと外に出た瞬間の逮捕劇だった。暗殺の標的は、総書記の金正日(キムジョンイル)らを非難するビラを北朝鮮に送り続ける「自由北韓運動連合」代表の朴相学(パクサンハク)。2人は共に北朝鮮を逃れて韓国にやって来た脱北者だった。


 南北貿易で一旗揚げようとしたアンは2010年3月以降、何度もモンゴルを訪問し、北朝鮮大使館員に接触した。だが、脱北者であることが知れると、同年9月、2人の男と引き合わされた。2人は局長のキムと副局長だと名乗った。
 2人は韓国で活躍する脱北者の殺害を持ちかけた。キムは「李韓永(イハニョン)の殺害も、我々の部署が企画した」と語った。1997年、総書記の元妻のおいがソウル近郊で銃撃されて死んだ。迷宮入りとなった事件への関与の「告白」だった。
 韓国政府はキムが語った「部署」が、北朝鮮人民武力部の偵察総局だと分析している。偵察総局は2009年2月、朝鮮労働党や軍の工作機関を統合して生まれた。トップは金英哲(キムヨンチョル)。金日成軍事総合大学で総書記の後継者、金正恩(キムジョンウン)を教え、現在も最側近の一人とされる。
 暗殺犯になることを嫌がるアンに、キムは暗殺に成功すれば、強制収容所にいる家族を平壌に住めるようにするともささやいた。アンの亡父の墓の映像を見せ、望郷心も揺さぶった。アンは朴の殺害を決意し、もう一人の脱北者を仲間に誘った。毒薬を飲み物に混ぜて殺す計画だったが、仲間が国情院に通報し、未遂に終わった。
 現在、韓国政府は主要な脱北者への警備を強化している。北朝鮮による暗殺の可能性を示唆する未確認情報が次々入っているからだ。朴には警官4人が24時間態勢で付き、事務所も非公開の場所に移した。
 アンは取り調べにあたった検察官に朴への伝言を頼んだ。「決して恨みがあったわけではない。命令に背けば殺される」。朴はアンに返事を送った。「憎いのは金正日だ。あなたも金正日の犠牲者だ・・・

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