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政治・国際
朝日新聞社

消費増税ショック 民主党政権「決断」の裏事情

初出:2011年12月6日〜12月31日
WEB新書発売:2012年1月13日
朝日新聞

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 野田政権は、消費税を2014年4月に8%へ、15年10月には10%へ引き上げる方針を決めた。社会保障財源を工面するのがねらいだが、景気を落ち込ませる心配もある。なぜ、消費税率を10%に上げなければならないのか。消費増税に偏りすぎることに問題はないのか。朝日新聞経済面の特集「負担増を考える」から。

◇第1章 増税、財政は景気は
◇第2章 消費増税、なぜ今
◇第3章 暮らしの支えどうなる
◇第4章 弱者を直撃、必需品すら我慢しなくては・・・
◇第5章 消費税滞納、悩む中小企業
◇第6章 減税恩恵、富裕層に偏り
◇第7章 「後世へつけ、止める一歩」/小宮山厚労相に聞く


第1章 増税、財政は景気は


 野田政権は、消費税を2014年4月に8%へ、15年10月には10%へ引き上げる方針を決めた。社会保障財源を工面するのがねらいだが、景気を落ち込ませる心配もある。財政再建と景気回復をどう両立させるかが問われる。

◎「赤字半減」黄信号/消費税10%半年遅れ
 「社会保障の安定財源確保と、財政健全化の同時達成への第一歩に向けて、前進できたと思う」。安住淳財務相は11年12月30日の政府税制調査会で胸を張った。



 今回の社会保障と税の一体改革は、ふくらみ続ける社会保障費を、世代を超えて負担を分かち合う消費増税でまかなおうというものだ。
 1990年度に11・6兆円だった社会保障費は、12年度予算案では一般会計から外した年金の国の負担分を含めると28・8兆円に増えた。一方、税収はピークだった90年度の60・1兆円から12年度は42・3兆円に減少。歳入の半分は借金に頼り、「国の借金残高」は1千兆円を突破する見通しだ。
 野田佳彦首相は11年12月29日の民主党税制調査会で「社会保障費のため、埋蔵金をあてる、公共事業費を削る、いろいろな努力をしてきたが限界だ。国民に負担をお願いするが、社会保障にあてることを明確にする」と強調。消費税を「社会保障目的税化」させ、使い道は年金、医療、介護、子育ての「社会保障4経費」に限ることを会計上もはっきりさせる。
 ただ、5%分の増税のうち、所得の低い人の年金の上積みや子育て支援など社会保障の「充実」に回すのは1%分にすぎない。残りの4%分は、高齢化による社会保障費の自然増や年金の国庫負担、財政赤字の穴埋めなど、今の仕組みを続けたり、財政を再建したりすることなどに使われる。


 その財政再建についても10%に上げる時期を、15年4月から10月に半年遅らせたことにより、政府の目標達成には「黄信号」がともりそうだ。
 政府は、借金の返済分を除いた国と地方の支出をどれだけ税収でまかなえているかを示す「基礎的財政収支」の赤字の割合を、15年度に半減させる目標を「国際公約」している。15年4月に消費税を10%に上げれば、この目標に届くはずだったが、半年ずれたことで年度内の消費税収は2兆円あまり減る。野田首相は11年12月30日、記者団に「(目標達成は)少し苦しくなるが、新成長戦略の加速で補い、実現させたい」と述べた。
 仮に15年度の目標を達成できたとしても、その先には「20年度に基礎的財政収支を黒字化」という次の目標が控える。素案には5年後をめどに「次の改革を実施する」とも明記。将来的に消費税は「17%程度が必要」(五十嵐文彦・財務副大臣)との声もでている。

◎経済状況見誤れば悪夢
 消費増税で、家計はかなりの負担増を強いられそうだ。第一生命経済研究所の試算によると、税率が8%に上がれば、年収350万〜400万円の4人世帯の負担増は年7万2270円/500万〜550万円の世帯は年8万1408円/750万〜800万円の世帯は10万431円――といった具合だ。税率が10%になると、年収に応じてさらに4万〜10万円ほどの負担が上乗せされる。


 いまの5%の税率と比べて、10%になったときの増税額は13・5兆円。さらに13年1月からは、震災復興費をまかなうための所得税の臨時増税も始まる。こうした増税分を足すと、負担増額は少なくとも14・2兆円に達する見込みだ。
 家計への重い負担が、景気を冷やさないか。こんな懸念から、素案では、実際に消費増税をするときの条件として「経済状況の好転」を挙げた。「景気条項」と呼ばれ、経済成長率や物価の動きなどを総合的に判断し、場合によっては「税率引き上げの停止」もできるという内容だ。
 11年12月29日深夜まで続いた民主党税調の総会で、最後まで書きぶりが固まらなかったのが、この「景気条項」だった。増税慎重派が「引き上げの停止」を盛り込むように求め、前原誠司・党政策調査会長の判断で文言が入ることになったが、成長率が何%未満なら増税をしないなど、具体的な数値は設けなかった。
 内閣府幹部は「数値に縛られて、増税できなくなっては困る。リーマン・ショックのような急激な景気悪化がない限り、きちんと増税する」と話す。
 しかし、今後の日本の景気動向は予断を許さないのも事実だ。欧州の政府債務(借金)危機は解決のめどが立っておらず、13年以降は、東日本大震災の復興需要も一段落し、景気の減速が予想される。経済の足腰が弱いときに消費増税を強行したら、「橋本政権の二の舞いになるのでは」との心配もでている。
 1997年、橋本政権は「財政構造改革法」により財政再建に取り組もうとしたが、消費税の3%から5%へのアップ、所得税や住民税の特別減税の廃止など計9兆円の国民負担増の実施で、景気は腰折れし、改革は頓挫。北海道拓殖銀行や山一証券の破綻(はたん)といった国内の金融危機とアジア通貨危機も重なり、財革法は約1年で凍結された・・・

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