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朝日新聞社

カオスの深淵「壊れる民主主義」 選挙じゃない、占拠だ

初出:2012年1月1日〜1月6日
WEB新書発売:2012年1月20日
朝日新聞

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 多くの民主主義国が問題を解決できなくなっている。主権者が投票を重ね、政権党や指導者を代えても、格差は広がり原発の将来は決まらない。民主主義はなぜ壊れているのか。2012年1月1日から5回に渡って朝日新聞1面で特集された、グローバル時代の社会の混沌を考えるシリーズ「カオスの深淵」の第2弾。

◇序 章 私が選ばれて 背負うもの/前田敦子さん
◇第1章 民主主義とは 問い返す島
◇第2章 若者の渇きにポピュリズム
◇第3章 批判する者のルールとは
◇第4章 救世主なんていないんだ
◇第5章 パイレーツ・オブ・ベルリン
◇終 章 格差の元凶、群衆で対抗


序章 私が選ばれて 背負うもの

 「選ばれる」とはどういうことだろうか。
 アイドルグループ「AKB48」のファン投票による「総選挙」で2011年、1位に選ばれた前田敦子さん(20)はこういう。
 「(プロデューサーに)センター(中央)で歌えと言われても、どうして自分なんだろう、と不安があった。でもファンに選んでもらって、ここにいていいんだと思えました」。選挙だからこそ得られる正当性。「ファンが決めて何かを背負うのなら、それは素直にうれしい」


 選ばれることが背負うことなら、選ばれた政治家は何を背負っているか。
 「私を嫌っても、AKB48を嫌いにならないで」。総選挙のあと前田敦子さんは、ファンにそう訴えた。「ファンにはそれぞれ好きなメンバーがいる。私が1位なら、AKBなんてもういいよ、って思われたくなくて」
 多数決は、決を採るだけでは完結しない。負けた人たちも「私たちみんなで決めたことだから」と結果を受け入れなければ民主主義社会は動けない。
 総選挙のとき、前田さんは「もう経験したくないと思うほど緊張した」と振り返る。ファンの間にも争う雰囲気はあった。1位になれなかった経験もある。「選ぶというのは残酷に見えるかもしれないけれど、人数の多い私たちには必要だと気づいた。ファンの参加が私たちをまとめてくれる」と考える。
 選挙がはらむ分裂の危機をくぐり抜けながら社会は結果をみんなで受け入れ、「私たち」という感覚を確認して前に進む。


 だが、多くの民主主義国では選挙がそんな機能を果たせなくなっている。
 格差問題に詳しいパリ経済学院のロマン・ランシエール教授は「まともな民主主義では、市民1人に1票の権利がある。しかし今は、カネのある者が決定権を握るようになっている。いわば1ドル1票だ」と指摘する。
 「99%」より「1%」に傾いた政治は「私たちみんなで決めた」という民主主義の土台を壊す。これでは「寡頭制だ」と批判する識者が欧州などに少なくない。若者たちの異議申し立て運動の支えとなった冊子「怒りなさい!」を書いた元レジスタンス闘士、ステファン・エセル氏と仏社会学者エドガール・モラン氏は、共著「希望の道」で「民主主義の衰退は否定できない。その一つは寡頭制への漂流だ」と主張している。
 私たちが「選ぶ」ことを考える手がかりにした姫島はとても小さな共同体だ。AKBの「総選挙」はファンクラブ会員に加え、CDを買った人もその数だけ投票権を得る。それらは確かに民主主義をめぐる寓話(ぐうわ)やパロディーかもしれない。前田さんも「(本当の選挙は)私たちのとはわけが違うと思います」という。だが、本当の選挙が「99%」の声を政策に反映できないならば、それもまた民主主義とは似て非なる戯画にすぎない。
 私たちは11年12月、グローバル時代の社会の混沌(こんとん)(カオス)を考えるシリーズを始めた。今回は代表制民主主義を取り上げる。


第1章 民主主義とは 問い返す島

 多くの民主主義国が問題を解決できなくなっている。主権者が投票を重ね、政権党や指導者を代えても、格差は広がり原発の将来は決まらない。民主主義はなぜ壊れているのか。「選ぶ」ことについての寓話(ぐうわ)のような話から考え始めたい。
 50年以上にわたって村長選で投票がない島がある。瀬戸内海の西端に浮かぶ大分県姫島村。人口2200人。漁業が主産業の村は、1955年の村長選を最後に、15回連続で村長の無投票当選が続く。

    ◇
 島へは国東半島からフェリーに乗る。20代らしい船員の胸に「船舶課」とあるのに気づくだろう。彼らは村職員だ。
 港から直進して唯一の信号を左に折れると、福祉施設「姫寿苑(ひめじゅえん)」に着く。介護士など43人の大半は村職員で、40人が女性。15人が子育て中だ。大海(だいかい)くりこさん(33)は3児の母。週3日ほど働き、給料は通常の3分の2。「お給料は家計の足し。生活はその分楽になる」と話してくれる。村役場に行っても、若い女性職員が多いことに気づくに違いない。
 「行政ワークシェアリング」という言葉を聞いたことがあるだろうか。40年以上前、若者の流出に頭を痛めた藤本熊雄・前村長が「役場の給料を抑えて、その分多くの若者を雇う」と決めた。いまでは島民11人に1人が村職員で、同じ規模の自治体の4倍以上。多すぎると思ったとしても無理はない。
 姫島は「平成の大合併」を拒否する。「他の自治体並みの給料を払えば、職員数を維持できない」と藤本昭夫村長(68)は言う。ちなみに現村長は前村長の長男で、無投票で引き継いだ。世襲と批判されても仕方ないだろう。
 ただ、村の貯金にあたる基金は、2010年度で一般会計予算を上回る22億8千万円ある。職員の給与水準は全国最低。役場は公民館を改築して使う。役場発の文書は職員が直接届ける。
 早くから「予防医療」に力を入れた。1人当たりの医療費は県内の自治体で最低だ。唯一の診療所には医師3人と歯科医師1人が常駐する。村を歩けば、元気なお年寄りに出会えるだろう。
 役場から15分ほど行くと車エビ養殖場があり、約30人が働く。昭和30年代に村主導で始まった。運営会社の撤退など危機に陥るたびに「潰れたら島も潰れる」と村が支えた。今では島の特産品だ。
    ◇
 無投票で首長が決まるようでは、民主的ではない――。朝日新聞もそうした趣旨の記事を書いてきた。それに対し、藤本村長はこう問い返してきた。「民主主義に選挙は必要だけれど、現実には選挙のための政治になっていないでしょうか」
 選挙のたびに村長が代われば、行政ワークシェアリングは実現したか。合併を退け、予防医療を重視し、車エビ養殖を辛抱強く支えることはできたのか。
 12年11月、現村長の任期が終わる。あなたが島を訪ねたら、「それでも選挙で村長を選ぶべきだ」と言うだろうか。

◎3・11後、原発への異議――東京
 2011年12月17日、東京・渋谷を数百人がデモ行進した。中心は20〜30歳代の若者だ。呼びかけたのは都内の介護施設で働く平野太一さん(26)。11年4月、ツイッターで反原発デモを知らせると、数日で700件近い反応があった・・・

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