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政治・国際
朝日新聞社

オバマに何が起きたのか リーダーたちの輝きが失われるとき

初出:2012年1月1日〜1月7日
WEB新書発売:2012年1月27日
朝日新聞

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 2011年の「アラブの春」では独裁体制が民衆デモで倒され、北朝鮮では最高指導者が死去した。今年は米国やロシア、フランス、韓国などで大統領選があり、中国でも指導者の交代が予想されるスーパーイヤーだ。国や地域を動かす指導者とはどんな人たちなのか。2012年1月1日から朝日新聞で連載された「リーダーたちの群像」から。

◇〈オバマ米大統領〉妥協重ねチェンジ退色
◇〈習近平・中国副主席〉「赤い貴族」光と影
◇〈メルケル独首相・サルコジ仏大統領〉水と油、補完関係
◇〈テインセイン・ミャンマー大統領〉真の改革者なのか
◇〈エルドアン・トルコ首相〉親米とイスラム同居
◇2012 世界の道しるべ 識者に聞く


〈オバマ米大統領〉妥協重ねチェンジ退色/対決避け 決断は地道・孤独

 濃紺の背広に笑顔の白い歯が映える。長身がステージに軽々と駆け上がる。
 「ハロー、テキサス!」
 一瞬の沈黙。2千人の聴衆から小さなブーイングが沸く。それもそのはず、ここは米中部カンザスだ。
 大統領バラク・オバマが11年12月、遊説先で珍しく口を滑らせた。だが、弁舌の達人はそこからが真骨頂だ。
 「ここは私の母の生まれ故郷。名前は父からもらったが、英語のなまりと価値観はカンザス娘の母譲り。地元に帰れてうれしい」。気まずい空気は一転、聴衆はすぐ歓声を取り戻す。
 オバマは変幻自在の政治家だ。父はケニア人、母は米国人。ハワイで生まれ、インドネシアで少年期を過ごし、政治活動はシカゴを地盤とする。国内外、行く先々で縦横無尽にルーツのゆかりを使いこなす。
 その出自は前回大統領選挙で異彩を放ち、変革を渇望する米国民のうねりに乗った。あれから3年。金看板だったはずの「多様な寛容性」は「優柔不断」に、「国際色」は「無国籍さ」にと光沢が鈍ってきた。オバマに何が起きたのか。


 「前途は長い道のりになる」。2008年11月、感涙にむせぶ11万人を集めた当選の夜のシカゴ演説で、オバマはすでに荒波を見通してはいた。だが、襲いかかる保守派の攻撃はそんな予想を超えたに違いない。「社会主義」「謝罪外交」「税の浪費家」――。
 ただ、就任時70%に達した支持率が長らく40%台に低迷しているのは、野党の抵抗だけが理由でもない。虚実ないまぜの中傷に断固反撃しないどころか、肝心の政策でも妥協と譲歩を選びがちな性格が、支持層の離反を招いてきた。
 医療保険改革では、主柱だった公的保険の導入を早々にあきらめた。富裕層の増税も再三断念。悪名高いグアンタナモ基地収容所も閉鎖を見送った。注目の人種問題では、「特定人種のための雇用優遇策は考えない」と中立を強調。前大統領のブッシュと違い、我を通さない。「妥協してでも国を前へ進めるのが私の使命」。そう言い切った。
 良く言えば「国の統合」をめざす誠実な調整役。悪く言えば「対決を嫌う八方美人」(エモリー大学のウェステン教授)。応援団のリベラル派から噴出する疑問は「オバマとは一体、だれなのか」。ニューヨーク・タイムズの前編集主幹ケラーの批評は辛辣(しんらつ)だった。「根無し草ゆえに自分探しが続く玉虫色の指導者」


 クリントン政権下でも財務長官だった前国家経済会議議長サマーズはこう評する。時間や会議の予習はルーズだが、部下には思いつかないアイデアを出すクリントンは「ひらめき」型。一方、時間を守り、会議前に官僚の作ったメモを熟読し、政策の理論を重んじるオバマは「秀才」型だ。
 夜ごと宴会を開いた社交家クリントンに対し、オバマは献金者との懇親会もそこそこに夜を切り上げ、朝は必ず2人のまな娘の登校を見送る。会議では部下らの議論にじっと耳を傾けるが、決断を下すのはあとで独りになってから。派手なスター性と裏腹に、地道で孤独な優等生なのである・・・

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