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朝日新聞社

震災からの復興が進まない理由 増え続ける汚染灰、滞るがれき処理

初出:朝日新聞2012年2月22日〜3月10日
WEB新書発売:2012年3月9日
朝日新聞

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 被災地に積み上がったがれきの処理は滞り、セシウム汚染灰の保管で首都圏の清掃施設の一部はパンク寸前となっている。一方で、震災復旧に巨額のお金を用意した事業のなかには、宙に浮いているものも多い。大震災から1年、復興に向けた動きがなかなか進まない背景には何があるのか。テーマ別に総点検する。2012年2月22日から朝日新聞に掲載された特集「東日本大震災1年」より。

◇第1章 がれき 滞る処理、がれきどこへ
◇第2章 汚染灰 パンク寸前、セシウム汚染灰保管3・5万トン
◇第3章 予算 復旧の青写真、現実と溝
◇第4章 原発 津波対策道半ば
◇第5章 防潮堤 住民合意の壁 「安全第一」「景観守りたい」
◇第6章 移転 集団4万戸、道険し
◇第7章 水産 地盤沈下で戻らぬ水揚げ
◇第8章 医療 家流され、退院先がない
◇第9章 工場 被災地、去る
◇第10章 雇用 失業手当切れ7割、未就職 
◇第11章 新幹線 大地震での死者予測は
◇第12章 復興 「道筋ついていない」
◇第13章 自治体 「仮の町」候補、いわき有力
◇第14章 被災企業 中小4割「原発事故が影響」
◇第15章 被曝 甲状腺被曝、最大87ミリシーベルト
◇第16章 帰宅困難者、受け皿不足


第1章 がれき 滞る処理、がれきどこへ

 被災地に積み上がったがれきの処理が滞っている。復興に向けた視界が遮られている被災地の焦りは強く、受け入れに一歩踏み出した自治体も住民の反発に手探りが続く。広域処理の安全性を巡って、国と自治体の考えはかみ合わないままだ。

◎がれきの受け入れ、29道県で「未検討」
 東日本大震災で発生した岩手、宮城両県のがれきの一部を全国で受け入れる政府の方針に対し、29道県が「具体的に検討している自治体がない」と朝日新聞の調査に回答した。知事が前向きな姿勢を表明しているのは9都府県にとどまる。震災1年が近づいてもがれき処理への理解は進んでおらず、2014年3月末までの処理完了の政府目標が遅れる可能性がある。
 岩手、宮城、福島の3県を除く44都道府県に12年2月中旬の状況を聞いた。
 調査の結果、「受け入れている自治体がある」は青森、山形、東京に加え、12年2月16日に島田市で試験焼却を始めた静岡の4都県。「具体的に検討している自治体がある」は秋田、群馬、埼玉、神奈川、富山、石川、大阪の7府県。兵庫県より西では全県が「具体的に検討している自治体がない」と答えた。
 「受け入れている」と「検討中」の11都府県のうち、受け入れる予定の量(処理済みを含む)が明らかになっているのは7都県の約83万トン。政府が広域処理で想定している400万トンの約2割だ。
 知事の姿勢について聞くと、「受け入れ表明」が3都県、「条件付き受け入れ表明」が6府県。「条件付き」のうち大阪や埼玉、神奈川などは放射性物質に関して独自基準を設けるとしている。受け入れの「可否に言及していない」は24道府県。「受け入れに慎重」は山梨、長野、奈良、徳島、大分の5県だった。
 原子炉等規制法は、原発で出る廃棄物を再利用する際の基準を1キロあたり100ベクレル以下と定めている。一方で環境省は震災後、同8千ベクレル以下の焼却灰は、一般のごみと同じ方法で安全に埋め立て処理が可能との基準を示した。
 この点について「二つの基準の整合性について明確な説明がないと市町村や県民に説明ができない」(徳島県)と、国の説明不足を指摘する意見があった。
 市町村の受け入れに都道府県としてどう臨むかについては「前向きな市町村があれば調整する」が11県、「積極的に働きかける」が5都府県、「政府の十分な説明があれば積極的に働きかける」が5県だった。
 福島県のがれきについては広域処理の対象にはせず、すべて県内で処理する。

◎被災地―山積み、復興の足かせ
 通常の一般ごみの19年分、約1569万トンのがれきが発生した宮城県。このうち石巻市では県内で最も多い616万トンが、23カ所に積み上がっている。
 がれき置き場の市立女子商業高校近くに住む太田令子さん(67)は、「今も臭いが気になる。がれきを見ると津波を思い出す。おっかないし、気がめいる」。
 20メートルの高さに積み上げられた石巻工業港の埠頭(ふとう)では、処理の切り札になる分別・破砕・焼却のプラントを県が建設中だ。だが、県外処理を見込んで敷地内に仮置きした40万トンの搬出先が決まらない。県は数百メートル離れた空き地に移す作業を迫られ、12年3月に予定していたプラント着工は2カ月遅れが決まった。
 市内のがれきはさらに増える。解体が必要な建物は2万棟あるが、解体の申請があったのは1万1千棟。このうち解体されたのは11年末で約5600棟にすぎない。市の担当者は「がれき置き場は公有地。災害公営住宅などに使うこともある。処理が遅れれば街づくりも遅れる」。


 2011年から処理を始めた東京都も、受け入れを決めているのは県北部沿岸の女川町のがれきだ。原発のある福島県に近い地域ではさらにハードルが高い。
 村井嘉浩・宮城県知事は「(各地に)何度もお願いしていたが、一歩踏み出すことができない」と話す。
 一般ごみの11年分、475万トンのがれきを3年間で処理する計画を立てた岩手県は、9割近くのがれきを仮置き場に運び終えた。それでも最終処理したのは全体の8%の37万トン。搬送率7割、最終処理5%の宮城県よりは進んでいるが、先が長い現状は変わらない。


 協力を求め、全国各地を回る岩手県の担当者は「放射性物質を拡散する『テロリストだ』と言われたこともある」と嘆く。
 達増拓也知事は12年2月23日の県議会で「現状のままでは3年での処理は厳しい」との見通しを示した。

◎自治体―受け入れ、根強い反発
 人口10万人。静岡県島田市は、がれきの受け入れをめぐり揺れている。
 桜井勝郎市長が受け入れ方針を表明したのは11年12月。静岡は東海地震が想定される。「震災は他人事ではない」という川勝平太知事の意向を受け、県市長会や町村会が前向きに検討することを決めた。だが、実際に手を挙げたのは島田市だけだった。
 受け入れるがれきは、県が職員を派遣してきた岩手県山田、大槌両町の木材に限定。焼却前の放射性セシウムの濃度を、国より厳しい1キロあたり100ベクレル以下という独自基準も設けた。
 それでも、一部の住民が「(主要作物の)茶や飲み水が汚染される」と強く反発。受け入れ反対の署名も提出された。
 安全性を示そうと、放射能汚染があるかどうかを確かめる「試験焼却」に踏み切った結果、周辺の空間線量率に変化はなかった。12年2月20日からは市役所ロビーなどで焼却灰を容器に入れて一般に公開。線量計を置いて自由に計測してもらい、理解を得ようと試みている。
 桜井市長は強調する。「間違ったことはやっていない。反対する人は反対する。他の市町が見ている。ここで引けない」


 神奈川県は黒岩祐治知事が11年12月に受け入れを表明したが、最終処分場のある横須賀市の住民の猛反発で立ち往生している。
 県が受け入れを想定していたのは、岩手県宮古市のがれき。宮古と横浜は福島第一原発からの距離がほぼ同じだ。東京都が受け入れた実績もある。
 しかし、12年1月に知事自ら住民説明会に出席すると、「子どもががんになったらどうするのか」との反対の声が続出。当初は県に協力的だった横須賀市の吉田雄人市長も「地元に不安がある以上、その思いに寄り添いたい」と反対に転じた。
 「現場に提示した案はまだ一つしかない。これでは無理だと思っている」。12年2月21日、県の方針を撤回するよう求める吉田市長に、黒岩知事は事実上の仕切り直しに言及した。知事は「東北地方の復興に力を注ぎたい思いは同じはず。不安を払拭(ふっしょく)できる知恵はないか、さらに検討したい」と話すが、妥協点は見いだせていない。


 「責任ある立場にある自治体の首長のみなさんは立ち上がるべきだ」。がれき処理の旗を振る細野豪志環境相は、受け入れが進まない現実に焦りを隠さない。
 自治体の不安の一つが、原発から出る放射性廃棄物を再利用する際の基準(廃棄物1キロあたり100ベクレル以下)と、焼却灰を埋め立て処理できる基準(焼却灰1キロあたり8千ベクレル以下=焼却前のがれきで240〜480ベクレル以下に相当)があることだ。全国知事会は12年1月に「納得できる安全な基準や取り扱いの指針を示すべきだ」と要請した。
 細野環境相は「(再利用の基準と埋め立て処理の)まったく別の基準が混同されている」と述べるが、「現状では国民に理解を得られる基準がない」(広島県)などの声がある。
 ほかに受け入れに踏み込めない理由として、和歌山県は「処理能力に余裕のある市町村が少ない」、千葉県は「現時点では県内の災害廃棄物の処理を優先する」と答えた。西日本のある担当者は「被災地から遠く、東日本とは取り組みに温度差があるかもしれない」と話している。


第2章 汚染灰 パンク寸前、セシウム汚染灰保管3・5万トン

 家庭ごみなどを燃やした焼却灰から放射性セシウムが検出されて行き場を失い、首都圏の清掃施設の一部がパンクしかねない状況に陥っている。放射線量が高いホットスポットが点在する千葉県北西部では、焼却炉が停止に追い込まれる施設も出始めた。ごみの収集回数が減るなど、暮らしにも影を落としている。

◎汚染灰、仮置き3・5万トン
 原発事故で自治体のごみ処理が行き詰まっている。福島、茨城、千葉など7都県でごみ焼却場を運営する計32の市町と一部事務組合が、放射性セシウムで汚染された合計3万5千トン余の焼却灰を埋め立て処分できず、一時的に「仮置き」していることがわかった。汚染灰は今も増え続け、一時保管場所がパンクしかけている自治体もある。
 汚染灰は、剪定枝(せんていし)や落ち葉などのごみについた放射性セシウムが焼却で濃縮されてできる。高濃度の汚染灰は、セメント固化などしたうえで埋め立てる責任を国が負うが、具体的な処分の道筋が示されていない。通常のごみと同じ方法で埋め立てられる低濃度の灰も処分場周辺の住民が搬入や埋め立てに反対していることが問題の背景にある。
 朝日新聞社が12年2月下旬、焼却灰から国の「埋め立て基準」(上限=1キロあたり8千ベクレル)を超える放射性セシウムを検出したことがある市町と一部事務組合、計35カ所(岩手2、福島12、茨城9、栃木3、群馬2、千葉6、東京1)に処理状況をたずねて集計した。
 仮置きしている32カ所の一時保管場所はいずれも、焼却場や最終処分場などごみ関連施設内。20カ所では埋め立てられない汚染灰が今も増えていた。計5カ所で保管場所が満杯になったり、3カ月でパンクするおそれが出たりしている。
 8千ベクレルを超えていたり、下回ったと断定できなかったりして、法的に埋め立てができない状況が続いているのは、福島県の11カ所を含む15カ所。8千ベクレル以下になっているのに、埋め立てに住民の理解を得られていないのは、茨城、栃木、千葉3県の5カ所だった。
 汚染灰で一時保管場所が満杯になっているのは千葉県柏市だ。一方、県外の最終処分場に埋め立てを頼ってきた同県流山市。汚染濃度は3千ベクレル余に下がったが、処分場の周辺住民の反発が強く、焼却場から搬出できない灰が日々増えている。保管場所は12年3月中にパンクするおそれも。福島県いわき市や、取手市など茨城県の4市がつくる一部事務組合、千葉県松戸市でも、近く満杯になるおそれがある。


◎千葉北西部 ごみ収集回数減も
 「燃やせば燃やすほど灰は出る。置き場をつくる努力にも限界がある」
 千葉県柏市の南部クリーンセンター。地下室は階段やベルトコンベヤーの下に至るまで、汚染灰を入れたドラム缶でぎっしりと埋め尽くされていた。1本あたり200キロ。それが1049本もある。転倒防止のためステンレス製のワイヤで十数本ずつ束ねている。
 ドラム缶置き場のこれ以上の確保が難しくなり、11年9月と12年1月に相次いで焼却炉をストップさせた。除染の一環で剪定(せんてい)した木の枝などが汚染の原因ともみられているため、放射線量の高い木の枝などは焼却を見合わせ、市内の別の場所で保管している。ところが今度はそちらの置き場もあふれ始めた。市はやむなく12年3月に再び焼却炉を動かすことを決めたが、綱渡りが続く。
 市の清掃施設は南部クリーンセンターともう一つだけ。職員は「残り一つが故障したら、ごみ処理がまったくできなくなる・・・

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被災地に積み上がったがれきの処理は滞り、セシウム汚染灰の保管で首都圏の清掃施設の一部はパンク寸前となっている。一方で、震災復旧に巨額のお金を用意した事業のなかには、宙に浮いているものも多い。大震災から1年、復興に向けた動きがなかなか進まない背景には何があるのか。テーマ別に総点検する。2012年2月22日から朝日新聞に掲載された特集「東日本大震災1年」より。[掲載]朝日新聞(2012年2月22日〜3月10日、35700字)

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