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朝日新聞社

プロメテウスの罠〔8〕 英国での検問「東電値上げのマジック」

初出:2012年2月23日〜3月18日
WEB新書発売:2012年5月18日
朝日新聞

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 東京電力が計画している家庭向け電気代の値上げ率、これは「数字のマジック」なのではないか――。朝日新聞の好評連載「プロメテウスの罠」の第8シリーズ「英国での検問」は、電気料金の不可解さを見ていく。2012年2月22日から朝日新聞に掲載した全25回を収録。

第1章 いきなり警官が
第2章 船主は幽霊会社
第3章 核運搬船に機関砲
第4章 配当率は50%が基本
第5章 港へ10キロ、原発道路
第6章 一瞬で雨が蒸発
第7章 残された「お荷物」
第8章 再処理にこだわる
第9章 怖さ、知らなかった
第10章 ゾウさんとスラリー
第11章 値のはるMOX燃料
第12章 ごみに63億円払う
第13章 「節電店長」の怒り
第14章 「中部電力にかえて」
第15章 のらりくらりですよ
第16章 これは威嚇です
第17章 隣と同じにしてくれ
第18章 自由化すれば変わる
第19章 ガス中毒か、感電か
第20章 送電網めぐり激突
第21章 値上げ「寝耳に水」
第22章 変圧する権利ある
第23章 すべて新顔が落札
第24章 値上げ率のマジック
第25章 処分場、ドーム100個分


第1章 いきなり警官が

 近づいてきたパトカーがいきなりサイレンを鳴らし、目の前で止まった。午後4時過ぎだった。
 2人の若い警察官が降りて来た。
 「写真を撮っていたというのはあなたか」
 防弾チョッキ姿。腰ではなく、胸に拳銃と手錠が下がっている。向かい合うといやでも目に入る。
 日本から来た新聞記者であることを告げ、名刺を出す。
 「パスポートを」
 パスポートを渡すと、1人がパトカーに戻って無線で連絡を取りはじめた。1人は私から離れない。
 2011年11月、英国西海岸のカンブリア。見渡す限りの牧草地だ。羊たちが草を食べる風景の中に、およそ場違いな巨大な煙突や球形の建造物がそびえている。
 セラフィールド。使用済み核燃料の再処理工場だ。ここで日本の原発の使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す「再処理」をしている。
 6日前、所管する「原子力廃止措置機関」という政府系機関に見学を申し込んだが、断られた。写真だけでも撮ろうと、施設まで来て車を降り、公道から鉄条網のフェンス越しに10回ほどシャッターを押した。その直後の検問だった。


 横に立つ警察官に、何のための検問か尋ねた。
 「重要な施設なので、あなたの身分の確認をしている」
 なぜ写真を撮ったと分かったか。
 「一般の人から通報があった」
 公道で写真を撮ることは止められないが、テロ対策のため警戒を厳重にしているのだという。
 車から、「日本から来た新聞記者だといっている、どうぞ」と報告の声が聞こえる。
 一緒にいる警察官はさかんに話しかけてきた。
 米国の同時多発テロいらい警戒が厳しくなったこと。数週間前にも日本人が施設の見学に来たこと……。
 パトカーの1人が、上司に尋ねられたことを聞いてくる。
 「取材を申し込んだ人と連絡が取れないか」「原子力産業をどう思っているか」
 日が暮れかかっている。しばらくしてパトカーの警察官が戻ってきた。「長時間かかって申し訳なかった。行っていい」
 そういうとパトカーはセラフィールドの中に消えた。時計を見ると5時。長い検問だった。
 ここで取り出されたプルトニウムは、船で日本に運ばれていた。その船会社は東京にあった。


第2章 船主は幽霊会社

 東京に「シーバード」という会社があった。1991年設立の船会社だ。92年暮れから93年1月にかけ、日本はフランスから船でプルトニウムを運んでいる。それを運んだのはあかつき丸という日本船籍の核燃料輸送船だ。シーバード社はその船主だった。
 登記簿によると、最後の住所は「東京都千代田区内幸町1丁目1番地1号、帝国ホテル」となっている。プルトニウム運搬船の船主だというのに、資本金はわずか40万円。
 93年、日本社会党の参院議員(当時)、翫正敏(いとうまさとし)がシーバード社に関して参院科学技術特別委員会で質問している。
 「私が行って調べてみましたけれども、これは簡単にいうとペーパーカンパニーでありまして、幽霊会社、実体のない会社であります」
 当時の科学技術庁長官は江田五月だった。江田はこう答弁した。
 「なかなか姑息(こそく)なことだという感じもいたしましたが、聞いてみますと、原子力損害の賠償責任のこととか、あるいは警備のこととか……」
 プルトニウムは核兵器の材料ともなる物質だ。そんな危険な物質の運搬に際し、海上警備や事故時の賠償のために、日本が責任を持つ形が必要だった。そこでペーパーカンパニーのシーバード社が登場した、というわけだ。
 では本当の船主はだれなのか。
 それは「パシフィック・ニュークリア・トランスポート」という英国の会社だった。英国の登記簿を調べてみると、シーバードは100%子会社として登録されていた。
 あかつき丸はもともとその会社の持ち船で、「本名」はパシフィック・クレーン号という。この名前では何度も日本に来ている。


 さらに調べると、パシフィック社は62・5%を英国の会社、12・5%を仏の会社が出資していた。日本では東京電力、関西電力、丸紅、住友商事などが計25%を出している。
 日本企業も出資する英国の会社が、わざわざ日本にシーバード社をつくった。そのペーパーカンパニーの船が、はるばるフランスからプルトニウムを運んできていた。
 実は、シーバード社は2010年6月に解散した。パシフィック社はあかつき丸の後、日本にプルトニウムを運んでいない。シーバードは「プルトニウムを運ぶため」だけの会社だったのだ。
 プルトニウム運搬の実態はどうなっているのだろう・・・

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