きっかけは中学1年の時。仲良しのクラスメートから「一緒にダイエットしよう」と誘われた。「やせたい」思いが恐怖感に変わり、拒食症で入院。約2年後、襲ってきたのは「食べたい」という衝動だった。20代から30代を中心に女性の仕事や恋愛、人生への思いをつづった朝日新聞の人気連載「彼女の事情」。
◇第1章 食べて吐いて、私に気づいて
◇第2章 女の園、心はすっぴん勝負
◇第3章 私のせい?離れられない
◇第4章 美の追求、一緒に夢みる
〈第1話〉ちょっとダイエット いつしか恐怖に
「病気で学校に行けない時期もありましたが、挑戦をあきらめませんでした」
大阪のオフィスビルであったIT関連会社の採用面接。みな子(22)は細身の体に黒のパンツスーツで決めて、すらすらと自己アピールした。ふと、感慨がこみ上げた。
私にも、こんな日がきたんだ。
大学3年生。もう10年、摂食障害という心の病と闘ってきた。最近になって症状が落ち着くまで、働けないんじゃないかと不安だった。
きっかけは中学1年の時。仲良しのクラスメートから「一緒にダイエットしよう」と誘われた。身長の伸びが止まり、体形が横に大きくなっているようで不安だったし、ちょっとご飯の量を減らすぐらいから始めてみた。
しばらくして、「やせたい」思いが「体重が増えるのが怖い」という恐怖感に変わった。母のお弁当を断り、手のひらより小さい幼児用の弁当箱に自分でつめ、学校にもっていった。家の食事もほとんど残すようになった。「なぜ残すの?」と母は困り切った顔。でも食べられない。
体を動かさないと太ってしまう。強迫観念が離れず、ふらふらになってバレー部の練習に打ち込んだ。帰宅後は近くの公園を泣きながら走った。心と体がバラバラ。
14歳のみな子は、身長159センチで30キロまでやせていた。見かねた養護教諭が母と面談し、精神科への入院が決まった。夜。「ごめんね、ごめんね」と母は泣き崩れた。
約2年後、退院した時は高校生。今度は、「食べたい」という衝動が襲ってきた。
菓子パン、ケーキ、クッキー、アイスクリーム……。学校の行き帰りにスーパーに駆け込み、3人分ぐらいの食べ物を買う。それを抱えてデパートのトイレにこもり、胃に詰め込んだ。おなかがパンパンになると、ミネラルウオーターを飲んで吐き出した。
食べては吐いて。体重は3カ月で20キロ増えた。
過食行為の苦しさにもまして後からこみ上げる罪悪感。
恥ずかしい私。衝動から逃げられない私。自分が嫌。消えてなくなりたい――。不安から逃げたくて、リストカットを繰り返した。
育ったのは瀬戸内海沿いの街。優等生だった。中高一貫の名門中学に合格した。
はた目には幸せそうな家庭だっただろう。だが、父は仕事だ、酒だと深夜にしか帰らず、母は姑(しゅうとめ)と折り合いが悪かった。みな子が2階で寝ていると、両親が怒鳴り合う声がよく聞こえた。
たぶん、夫婦仲を修復しようとしたのだろう。「お父さんと話をしてきて」と母からよく頼まれた。嫌。だけど、そう言えなかった。両親の顔色をみながら、行ったり来たり。私って、いけにえ・・・