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朝日新聞社

15年の叫び 東電社員殺害事件 国策捜査が覆い隠した真実

初出:2012年6月8日〜6月10日
WEB新書発売:2012年6月22日
朝日新聞

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◇出国目前のゴーサイン/捜査幹部「問題はなかった」
◇「神様、助けてください」
◇証拠が全て出ていれば


出国目前のゴーサイン/捜査幹部「問題はなかった」

 「ゴビンダは金に困っていただろう」「もっと金をほしがっていただろう」
 狭い取調室で刑事からそう問われ、ナレンドラ・クマル・カドカさん(42)は「違う」「そうではない」と繰り返した。刑事はときには、机をバーンとたたきながら「ウソだろう」「本当のことを言え」と大声をあげたという。
 1997年3月。ゴビンダ・プラサド・マイナリ元被告(45)と同居していたカドカさんは不法残留の容疑で警視庁に逮捕された。いまネパール東部でショウガ輸出業を営むカドカさんは「ゴビンダが金ほしさに女性を殺した、というのは、いかにも見当外れだった」と振り返る。
 計5人のネパール人の同居人は、まとまった金を母国の家族に送金するため、互いに金を融通しあっていた。部屋には常に25万円ほどの現金があったという。
 「あのとき、警察がもっと捜査を広げていれば、ゴビンダが巻き込まれることはなかったのでは……」

    ◇
 東京都渋谷区のアパートで、東京電力の女性社員(当時39)の遺体がみつかったのは97年3月19日。首には絞められた跡があり、4万円が奪われた。近くにはホテル街。女性は付近で男性に声をかけているところをよく目撃されていた。
 飲食店従業員だったマイナリ元被告は、アパートの隣のビルの一室で暮らしていた。4日後の同月23日に不法残留の疑いで逮捕された。約2カ月前、アパートの部屋のカギを管理人から借りていた。
 「取調室で『ごめんなさい』と連呼していたが、容疑が不法残留だとわかると表情が緩んだ。取調官から、そう聞いた。長年の勘で、こいつがホシ(犯人)に違いないと思った」
 捜査を指揮した平田冨峰(ふほう)・警視庁元捜査1課長(69)は、そう振り返る。
 ただ、警視庁は最初から、元被告が殺害犯と断定していたわけではなかった。「現場の部屋は、ふだんからカギがあけっぱなしで、被害女性はよく利用していた」。そうした情報もあり、捜査は難航した。当時、取材に「犯人は絶対にマイナリ元被告ではない」と語った捜査関係者もいた・・・

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