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朝日新聞社

迷走原発 「大飯原発再開」を後押しした、二つの「流れ」

初出:2012年6月17日〜6月21日
WEB新書発売:2012年6月29日
朝日新聞

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 野田佳彦首相自ら「国論を二分している」と認めた関西原発大飯原発の再開問題。「脱原発依存」を掲げた野田政権はなぜ、どういう経緯で「再稼働」へと舵を切ったか?
 その背景を詳細な取材で追う。経済活動への影響を危惧する経済界は、どのような方法で、自らの声を伝えたのか。そして環境や生活への影響を懸念する京都・滋賀など周辺自治体は、どのように振る舞ったか。政治・経済・生活――複雑な要素が絡み合う原発問題の舞台裏を解きほぐすドキュメント。

◇第1章 再稼働 危うい決断
◇第2章 首長に迫った経済界
◇第3章 「地元」拡大、増す発言力
◇第4章 廃炉なら4社債務超過
◇第5章 次の選挙は
◇第6章 財界 崩れた結束


第1章 再稼働 危うい決断

◎衆院選争点に浮上
 野田佳彦首相が、自ら「国論を二分している」と位置づけた関西電力大飯原発の再稼働に踏み切った。野田政権の「脱原発依存」の旗印は失速。野党や国政進出が取りざたされる橋下徹・大阪市長は政権批判を強めている。消費増税と並び、原発政策が次期衆院選の争点となるのは確実だ。
 再稼働への同意を伝えた福井県の西川一誠県知事は2012年6月16日、首相に「エネルギー問題への現実的議論を政府はリードすべきだ」と、脱原発路線からの転換を明確にするよう求めた。これに対し、枝野幸男経済産業相は「エネルギー安全保障という観点からも、原発は重要な電源である」と原発の重要性を強調。西川知事の求めに応じて行った6月8日の首相会見に沿うものだ。
 原発事故後、初の再稼働なのに、首相は安全基準を「暫定的なもの」と認めながら突き進んだ。橋下市長は12年6月16日、再稼働に同意した福井県への謝意を示しつつ、政権には「限定稼働を否定する理由として国家経済とか電力コストの話になったので、国民は納得できない」と批判した。


 第三極からの批判が鮮明になるなか、民主党内では再稼働再考を求める所属国会議員の署名が120人を超えた。消費増税の反対派と結びつき、党を分裂しかねない勢いになっている。

◎批判無視の首相に代償
 野田首相の「国論を二分」発言は、12年6月8日の記者会見で出た。その8日後、西川一誠福井県知事の同意を受けた首相は宣言した。
 「立地自治体のご理解を得られたいま、再稼働を政府の最終的な判断とする」
 「脱原発依存」は封印し、地元同意を優先して原発依存に軸足を移した。ルビコンを渡った首相だが、その代償は小さくない。
 再稼働を決めた官邸の前では、この日も雨の中、再稼働反対の市民団体が声を上げた。6月15日には作家の大江健三郎さんらが官邸を訪れ、「脱原発」を訴える645万人分の署名を提出した。原発政策が争点化することで、「脱原発」票は国政選挙の行方を左右することになりそうだ。
 「脱原発」を掲げる野党は、さっそく首相の決断に批判を浴びせた。第三極をめざすみんなの党の渡辺喜美代表は「役人と電力会社に引きずられるがまま政治判断と称した再稼働だ」とコメント。社民党の福島瑞穂党首も「官邸、経産省、県知事、関西電力の談合だ。民意を無視する野田政権になった」と記者団に述べた。共産党の志位和夫委員長は「原発事故の原因究明もされていない。野田政権は国民の生活を守るどころか命と安全を危険にさらす」との談話を発表した。


 消費増税で合意した2大政党への風当たりが強まることも予測されるなか、原発を重視するエネルギー政策では同じはずの自民党の石原伸晃幹事長は「ひどいね。菅政権以来の混乱が集約された。本来は新しい原子力規制組織のもとで再稼働すべきだ」と語った。
 民主党の原発政策は定まらなかったが、東京電力福島第一原発事故が起きると当時の菅直人首相は「脱原発依存」にかじを切る。野田首相も路線を継いだ。
 だが、具体策を示さないまま、12年8月末にようやくエネルギー基本計画をまとめる。原発再稼働に突き進む姿ばかり目立つ政権に、身内から「野田さんに振り回されている」(民主党参院議員)と不満が漏れる。原子力規制委員会を新設する法案が審議入りした12年6月15日の参院本会議では、首相の答弁に民主党席からヤジが飛び、拍手はまばらだった。
 首相は12年6月5日の経団連総会で「再稼働も(消費増税と社会保障の)一体改革も反対が多いが、国家国民を考えればやらなければいけない」と訴えた。その一体改革では、6月15日の自公両党との修正合意で民主党マニフェストにある目玉政策が棚上げされたばかり。民主党議員はこの週末、地元で野党の「公約違反」攻撃にさらされている。
 今回の再稼働表明に、民主党の若手議員は「なぜ選挙で不利な話を拙速に増やすのか」と恨み節だ。


◎脱原発依存には触れず
 「今回は再稼働一般でなく、大飯の話だ」
 岡田克也副総理は12年6月16日、記者団にこう強調。なし崩しで原発の再稼働が進むことに対する世論の懸念を打ち消そうとした。
 菅政権が11年7月に決めた原発再稼働の手順は、原子力安全・保安院と原子力安全委員会による安全性の確認と地元の「同意」の2段階をはさみ、関係閣僚会合で政治決断する流れだ。
 野田政権は、安全審査が進んでいた大飯原発の再稼働にまず照準を合わせ、地元の同意を得るため水面下で条件整備を進めた。11年末には西川一誠知事の悲願だった北陸新幹線の延伸を決定。おおい町長らが再稼働の条件に挙げた原発周辺道路の整備も、事業費422億円を国と事業者が全額負担することを確約した。
 その一方、野田首相は原発事故を機に盛り上がる「脱原発」の世論を無視できなくなる。滋賀県など周辺自治体からの反発も噴き出すと、エネルギー政策を担当する枝野幸男経済産業相は「国民の一定の理解が得られなければ再稼働はしない」と表明。政権が周辺自治体の理解を得る場で出た橋下市長による「期間限定の再稼働」の提案を、「前向きな姿勢」と受け止める声も上がった。
 福井県のいらだちは募る。原発は福井県の基幹産業の一つだが、大飯原発3、4号機のほか、商業炉11基と「もんじゅ」が長期停止中だ。2012年夏の電力不足に備えるだけなら、大飯の2基を期間限定で稼働すれば足りる。
 だが、西川知事は「期間限定とかスーパーの大売り出しでもないわけだから」と切って捨てた。2基の再稼働だけで終わっては、地元経済が成り立たない。12年6月4日、理解を求めに訪ねた細野豪志原発相に対し、知事は同意の条件として首相の意思表示を求めた。
 関電管内の節電開始まで1カ月を切り、原発をすぐに再稼働しても電力需要が増す12年7月に間に合わなくなる。追い込まれた首相は6月8日の会見で「限定再稼働」を明確に否定。6月16日の知事との会談では「脱原発依存」への言及を避けた。
 だが、立地自治体に「原発は重要な電源」と説明、電力消費地の周辺自治体には「脱原発依存」の姿勢を示すことで、かえって地元の不信感を募らせた。今後の原発再稼働の地元同意を得るうえで、政権の姿勢は足かせになりかねない。
 枝野氏は再稼働決定後の会見で、今後の原発再稼働の判断について「少なくとも閣僚会合で安全性を判断することはない」と指摘。原子力規制委員会の設置法案の成立を待ち、新しい枠組みに委ねる考えだ。政権幹部はこんな懸念を示す。
 「独立性の高い規制委員会が判断するのは安全性のみで、需給は考慮しない。政権の思い通りに再稼働はできなくなる・・・

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