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経済・雇用
朝日新聞社

大量人減らし社会 会社の「クビキリサイクル」にどう対抗するか

初出:2012年5月25日〜6月22日、8月24日・31日
WEB新書発売:2012年7月6日
朝日新聞

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 長引く不況で企業側の「人減らし」のための動きが加速し、手の込んだものになりつつある。様々なトラブルの種になりやすい「解雇」を避け、配置転換など、より「ソフト」な手段で退職を迫るようになってきているのだ。一方、労働者の側が反撃する例も相次いでいる。働く現場はどうなっているのか。現場から活写する。

◇第1章 異動で ノルマで追い込む
◇第2章 職場ごと いきなりクビ
◇第3章 「法の無知」につけこむ
◇第4章 「おかしい」解雇と闘う
◇第5章 再就職か 試練の独立か
◇反響編(1) 強引リストラ横行
◇反響編(2) 退職迫る会社も倒産


第1章 異動で ノルマで追い込む/「辞めます」待つ会社側


 関東地方の工業団地に立つ倉庫。灰色の作業着姿の男性(50)が、プリンターを段ボール箱につめていたら、20代の上司から注意がとんだ。
 「もっと早く!」
 昔のように体が動かず、同じミスをくり返してはしかられている。オフィス機器メーカーのリコー(本社・東京)に勤めて約25年。技術者として採用された自分が、倉庫で箱詰めの仕事をするとは……。
 コンピューターソフト開発と販売先のサポートの仕事が長い。約2年前、コピー・ファクスの複合機の営業支援係に異動した。「看板製品にやっとかかわれる」と喜んだ。
 そんな会社員生活が歴史的円高の進んだ2011年7月、暗転する。上司から「まかせる仕事がなくなる」と告げられたのだ。会社は2カ月前に1万人の従業員削減を発表していた。その一環の希望退職に応募するよう勧められた。


 自分は飛びぬけて優秀ではないが、まじめさには自信がある。残業もいとわなかった。それなのに、なぜ? 上司から理由の説明はない。
 次の仕事が心配になった。私立中学の長男の学費がかさむので収入が減るのは困る。
 上司に紹介された再就職支援会社にも、「会社に残れるのでは」といわれた。開発から販売後の支援まで広く経験した職歴は貴重で、社内で生かせるはず、というのだ。
 「辞めません」。そう上司に伝えると、「派遣のようなつらい仕事になるぞ」。11年9月、倉庫に異動になった。
 リコーでは、同じように退職を拒んで異動になった社員らが労働組合を結成。男性とは別の2人が申し立てた労働審判で、東京地裁は12年5月22日、異動は無効と判断した。「(異動の)必要性が立証されていない」との理由だ。リコーは異議を出し、今後は裁判で争われる。リコー広報室は「正当性を裁判のなかで主張していく」としている。


 退職を拒んだら、きびしいノルマを課された。できないとクビなのか――。東京都の外資系不動産会社の男性(55)は、そんな不安におしつぶされそうだ。
 5年前、閉店を加速していた大手スーパーから転職。もっと出店にかかわる仕事がしたいと思った。ところが、1年ほどでリーマン・ショックに遭遇。商業地開発の担当をはずれ、2010年からビルのテナント誘致をしている。
 年長者として若手への助言に力を入れたのが、あだになった。11年春、「個人の実績がない」と人事の評価が最低に。退職や別の会社への出向を渋ると、「成果向上プランにとりくんでもらう。未達なら解雇する」といわれた。
 空室のオフィスを埋めるのがノルマだ。自分は商業の専門家で、オフィスは素人。「できないとわかっていて、やらせているのでしょう」
 「退職を迫られた」という相談が自治体の窓口に殺到している。以前は最も多い相談は、経営者が一方的に雇用契約をうち切る解雇がらみだった。最近は、労働者が自ら辞める退職のほうが目立つ。
    ◇
 「解雇だと訴訟などのトラブルになりやすい」。西日本で飲食店を展開する企業に勤める男性(37)は解説する。「辞めてほしい社員は不慣れな担当にすればいい。自分は向いていないと退職願を書き出す」。法務部にいたころ、各部署にそう助言していた。
 しかし・・・

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