社会・メディア
朝日新聞社

東北新幹線がなかったら 沿線のすべてを変えた30年

初出:朝日新聞2012年6月5日〜6月26日
WEB新書発売:2012年7月6日
朝日新聞

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 1982年に開業した東北新幹線が2012年6月23日、30歳の誕生日を迎えた。山形新幹線は20歳、秋田新幹線は15歳。節目の2012年に、この鉄道が沿線の経済、社会、文化にもたらした大きな影響を跡づけてみた。震災への対応の経緯も加え、広い東北を縦横に取材した渾身のドキュメント。

◇第1章 距離近づき力学変化
◇第2章 地震のたび強度進化
◇第3章 駅で移った街の重心
◇第4章 便利さの代償、負担苦
◇番外編 キャッチコピー小史


第1章 距離近づき力学変化/「ストロー効果」加速も


 米人気歌手レディー・ガガの日本公演があった12年5月13日の夜。会場のさいたまスーパーアリーナ(さいたま市)近くのJR大宮駅には、ガガのTシャツを着てタオルも首に掛けたファンが、新幹線を待っていた。
 「明日は仕事。今日中に帰れるのは楽です」。山形県米沢市の会社員高島礼佳さん(25)は午後2時ごろ埼玉入りし、コンサートを見て、午後9時10分発の山形新幹線の最終列車に乗った。「大事故があった高速バスは、ちょっと怖い。新幹線は速いし、時間も正確」
 母親と一緒に来た宮城県亘理町の高校1年生の女子生徒(15)も「日帰りで地元に戻れるのがいい」と笑顔を見せた。
 大宮駅には東北、山形、秋田各新幹線が乗り入れる。アーティストの公演を手掛けるホットスタッフ・プロモーションの横山和司副社長は「さいたまアリーナには地の利がある」。東北からの集客も見込めるからだ。
    ◇
 新幹線は、東北と首都圏をぐっと近づけた。
 東北最南端の新幹線駅がある福島県白河市。毎年、大卒の新入職員の半数以上を都内の大学の出身者が占める。秘書広報課の鈴木穣さん(43)もUターン就職した。同期の6〜7割は都内の大卒者。「新幹線のお陰で、東京を遠いと感じない」
 3新幹線のうち最初の1982年に開業したのは、大宮―盛岡駅間の東北新幹線だった。ただ、3年後に東北経済連合会が行った企業アンケートでは、効果について明暗が分かれた。
 「新幹線でプラスの影響を受けた」と答えた割合を見ると、沿線の宮城県は65%、岩手県は59%、福島県も51%だったが、山形県は41%、秋田県は14%、青森県は13%にとどまった。
 だが、山形新幹線が92年、秋田新幹線が97年に開業すると、その恩恵も広がった。
 山形県上山市の温泉旅館「古窯(こよう)」の大女将(おかみ)佐藤幸子さん(83)は「以前はバスの団体客が多かったが、山形新幹線開通後は個人客が増えた」と話す。
 秋田県仙北市で伝統工芸品製造・販売会社を営む藤木浩一さん(49)は、秋田新幹線の開業前を「盛岡駅まで在来線で行き、東北新幹線ホームまで大急ぎで走っていた」と振り返る。今、毎月数回の商談で上京するのに利用するのは新幹線。「私の仕事になくてはならない」
    ◇
 新幹線は東北の内側の距離も縮めた。
 岩手県滝沢村の小野寺正己さん(47)は岩手大を卒業し、小中学校で理科教員を9年間務めた後、盛岡市の科学館に出向し、プラネタリウムの管理を担った。10年後の40歳で教員を辞め、東京に本社を置くプラネタリウムのメーカーに飛び込んだ。現在は、仙台市の天文台や盛岡市の科学館を行ったり来たりする。「転職を決断できたのも、新幹線のお陰」と話す。
 距離は縮んだが、人材や企業が大都市に吸い寄せられる「ストロー効果」も避けられない。
 帝国データバンク青森支店が2002〜11年に青森県の企業を調べたところ、県外に出ていった企業は57社で、入ってきた46社を上回った。転出先は東京都が12社と最多。宮城県は11社、岩手県も10社あった。同支店はストロー効果の一例と分析し「この流れは続く」とみる。
 都市間交通を専門とする東北大の奥村誠教授によると、秋田新幹線の開通や東北新幹線の八戸延伸を挟む5年間で比べると、秋田市、八戸市の両経済圏の事業所数は5〜7%減。一方、盛岡市や仙台市の経済圏は2〜4%の減少にとどまった。
 「秋田市や八戸市の拠点が盛岡市や仙台市に集約され、その一方では、盛岡市や仙台市の拠点は首都圏に一本化された」と奥村さん。人材や企業を呼び込めると期待された新幹線が、実際には流出を加速させたとみる。「東北人自らが積極的に新幹線を使い、域内の商業や観光を活性化できたらいいのだが・・・

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東北新幹線がなかったら 沿線のすべてを変えた30年
216円(税込)
  • 著者大隈悠、小沢邦男、川上眞、蔵前勝久、四登敬、鈴木剛志、田中美保、中野龍三、野津彩子
  • 出版社朝日新聞社
  • 出版媒体朝日新聞

1982年に開業した東北新幹線が2012年6月23日、30歳の誕生日を迎えた。山形新幹線は20歳、秋田新幹線は15歳。節目の2012年に、この鉄道が沿線の経済、社会、文化にもたらした大きな影響を跡づけてみた。震災への対応の経緯も加え、広い東北を縦横に取材した渾身のドキュメント。[掲載]朝日新聞(2012年6月5日〜6月26日、7900字)

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