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朝日新聞社

私はどこへ行けばいいの? 罪を犯した知的障害者たち

初出:2012年7月9日〜7月12日
WEB新書発売:2012年7月20日
朝日新聞

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 法務省の統計によると、全国の刑務所に入所する受刑者の2割、約7千人には何らかの知的障害の可能性がある。福祉の手が差し伸べられず、孤立した末に罪を犯し、刑期を終えて出所した後も社会に居場所を見つけられず、再び塀の中へ戻っていく知的障害者も少なくない。制度の隙間の中で、これまで手を差し伸べられてこなかった人々を救う手立てはないのか。名古屋市のケアホームで暮らす4人の女性を訪ね、その実態をルポする。

◇第1章 孤立から罪 やっと居場所
◇第2章 怒ってくれる人に会えた
◇第3章 うれしかった「立ち直って」
◇第4章 やり直そう 夢はヘルパー


第1章 孤立から罪 やっと居場所

 刑務所には行かなくていい。でも、私は、どこへ行けばいいの?
 2010年秋。執行猶予の判決を受けたアケミ(仮名、51)は不安だった。今は、名古屋市のNPO法人が知的障害者らのケアホームとして借りたアパートの6畳間で暮らす。「ここに来なかったら路上生活になって、食べるものにも困っていたかもしれない」
 アケミが犯した罪は放火だ。心の支えだった母を、ガンで亡くしたばかりだった。死のうとして、アパートの自室で古新聞に火をつけ、部屋を全焼させた。
 裁判所は、アケミに軽い知的障害と適応障害があることを踏まえ、保護観察付きの判断をした。保護観察所の求めに応じてアケミを受け入れたのが、障害者のための作業所やケアホームを運営するNPOだった。
 アケミは半年後、初めて精神障害者手帳を取得し、障害年金を受け取れるようになった。作業所でパンをつくる仕事をして、給料をもらっている。ホームの生活になじみ、仲間と岐阜県の下呂温泉に旅行もした。
 11年秋、仲間からもらったキーホルダーが見つからず、精神的にいらついてしまった時のこと。自分の裁判の判決文を見て、「あってはいけない紙だ」。台所の流し台で火をつけた。
 精神科病院で双極性障害(躁鬱〈そううつ〉病)の躁の影響と診断され、入院した。ひとり寂しく、眠れない。病院で夜中に布団をかぶり、「お母さーん、なんで私を置いていったの」と叫んだ。
 アケミは小中学校で勉強についていけず、父はそのことで怒っては母を殴りつけた。高校生のとき、担任の教師から「自閉症ではないか」と言われた。だが、母は「この子のどこが人と違うの」と認めなかった。
 20代で勤めていたスナックの客と結婚したが、すぐに夫は何かの事件で逮捕された。タクシー運転手もした。道を間違えるたびに余分の運賃は自腹を切った・・・

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