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朝日新聞社

いま足元にある憂鬱 地震と液状化の実態 〔災害大国・迫る危機〕

初出:2012年10月7日
WEB新書発売:2012年10月19日
朝日新聞

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 日本の隅々に横たわる足元の憂鬱な「時限爆弾」はいつ爆発するのか。いまさらながら日本がとんでもない地震王国で、私たちは日々、軟弱な地盤の上で暮らしていることを痛感する分析結果が出た。北海道から九州・沖縄まで、大都市部や沿岸部、山間部や平野部で起こりえる液状化、地盤沈下、地滑り、土石流など巨大地震がもたらす被害想定を元に、全国各地の記者が地域ごとの過去の実態などを把握。現行制度の欠陥を指摘し、可能な対策を探る。全国の「地盤」地図付き。

◇第1章 軟弱地盤に3800万人(東京)
◇第2章 地盤リスクと暮らす(大阪)
◇第3章 液状化、見えぬ解決策(名古屋)
◇第4章 液状化、想定外の所も(福岡)
◇全国の「地盤」地図
 〈北海道の地盤〉広く液状化リスク 過去に学び備えを
 〈東北の地盤〉揺れやすい都市部
 〈関東の地盤〉軟弱、揺れやすい平野部
 〈甲信越・静岡の地盤〉「液状化」 新潟地震で注目
 〈北陸の地盤〉街 軟弱な海岸沿いに
 〈近畿の地盤〉軟弱 都市化で拍車
 〈中国の地盤〉軟弱地盤、地震の脅威
 〈四国の地盤〉軟弱な平野部
 〈九州・沖縄の地盤〉シラス 軟弱な平野部


第1章 軟弱地盤に3800万人/地震、揺れ増幅の恐れ(東京)

 日本の人口の3割にあたる約3800万人が、地震で揺れやすい軟弱な地盤の上に住んでいることが分かった。軟弱な地盤は首都圏や大阪圏を中心に都市部で広がっており、巨大地震に見舞われると甚大な被害が生じる可能性がある。分析した独立行政法人の防災科学技術研究所(防災科研)が2012年11月、東京で開かれる日本地震工学会で発表する。

 地盤が軟らかいと地震による揺れが増幅しやすく、地中の水が噴き出したり家が傾いたりする液状化現象が起きることもある。防災科研の研究グループは、地震波の伝わり方などで調べた地盤の固さと国勢調査に基づく人口分布を重ね合わせて算出した。
 地震による揺れやすさは表層地盤増幅率で示され、1・6以上になると地盤が弱いことを指す。防災科研の分析では、2・0以上(特に揺れやすい)の地域に約2200万人、2・0未満〜1・6以上(揺れやすい)の地域に約1700万人が暮らしていることが判明。1・6未満〜1・4以上(場所によっては揺れやすい)の地域では約2200万人が住んでいた。
 1・4以上の地域は国土面積の9%、1・6以上は6%にすぎない一方、軟弱な地盤は関東や大阪、濃尾、福岡など人口密度が高い平野部に広がる。大都市の住宅密集地並みの過密地域(1キロ四方に1万5千人以上)の場合、住民の半数以上が軟弱な地盤で生活していることになるという。
 研究グループは、海溝型と活断層型の地震の発生確率に地盤の揺れやすさを加味した地震動予測地図も活用。全人口の4割強にあたる5300万人が「30年以内に26%以上の確率で震度6弱以上の揺れに襲われる地域」に住んでいると判明した。発生確率を「3%以上」とした場合、全人口の8割にあたる約1億人が6弱以上の揺れに見舞われることが分かった。



■キーワード〈表層地盤増幅率〉
 地下を伝わってくる地震波が深さ30メートルの地盤で何倍に拡大するかを示した数値。地震の揺れの大きさは、地震の規模▽震源からの距離▽地盤の強さ――に左右される。増幅率の数値が高いほど、揺れやすい軟弱な地盤といえる。




◎地盤対策は自己責任
 軟弱な地盤が広がる日本列島。多くの人が地震の揺れで生じるリスクと隣り合わせで暮らしている。地盤を強くするには課題も多いが、住民主導や自治体と連携しての取り組みも徐々に進んでいる。
 近い将来、マグニチュード(M)7クラスの直下型地震が起きるとされる東京都心。官庁や主要企業が集まる日本の中枢部も軟弱な地盤の上にある。
 「地盤が弱い所があるのは分かっているが、特別扱いはできない」。住宅、マンション、ビル、工場、商業施設など多彩な建物が立ち並ぶ東京都品川区で防災対策を担う品川義輝・担当課長は淡々と語る。
 独立行政法人の防災科学技術研究所(防災科研)によると、品川区(22・7平方キロ)の多くの地域は、地震時の揺れやすさの目安となる表層地盤増幅率が1・6以上。都が12年4月に発表した首都直下地震の被害想定では、最大で1万5500棟が全半壊するとみられている。1923(大正12)年の関東大震災でも、多くの家屋が倒壊した。
 品川区は「耐震改修促進計画」に基づいて耐震補強に補助金を出しているが、軟弱地盤の地区を優先した対策は講じていない。品川課長は「地震から家を守るという観点で平等にやるのが耐震対策」と話す。
 地震に弱い地盤は都市部を中心に全国に広がる。関東は東京湾沿岸部や荒川、利根川、江戸川の各流域、中部は伊勢湾、三河湾沿岸部、木曽川、長良川、揖斐川の各流域、近畿では大阪湾沿岸部や淀川流域、琵琶湖岸がとりわけ弱い。
 だが、品川区のように軟弱地盤対策は「自己責任」ととらえられている。国土交通省の担当者も「耐震化は地盤の強弱にかかわらず進める。自治体が地域の事情に合わせた独自策を講じるのは問題ない」とする。これに対し、東日本のある県の担当者は「公費で軟弱地盤対策を取れば、地盤が弱い土地を買ったうえで補強してもらおうとする人が出かねない」と危惧する。
 住宅が傾き、上下水道やガス管といったインフラに影響を与える液状化。東日本大震災では9都県の計約2万7千棟に被害が出たが、国の対応は鈍い。
 ビルやマンションは軟弱地盤から建物を守るため、建築基準法で建設前のボーリング調査などが義務づけられている。一方で、戸建て住宅は詳細な地盤調査を求められていない。
 地盤工学会や日本弁護士連合会は「いったん被害が生じれば修復に多額の費用がかかる」として対策強化を提言しているが、国交省建築指導課は「宅地の液状化で人が死ぬことはない」と言い切る・・・

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