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朝日新聞社

領土紛争は何をもたらすか 世界に学ぶ負の教訓

初出:2012年11月14日〜2013年1月17日
WEB新書発売:2013年2月1日
朝日新聞

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 「植民地時代の負の遺産」としてアフリカ大陸に残るスペイン「セウタ」、1万キロ離れた英国が領有権を持つフォークランド(マルビナス)諸島、海の境界画定を成立させ特需にわくノルウェーとロシアなど、世界のあちこちに残る「領土問題」の歴史と現状を伝える。韓国との竹島問題、中国との尖閣問題を考える新たな視点を生む各国からのルポをまとめた。

◇第1章 〈南シナ海〉尖閣が招いた、しばしの平穏
◇第2章 〈ノルウェー〉境界画定、進むロシアとの交易
◇第3章 〈スペイン〉モロッコからの流入続く
◇第4章 〈フォークランド〉アルゼンチンは「返還を」


第1章 巨龍が狙う資源の海/〈南シナ海〉尖閣が招いた、しばしの平穏

 広大な海原に点在する数百の島々の領有権をめぐり、ベトナムやフィリピンなどが長年、中国と争ってきた南シナ海。東南アジアの「海の火薬庫」と呼ばれるこの海域の情勢に、尖閣諸島をめぐる最近の日中対立が微妙な変化をもたらしている。


 2012年11月6日、ラオスの首都ビエンチャンで開かれたアジア欧州会議(ASEM)首脳会合。尖閣問題で野田佳彦首相と中国の楊潔チ(ヤンチエチー)外相が非難の応酬をした同じセッションで、ベトナムのズン首相が発言した。「国際法と協定に基づき、紛争を解決しなければならない」。フィリピンのアキノ大統領も「紛争は国際法に基づき、公平に解決されるべきだ」と続いた。
 南シナ海の紛争に対処するため、東南アジア諸国連合(ASEAN)は平和的解決を法的に義務づける「行動規範」の策定を求め、中国と非公式協議を続けていた。2人の首脳の発言は、名指しは避けたが、消極的な姿勢を崩さない中国に向けられていた。
 楊外相の反応は、日本に対する激しさとは違って、淡々としたものだった。「中国の立場は歴史的、法律的な根拠に基づき、一貫している。南シナ海で航行の自由や安全が問題になったことはないし、今後もない」
 12年4月、中国とフィリピンの船舶がスカボロー礁周辺でにらみ合いを続けた際、一気に冷え込んだ両国関係には、最近変化の兆しが見えてきた。
 10月19日には中国の傅瑩(フーイン)外務次官がマニラを訪れ、アキノ大統領に「両国の友好関係を重視する」とする胡錦濤(フーチンタオ)国家主席のメッセージを伝達。中国では「氷を溶かす旅」と報じられた。
 アキノ大統領は「状況は数段良くなっている」と認める。実際、中国は南シナ海に派遣する海洋監視船の数を減らすなど、攻勢を一時的に弱めている。フィリピン政府高官は「日本と対立を深めたことで、国際的な孤立を避けるためにも南シナ海では友好的にという狙いでは」とみる。
 ベトナム側の見方も一致する。政府関係者は「中国の矛先が日本に向いたことでベトナムへの攻勢がおさまり、ほっとしている」と打ち明ける。中国の海洋進出を念頭に、10月には国内最大級の海上巡視船「DN2000」(全長90メートル)の進水式を行うなど、領海警備を強化する一方で、「中国とこれ以上波風を立てたくない」というのが本音のようだ。
 南シナ海情勢の変化を横目に、日本側には懸念が募る。とりわけ、18日から始まるASEAN首脳会合や東アジアサミットを控え、議長国のカンボジアの動きには敏感だ。
 カンボジアは7月のASEAN外相会議で、中国寄りの運営に終始した前例がある。フィリピンやベトナムが反発し、共同声明をまとめられない異例の事態となった。直後のASEAN地域フォーラム(ARF)では、中国が嫌う「南シナ海の航行の自由」を求めた日本や米国、豪州などの発言を議長声明に盛り込むことを拒否した。
 最悪のシナリオは、中国の求めに応じて、尖閣問題が領土問題として議長声明などで言及されることだ。最大の援助国としての日本の自信は揺らいでいる。11月5日には野田首相がフン・セン首相と会談。玄葉光一郎外相も親書を送り、大使経験者や官房副長官を相次いでプノンペンに派遣するなど、根回しに躍起だ。

◎2000億バレル?3者駆け引き
 かつて旧日本軍が占領した南シナ海の島々をめぐる領有権争いは、日本の敗戦直後から始まった。争いの火に油を注いだのは、中国側で「第2のペルシャ湾」と称されるほどの豊富な石油資源だった。
 南シナ海全体の石油埋蔵量に実証値はないが、米エネルギー情報局(EIA)の報告書(2008年)によると、米地質調査所は280億バレル、中国では2130億バレルなど様々な推計がある。一方、EIAの統計で、採算が取れる範囲で採掘可能な確認埋蔵量を見ると、世界最大のサウジアラビアは2670億バレルで、中国は204億バレル。原油需要の急増や価格高騰に促されるように、中国は南シナ海で領有権の主張を強めてきた。
 石油埋蔵量が約30億バレルとされる尖閣諸島周辺では、40年ほど前、約1千億バレルとの推計値が出されたことがある。その数字が中国が領有の主張を強めるきっかけになったとも言われる。
 南シナ海では05年、領有争いを一時棚上げにして、中国、ベトナム、フィリピンの3カ国の国営石油会社が共同探査を実施した。しかし、小規模な衝突をきっかけに協調の動きは頓挫。以来、3カ国は独自に資源開発を進めるようになった。
 12年6月、中国海洋石油(CNOOC)はベトナム近海で資源開発に乗り出すと発表した。ベトナム外務省は抗議声明を発表。国営石油会社ペトロベトナム最高経営責任者のドー・バン・ハウ氏も異例の会見で「明らかに違法」と抗議した。
 一帯はベトナムの排他的経済水域(EEZ)で、米国やロシアやインドと組んで開発を進めてきた。中国が計画を発表した9鉱区は、そこに重なっていた。
 ペトロベトナムは日本企業向けにも、ベトナム中部ダナン沖など南シナ海の約20鉱区での共同開発を検討していた。7月に説明会が開かれるとの話もあったが、このトラブル後、手続きは止まったままだ。「資源は魅力だが紛争のリスクは背負えない。しばらくは様子見か・・・

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