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社会・メディア
朝日新聞社

スポーツと体罰 トップ指導者14人の証言

初出:2013年1月16日〜2013年1月30日
WEB新書発売:2013年2月1日
朝日新聞

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 スポーツ指導から体罰をなくすことは可能なのか。「選手の胸ぐらをつかみ」叱った経験もある高校野球監督や、かつて生徒を「たたいた」経験もあるサッカー部監督など、悩みながらも現代の生徒たちにふさわしい指導法の模索を続ける人たちの意見と取り組みを紹介する。米国のアメリカンフットボール元コーチは暴力では従順な人間は育っても、自ら考えるリーダーは生まれないと説く。

◇第1章 「殴り聞かせる」指導者にそんな言葉はない
◇第2章 子どもと向き合い 逃げずに対話を
◇第3章 生徒が楽しめる部活動に改める時
◇第4章 指導法見つめ直す機会増やして
◇第5章 従順な人ではなく リーダーの育成を
◇第6章 戦前からの教育 負の連鎖生む構造
◇第7章 選手をたたく行為 尊敬の念がない
◇第8章 傷つき自信なくす 成長期にリスク
◇第9章 選手に辞めたいと思わせたくない
◇第10章 基本法では不十分 暴力防止を明確に
◇第11章 ただ「ダメ」でなく 影響を直視して
◇第12章 自ら判断する能力 鍛える機会奪うな
◇第13章 監督崇拝をやめ、選手中心に考えて
◇〈番外編〉 勝利を宿命づけられて重圧/自己実現のため厳しく指導


第1章 「殴り聞かせる」指導者にそんな言葉はない

沖縄・興南高校野球部 我喜屋優監督(62)

 子供たちに手を出したくなる時は、よくあります。何度言っても、部のルールを守れなかったり、練習での態度が悪かったり。でも、そんな時は、両手を後ろでぎゅっと結び、我慢します。指導者は感情が先走ってはいけない。「言い聞かせる」ことが大切。「殴り聞かせる」という言葉はありません。
 社会に出て、他人を殴ったら、捕まる。社会のルールを先生が破ってはいけません。しかも生徒は無抵抗です。先生が生徒をたたいたら、生徒は暴力をふるう大人になってしまう。
 ただ、親が我が子をたたくことはあります。例えば、赤信号を無視して渡った時。車にひかれて死ぬかもしれない。命の大切さを、痛みとともに教えることは必要かもしれません。
 社会人野球の監督だった時、選手を殴ったことがあります。車で事故を起こしたのです。人の命が奪われたら、いろんな人に迷惑をかけることになる、と教えたかった。親の身になって叱ることは必要です。選手の胸ぐらをつかみ、真剣さを伝えることもあります。
 チームを引っ張る主将は本当に大変です。選手から嫌われたり、監督に怒られたり。チームが負ければ、強く責任も感じます。主将は、監督と選手のパイプ役。そのパイプがつまることがある。そんな時は監督が悩みを聞いてあげなければ。周りの選手には「主将に協力してくれ。監督と同じ」と教えています。
 けんかやいじめの問題もあります。野球部では無記名のアンケートをとるようにしています。「最近、嫌な思いをしなかったか」「殴っている人を見ていないか」。必ず糸口が出てきます。問題が起きた時は保護者も呼んで話し合います。選手には訴える勇気も必要だとも説いています。
 監督1年目の時、小さい頃からけんかばかりしてきた選手がいました。「先輩に殴られたから、殴り返しに行きたい」という。私は「よし行って来い。その代わり、俺も、お前も終わりだぞ」と言いました。
 自分の理解者に「殴りに行け」と言われ、行く子供はいません。浜辺に連れ、青い海を見せ、自然の穏やかさを伝えました。本も読ませ、感想文を書かせました。今、大学生の彼は、世の中をよくしたい、と警察官を志しています。
 野球部が甲子園に出なくてもいいんです。高校の3年間はあっという間に終わるけれど、人生のスコアボードはずっと続きます。指導者だけでなく、保護者も社会も一緒になって生徒を見守っていかなければ、いけません。


第2章 子どもと向き合い 逃げずに対話を

前橋育英高校サッカー部 山田耕介監督(53)

 20代のころは、生徒に手を上げることもあった。自分の学生時代もよくたたかれていたが、なぜたたかれるのかを理解していた。「こんなことをすれば当然たたかれる」という線引きを生徒側が分かっていたし、指導者と生徒の間に信頼関係があった。
 もちろん指導者が感情にまかせて生徒を怒ったり、何十発も殴ったりするのは論外だけど、言いきかせてもダメな時はたたくケースがあった。実際に苦労をかけた子が更生することもあった。そんな時代だった。
 しかし、ちょうど1990年代だろうか。たたかれた生徒が「なんで?」という顔をするようになった。理由がどこにあるかは分からない。ただ、きちんとあいさつできない子や、小さい頃から親にも怒られた経験がない子が増えてきていた。
 自分も年を重ねて経験を積み、今はほとんど手を上げない。できるだけ子供と密着して意思疎通をとっていくスタンスでいる。コーチとも普段からよくコミュニケーションをとって、目を配らせている。
 特に、プレーでミスしても怒ることはしない。ただ、遅刻などの生活態度をはじめ、例えば、他人の陰口をたたいたり、モノを取ったりすれば厳しい指導をしなければならない。
 この時期は、子供が大人になる大切な準備期間といえる。立派な大人になるために、正しくないことをした時にきちんと教える必要がある。あいまいにしてしまうのが一番よくない。
 暴力をしてはいけないが、大阪の桜宮高の体罰問題をきっかけに腫れ物に触るような指導になってしまうことを危惧する。子供と向き合って根気強く何度も話しかけ、正直にぶつかる。指導者にとっては大変なことかもしれないが、決して逃げてはいけない・・・

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