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朝日新聞社

ニッポン・アンダーグラウンド あなたの知らない世間の裏側

初出:2012年10月23日〜2013年1月8日
WEB新書発売:2013年2月8日
朝日新聞

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 「次はおまえの番やぞ」。北九州市・小倉のスナックのママが切りつけられ後、「暴力団立入禁止」の標章を貼った飲食店に一斉に電話がかかってきた。切りつけに不審火、小倉のネオン街は緊張感に包まれている。指定暴力団工藤会の木村博幹事長へのインタビューを含む迫真のルポルタージュとともに、利用者の怒りにさらされ続けるコールセンターでの仕事の実態や万引きが止められない「病気」に向き合う人々の姿などを通し、現代社会の裏面と病理に向き合う。

◇第1章 震えるネオン/組員拒む店に「次はお前やぞ」 襲撃やまぬ北九州
◇第2章 きょうも怒鳴られる/見えぬ顧客、受け止めます。
◇第3章 万引き、という病/やめられず10年 逮捕を契機に入院して治療


第1章 震えるネオン/組員拒む店に「次はお前やぞ」 襲撃やまぬ北九州

 2メートルを超す塀が通りからの視界を遮る。その上にはぐるぐる巻きの有刺鉄線と監視カメラ。門扉が音を立てて開くと、玄関先に20人ほどの黒スーツの男が左右2列で待ち構えていた。
 北九州市小倉北区の住宅街にある指定暴力団・工藤会の本部事務所。組員約600人、九州屈指の暴力団の総本山だ。
 意を決して玄関に向かった。何度も家宅捜索を受けた4階建てのビルの中は整然としている。120畳の大広間に鎧甲(よろいかぶと)が2体。応接間にはエアコンの風音が静かに響いていた。
 製鉄や交易で栄えた北九州市は人口約97万の福岡第2の都市だ。工藤会事務所から車で10分ほどのJR小倉駅前には歓楽街が広がる。8月以降、飲食店関係者を狙った事件が相次いでいる。切りつけ4件、不審火3件。県暴力団排除条例の改正で、公安委員会が発行する「暴力団員立入禁止」の標章を掲げた店への組員の立ち入りが禁じられた時期と重なる。



◎ママ闇討ち
 店々のドアを開けると、不審の目が返ってきた。クラブで働いて1年になる女性(21)は「110」と表示された携帯電話を見せてくれた。「自宅に入るまでこの状態。何かあれば発信ボタンでいいように。みんな怖がってますよ」
 客足は遠のくばかりだ。老舗飲食店の60代の経営者は、車のトランクに護身用のゴルフクラブを忍ばせていると語った。いつでも逃げられるようにとハイヒールをスニーカーに履き替えて店に出るママもいる。
 小倉北区のタクシー運転手(40)は首筋に22針、左手に18針の傷痕がある。


 9月7日午前1時前、いつも帰宅に使ってくれるスナック「美香月」のママ(35)から「迎えに来て」と電話が入った。大通りで拾ってマンションまでは数分。運転席からママの背中を見送っていた時だ。
 紺の作業着の男が暗闇から現れ、前かがみでママにぶつかってきた。「ギャー」。男がナタのようなものを振りかぶる。駆け寄って割って入った。顔と手に激痛が走った。
 「警察に言ったらわかっとうやろな」。男はそう言って走り去った。ママは隣で顔を覆って「痛い、痛い」とうめいていた。左ほおを切られ重傷だった。店には「暴力団員立入禁止」の標章を掲げていた。
 3日後、標章を張る約90軒の飲食店に一斉に電話がかかってきた。バーの男性オーナー(39)は「公衆電話」の表示に首をかしげながら電話をとった。「県警に協力しとろうが。次はおまえの番やぞ」。ドスの利いた声。店先の標章をすぐドライバーではぎ取った。
 県警は一連の事件を暴力団追放運動への報復の疑いがあるとみている。工藤会本部の応接間で木村博幹事長(59)に直撃した。


 「我々が組織的に関与したということは一切ありません。何かあれば工藤会という警察や報道のあり方はいかがなものか」
 手には工藤会に関する記事を集めたファイル。読み込まれた「警察学論集」という冊子。警察への敵意をむき出しにしてくる。
 「無理に市民と暴力団を対峙(たいじ)させる警察のやり方は問題があるのでは」「我々がいるから、不良外国人や半グレと言われる不良集団を根付かせない面もある」
 市内では2012年、工藤会担当だった元警部が銃撃されて重傷を負い、住宅街の倉庫ではロケット砲が見つかった。03年にはクラブに手榴弾(しゅりゅうだん)が投げ込まれ、現場で工藤会系組員が取り押さえられ死亡する事件も起きた。工藤会の犯行ではないのか。2時間にわたり問い重ねたが、相手の言い分は変わらなかった。
 大規模工事を請け負った業者は受注額の3%。飲食店は月1万から10万円前後。街で語られるみかじめ料の相場だ。「命とカネ、どっちが大事かってことです」。工藤会系組員にみかじめ料を払う飲食店の男性は語った。
 福岡県警暴力団対策部の藪正孝副部長(56)は「みかじめ料を払えば一時的に犯行はなくなるかもしれないが、要求はエスカレートする。子の世代にそれを引き継いでいいのか」と話す。

◎頼れぬ警察
 警察庁は4月から、全国の機動隊を投入して北九州市街地を巡回させている。窃盗や銃刀法違反など応援警官による検挙は約5カ月で290人。だが、県警には「街の全員を守るのは限界がある」の声も漏れる。
 元工藤会系の組員はこううそぶいた。「言うこと聞かんかったら殺せっていうのが小倉の極道。警察や自治体がほえない方が何も起きない。そっとしておいた方がいいのよ・・・

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