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朝日新聞社

東京湾岸・関東のインフラリスクを洗い出せ!〔災害大国・迫る危機〕

初出:2013年2月3日
WEB新書発売:2013年2月15日
朝日新聞

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 大地震がいつ起きても不思議はないと指摘される日本だが、とりわけ大都市湾岸部には石油コンビナートやガス基地など生活や産業に必要な燃料施設が集中し、原発停止後のエネルギー供給に不可欠な火力発電所も多い。地震による液状化や津波、有毒ガスの漏出、施設の火災や倒壊などの被害連鎖が懸念されるなか、各施設の耐震化策はどうなっているのか。東京・神奈川・千葉・埼玉・群馬・栃木・茨城の現状を専門家らと洗い出し、何が問題なのか詳しく報告する。

◇第1章 火力発電の6割が地震地域
◇第2章 大都市湾岸部、地震備えは
◇第3章 関東のインフラリスク
 〈東京都〉直下地震被害想定 停電や断水、区部で高率
 〈神奈川県〉最大被害 県の想定 停電や断水、5割超す
 〈千葉県〉県内に石油・高圧ガスタンク1231基 国の基準、13%未適合
 〈埼玉県〉停電・断水・帰宅困難者、震災教訓に対策模索
 〈群馬県〉断水6割、停電復旧に6日
 〈栃木県〉橋や水道 急がれる耐震化
 〈茨城県〉県、緊急輸送路の耐震化策


第1章 火力発電の6割が地震地域

◎高確率で「30年以内に震度6弱」
 出力が100万キロワット以上の主要な火力発電所のうち、6割を超える40施設が地震発生確率の高い地域にあることが朝日新聞の調べでわかった。多くの原発で再稼働の見通しが立たない中、依存度が高まっている火力発電。暮らしを支えるインフラのリスクが浮き彫りになった。
 国の地震調査研究推進本部が2011年12月に更新した地震動予測地図を使い、電力会社や特定規模電気事業者など計16社が持つ出力100万キロワット以上の火力発電所64施設の設置状況を調べた。その結果、人や建物に被害が出る可能性が高まる震度6弱以上の地震発生確率が30年以内に「26%以上」とされる地域に40施設が立っていた。「50%以上」の地域でも33施設にのぼった。
 地域別では、関東の全18施設/東海の全9施設/近畿の12施設のうち7施設/四国の全3施設/東北の5施設のうち2施設/九州の7施設のうち1施設――が地震発生確率26%以上の地域にあった。太平洋側の地域に多いのは、近い将来、首都直下地震や駿河湾から九州沖に延びる海底のくぼみ「南海トラフ」で巨大地震が起きるとみられているためだ。
 2011年3月の東京電力福島第一原発事故後、原発で再稼働したのは大飯(福井県)だけで、火力発電所への依存度は9割程度にまで高まっている。国は各火力発電所の耐震性能に問題はないとしているが、専門家の間では「原発事故前に稼働していなかった古い火力発電所が現在使われており、揺れや津波で壊れる可能性がある」との指摘もある。
 東日本大震災では、福島県広野町や茨城県東海村などの火力発電所で津波によって発電設備や石油・石炭燃料の貯蔵施設が大きく損壊し、復旧までに2カ月以上かかった。
 一方、電力と並んで重要なエネルギーインフラの都市ガス製造施設。国内には液化天然ガス(LNG)の受け入れ基地が計28施設あるが、このうち6割近い16施設が26%以上の地震発生確率地域にあった。50%以上は9施設だった。
 全国の17原発では、女川、福島第二、東海第二、浜岡の4原発が26%以上で、唯一稼働している大飯原発は0・1%だった。



〈インフラ〉 産業や社会生活の基盤となる施設。英語のインフラストラクチャーの略。電気、石油、ガスといったエネルギー関連のほか、学校や病院など生活に必要な社会資本も含まれる。高度経済成長期に造られた道路や橋などは、老朽化による危険性が指摘されている。


第2章 大都市湾岸部、地震備えは

◎燃料施設が集中 被害連鎖も
 生活や産業の基盤となるインフラ。地震の発生確率が高い大都市の湾岸部に広がる現状とどう向き合い、備えればいいのか。課題は多いが、できることもある。
 約3千万キロワット。東京電力が東京湾岸で動かす12カ所の火力発電所の出力量だ。東電管内で水力や風力を合わせた全出力量の約半分を占める。多くの原発の再稼働が遠のく中、暮らしに欠かせないインフラの現状はどうなっているのか。本社ヘリで上空から見た。


 東京から多摩川を越えて数分後、工場が立ち並ぶ根岸臨海地区が広がった。その中に、モクモクと白煙を上げる建物が見えた。1号機の運転が1970年に始まった「南横浜火力」(横浜市磯子区)だ。2、3号機も稼働から40年がたつ。さらに南へ向かうと、「横須賀火力」(神奈川県横須賀市)があった。
 64年5月〜67年1月に運転が始まった横須賀火力の3〜6号機は、福島第一原発事故の前は使われていなかった。しかし、現在は電力需給に対応するため、ほぼフル稼働している。
 地震動予測地図によると、横須賀火力がある地域では、30年以内に震度6弱以上の地震が起きる確率が三十数%に上る。東日本大震災で被害を受けた「広野火力」(福島県広野町)と「常陸那珂火力」(茨城県東海村)は復旧まで2カ月以上かかった。
 横須賀火力を含めた東京湾岸の12火力には計76の発電機があり、このうち26発電機について東電広報部は「経年化(老朽化)している」と認める。一方で「十分に補修し、耐震基準も満たしている」と強調する。
 取材に同行した浜田政則・早稲田大教授(地震防災工学)は「湾岸部には多数の石油タンクや液化天然ガス(LNG)基地などもある」と指摘。どの火力も2週間分ほどしか発電用燃料を備蓄しておらず、「仮に火力発電所が壊れなかったとしても、あふれた石油の流出で海上輸送が寸断されて燃料が供給できなくなる可能性もある」と話した。
 火力発電所や製油所など900近い事業所がある大阪府の堺泉北臨海コンビナート地区。府によると、この地区には「浮き屋根式」の石油タンクが130基ある。鍋の落としぶたのように液面に屋根を浮かせたものだが、地震の揺れで内部の石油が波立ち、あふれ出す「スロッシング現象」の恐れが指摘されている。
 浮き屋根とタンクの壁が接触して火災が起きる可能性もある中、130基のうち2012年度末までに耐震改修を終えたのはわずか5基。現時点で地盤の液状化対策をした事業所は4割にとどまっている。

◎対策には巨費と時間
 東京、伊勢、大阪、瀬戸内……。国内の主要な湾岸部は、南海トラフ巨大地震が懸念される太平洋側に広がる。対策は可能なのか・・・

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