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朝日新聞社

消えた伝統野菜 タネから考える豊かな食卓

初出:2012年12月25日〜12月27日
WEB新書発売:2013年3月1日
朝日新聞

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 食卓を彩る国産野菜のタネは、いまや8〜9割が海外で作られている。市場で工業製品のように形がそろった野菜が高値で取引されるため、種苗会社がつくった一代交配種の人気も高く、自らタネを採る農家は少数派だ。野菜を安定的に供給する上で役立ってはいるが、各地に古くから伝わる独特な野菜は姿を消そうとしている。伝統種を守ることを地域ビジネスにつなげる動きや、「シードバンク」と呼ばれる伝統野菜の種を保存する試みも始まっている。

◇第1章 国産野菜、種は外国から/種苗会社の国内採種は1〜2割
◇第2章 見た目重視 消える地方野菜/均質で収量多い一代交配種が席巻
◇第3章 野菜の個性に可能性/伝統種守り、地域ビジネス


第1章 国産野菜、種は外国から/種苗会社の国内採種は1〜2割

 俳句の春の季語にもなっているネギ坊主。坊主の部分を乾燥させ、手でもむと黒い種がたくさん採れる。ネギに限らず野菜の種を採る光景は、かつて農村でふつうに見られたが、近い将来、国内から消えてしまうかもしれない。
 「水菜はニュージーランド、小松菜は米国、キャベツはオーストラリア、トマトとニンジンはチリ、シシトウはタイ、春菊はデンマーク」
 10月初旬、鳥取市の農家の男性(62)は、育てている野菜の種の産地を次々とあげてみせた。種は毎年、種苗会社から購入。まいていたほうれん草の種は米国産だ。
 育てている約40品目のうち日本で採種した種はわさび菜と赤しそだけ。「20年前はもう少しあったが、今は日本で採れた種を探すほうが難しい」と言う。
 色とりどりの野菜も、もとをたどれば一粒の種だが、自分で採ると手間がかかり、品質もばらつく。このため高度成長期以降、多くの農家が種苗会社から買うようになった。種苗会社は1980年代から、広い土地を求め、舞台を海外に移しているが、消費者にはなかなか知られていない。




◎「安定供給のため」
 広大な大地に植えられた種を、コンバインに乗った男が刈り取っていく――。国内大手の種苗会社「サカタのタネ」(本社・横浜市)に取材を求めると、米国での種採りの写真が提供された。海外ならではの広い圃場(ほじょう)。しかし、どこで何を作っているのかは、企業秘密。同社は、北南米、欧州、中国など、世界19カ国の外部生産者へ委託して種を採っている。


 野菜の種の海外採種はどこまで進んでいるのか。国内の大手種苗2社は、サカタのタネが87%、タキイ種苗(本社・京都市)が8〜9割と明かす。国内での採種は全体の1〜2割。日本の食料自給率(カロリーベースで4割)よりずっと低い。
 両社によると、トマトの原産地が南米であるように、野菜栽培の適地は海外に多い。北半球、南半球に分けて種を採ることで、異常気象や災害のリスクも分散できるという。タキイの担当者は「種子の安定供給と、生産性を増やすことを考えるのは種苗会社の使命」と話す。



◎継承阻む高齢化
 海外化に押され、国内採種は減るばかりだ。大根の採種面積は400ヘクタールから65ヘクタールに、キャベツは165ヘクタールから35ヘクタールに。農林水産先端技術産業振興センター(現・農林水産・食品産業技術振興協会)の調査(09年度)からは、いずれも1990年から2007年にかけ、2割前後に落ち込んだことが分かる=表。
 日本海に突き出た京都府北部の丹後半島は国内採種の中心地のひとつだ。昭和30年代ごろから、交雑が起きにくい谷底の畑などで野菜の種が採られてきた。いまも一部の農家が大手種苗会社の委託で続けるが、数は大幅に減った。
 60代の農家の男性は「高齢化が進み、技術の継承も難しい。質の良い種を採る自信はあるし、重要な部分を担っている自負はあるが、海外の安い労働力には勝てない・・・

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