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朝日新聞社

東京スカイツリー物語(2) 世界一を彩る職人魂

初出:2012年9月11日〜2013年2月26日
WEB新書発売:2013年3月8日
朝日新聞

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 東京スカイツリーのあちこちに、わくわく感を高める仕掛けがある。鮮やかな空色のユニホーム、伝統の技を使ったミニツリー、人気の「ソラカラちゃん」など、それぞれの細部に込められた思いを紹介する。きっと誰かに話したくなるスカイツリートリビアも満載で、スカイツリーに行く前にも、行った後にも楽しめます。

◇第1章 シャトル飾る職人技 メードイン墨田が凝集
◇第2章 空イメージ色鮮やか 8職種 生地から気配り
◇第3章 カウンターに隅田川 組子の桜 切り子の花火
◇第4章 伝統の技でミニツリー 竹細工に新たな可能性
◇第5章 時空超え 重なる眺望 運命の出会い 展示の目玉
◇第6章 町人・武士 細部に躍動 風俗・習慣、名所の中に凝縮
◇第7章 お尻の下に国産天然素材 入手難の壁越え癒やし
◇第8章 とんがり星から人気者 公式キャラ65案から厳選
◇第9章 構想3ヶ月、3分で描く 声優は初挑戦し合格の24歳
◇第10章 「634」・風・音…秘密の数々 ぬくもり感じ食欲そそる?
◇第11章 文字・レール…工夫色々 ベンチにも足元にも
◇第12章 模様に伝統と現代と 裏側にも手元にもこだわり


第1章 シャトル飾る職人技 メードイン墨田が凝集

 東京スカイツリーの天望デッキと地上を結ぶエレベーター「天望シャトル」。ドアが開き、エレベーターに入った瞬間、目に飛び込んでくるのが、丹念に作り込まれたアートパネルだ。幅2メートル、高さ1メートル。正面と左右の、目線よりやや上に据え付けられている。


 4基あるエレベーターのパネルはそれぞれ四季に対応する。春は桜吹雪が舞う「桜の空」、夏の「隅田川の空」は大輪の花火を江戸切り子で表現した。鳳凰(ほうおう)が空へ舞い上がる秋の「祭(まつり)の空」は金を、平安歌人在原業平の歌にちなんだ冬の「都鳥の空」は銀を使う。
 コンセプトを考案したのは、デザイナーでクリエーティブディレクターでもある地元・墨田区在住の高橋正実さん(37)。秋と冬のパネルは、自らデザインもした。成田空港第1ターミナル中央ビルの空間デザインから、スプーンとフォークを一体にした「ラーメンフォーク」まで、幅広いデザインの実績を持つ。
 「都鳥の空」では、そびえ立つスカイツリーと富士山の頂を描き、未来も飛び交っているであろう都鳥(ユリカモメ)を「時空を超え、まだ見たことがない世界へとつないでいく存在として配置した」と高橋さん。白い雲には、江戸時代に楽しまれた「雪見」のイメージを重ねたという。
 「都鳥の空」の最大の特徴は、すべて「メードイン墨田」である点だ。よく見ると表面には凹凸があり、雲やスカイツリーは膨らんでいる。切った板に綿をのせ、生地でくるんで、のりづけしたという。実は、これは押し絵羽子板と同じ作り方だ。区内の工房「江戸押絵(おしえ)羽子板 むさしや豊山」に制作を頼んだ。
 26羽の真鍮(しんちゅう)製の鳥は、高橋さんが粘土で作った型を基に、窓や扉などの金具製造の「東日本金属」が作った。銀めっきを施し、薬品で黒くいぶして深みを出す。その後、表面の銀色を磨き出す。「納期は型が来て約1カ月後。新しいものを作るには厳しかったが、できるだけのことをした」と小林謙一社長。図柄に沿って木を組み合わせ、打ち付ける作業も、区内の「間中木工所」が担当した。
 高橋さんは、東武タワースカイツリー社から制作の依頼を受けた当初から、職人たちを巻き込もうと考えていたという。「私の個人的な仕事で終わってはもったいない。どうしたら職人さんの技を生かせるかを考えた」。伝統工芸だけでなく、工業や一般の目に触れる機会の少ない技を紹介することで、ものづくりへの再評価につながれば、と期待を込めた。多くの職人が快く引き受けてくれた。
 地元・本所でサッシや建材の施工、販売をする家庭に育った。父方は代々、ガラス職人で、母の実家も日本舞踊人形の職人。小さいころから職人に囲まれ、ものづくりが身近だった。「ここの技術とあそこの技術をミックスさせたらこんなものができて、20年後はこうなっているだろう」。イメージを膨らませた10代のころの経験が、デザイナーを志した原点にある。
 作品がスカイツリーの一部となったことで、「江戸以来の下町や墨田区のさまざまな人の生き方を発信できた」と笑顔で振り返る。「やるべきことが果たせたのかな」。


第2章 空イメージ色鮮やか 8職種 生地から気配り

 空色のワンピース、塔をイメージした黄色の三角模様、とんがり帽子……。
 東京スカイツリーのスタッフが着る制服は、ファッションブランド「ミナ ペルホネン」で知られるデザイナー皆川明さん(45)がデザインした。
 7月上旬の休日。皆川さんは一般客に交じって、家族でスカイツリーを訪れた。
 「あっ、かわいい」。小学生の娘たちが男性の清掃スタッフの制服を指さし、声を弾ませた。その制服は緑に白い水玉模様、頭には緑の帽子。明るい印象を与えているんだ。安心しながら展望台に向かった。
 依頼が舞い込んだのは、開業を2年後に控えた2010年6月。デザインしたのは、統括の「ディレクター」をはじめ、案内役の「誘導」、顔となる「インフォメーション」や「チケットカウンター」「ショップ」など8職種にのぼる。
 幅広い年齢層の来場者それぞれの印象に残るデザインを目指した。「年配の人は懐かしさを感じ、若者は『街で着られそう』と思え、子どもたちは働いている人だと分かるように」
 随所にスカイツリーらしさや楽しさを盛り込んだ。誘導の女性の服は空を連想させる青地に、塔をイメージした黄色の三角模様をいくつも並べた。
 チケットカウンターの係の服は前面に三角形をデザインし、空に伸びるタワーをイメージ。ショップには「TOKYO SKYTREE」の文字をリズミカルにちりばめた。
 「日本はファッションの消費は大きなボリュームがあるが、製造は縮小している。製造に活気をもたらしたい」との思いから、国内生産にこだわった。
 それも生地作りから気を配るのが「ミナ ペルホネン」の身上。多くはジャカードと呼ばれる複雑な紋織物で、優れた技術を持つ埼玉県飯能市の織物メーカー「マルナカ」が手掛けた。
 苦労したのが色合いだ。例えば、誘導の係の制服。青と黄色の糸で模様をつくる重ね織りをしていく。初めの試作の段階では互いの糸が見え隠れし、青と黄色が交ざって見えた。
 それぞれの色が鮮明に浮かび上がるよう求める皆川さん。それに応えようと、何度も作り直す職人たち。最後は思い通りの色にたどりついた。
 マルナカ社長の中里昌平さん(75)は「(開業前の内覧で)制服を着ている子たちが喜んでくれたのが印象的で、うれしかった」と振り返る。
 ブランド名のミナはフィンランド語で「私」、ペルホネンは「チョウ」を意味する。美しい模様の羽で世界で飛び回るチョウのように、いろんな図案を描いて、世界中で着てもらえる服にしよう――。ブランド名にそんな思いを込めている。
 スカイツリーが開業した5月22日は偶然、自分で作った服を初めて世に出した日に重なる。1995年。それまで働いていたアトリエの一角を借り、自ら縫ったブラウス、シャツ、ワンピースの3着を並べた。
 あのときから17年。「これほど大きなプロジェクトとのつながりを想像できなかった」。皆川さんの手から飛び立ったチョウは今、スカイツリーで世界の人々の目を楽しませている。



第3章 カウンターに隅田川 組子の桜 切り子の花火

 東京スカイツリーの中にも隅田の流れを――。500枚以上のイメージ図をごみ箱に放り込んだ後、スカイツリー内部の意匠を任された乃村工芸社(港区)のアートディレクター、花岡豊さん(51)が行き着いたのは、東京のシンボル隅田川のイメージだった。
 「天望デッキ」の当日券を販売する4階のチケットカウンター。多くの客に対応するため、長さは約12メートルある。この長さを隅田川に見立てることにした。
 ツリーの内部は、低層から上に進むのに伴って、時間も過去から未来へと流れる。「過去」である低層には、江戸時代からの伝統工芸や意匠が、いたる所に生かされている。
 隅田川のイメージを具現化するため、花岡さんらのチームが選んだのが、伝統の組子細工と江戸切り子ガラスだ。
 「本物で見せたい。日本の職人の手作りの迫力に、日本人も外国人も興味を持つはずだ」。組子は、和室のふすまや障子などの装飾に、釘を使わずに木を組み合わせて繊細な模様を生み出す技術。花岡さんはそれを使い、カウンターの背後に「墨堤(ぼくてい)の桜」を咲かせた。
 チームの若手、川崎英治さん(38)が職人を訪ねて回った。高さ約2・3メートル、幅約11・6メートル。おそらく世界最大となる組子細工の依頼に「考えられない」と首を振る職人もいた。知名度を得ようと安易に引き受ける職人を警戒し、ツリーの仕事だとは明かさなかった。
 桜は組子でよく描かれてきた模様だが、花岡さんらは、伝統的な組子の鋭角的な桜より、新たな形を求めた。「もっと膨らみのある花を」。職人たちは新たな道具作りから始め、「ツリーだけの桜」が咲いた。
 さらに完成した巨大な組子細工の後ろには和紙を貼った。組子の陰影を強調しつつ、和紙との一体感を出そうと照明も工夫し、春風の中でやわらかに散るような桜吹雪を再現した。
 もう一つの大道具、8枚の皿状の切り子ガラスは、カウンターの上に等間隔に配置。ライトアップと同じ「粋(いき)」の淡い青、「雅(みやび)」の江戸紫の光を当て、隅田川の花火を表現した。
 チームのアイデアを元にガラス制作にあたったのは「清水硝子(ガラス)」(葛飾区)だ。川崎さんらは、カウンターの設置場所と同じLEDライトがついた箱を同社に持ち込んだ。試作された、1枚ずつ模様の違う8枚のガラスをはめ込んでみて輝きをチェックしながら、同社の三田隆三工場長(79)らとともにデザインを煮詰めた。
 「多くのライトの光を当てるガラスを作ったことなんてなかった」。65年のキャリアを持つ三田さんは、LEDで浮かび上がるガラスの輝きの美しさに驚かされた。より美しく輝くように、一から作り直すほどの手直しを何度も重ねた。
 開業間際、実際に設置してみると、予想より輝きが鈍く見えるものもあった。急いでもう1枚、輝きを強める別の模様のガラスを作り、下に重ねた。だから、8カ所にはめ込まれたガラスは、実は9枚ある。
 「この年になって思いがけず、今回の仕事から新たに学んだことは多かった」
 老職人にとっても初めてずくめの経験が、ツリーの足元で伝統工芸に新風を吹き込む。



第4章 伝統の技でミニツリー 竹細工に新たな可能性

 漆塗り、和紙、磁器、飾り結び……。日本が誇る伝統の技のミニ博物館のようだ。東京スカイツリー4階の壁に12本が並ぶ、高さ3メートル「スーパークラフトツリー」。1本ずつ、違った工芸を生かして作られた。それぞれが、スカイツリー本体の構造の特徴をシンボル化したミニツリーとなっている。
 これらのツリーをデザインしたのは、橋本夕紀夫さん(50)。できるだけ長く愛される物を作りたい。そんな思いで仕事を重ねるうち、日本の伝統工芸に行き着いたデザイナーだ。
 漆塗りやちょうちん作りの技術を用いながらも、モダンなデザインは、海外で高く評価された。米国やアジアでホテルやレストランの建築、インテリアに多く採用された作風は、スカイツリー4階のテーマ「過去」にぴったりだった。
 「伝統工芸に興味を持ってほしい。日本には面白いものがあるんだな、と」
 橋本さんがクラフトツリーに込めた狙いを具現化したのは、東は東京、西は大分までの伝統工芸の職人たちだった。


 中でも最若手の大橋重臣さん(39)は、東京スカイツリーの心棒となる「心柱」をテーマにした竹細工のツリーを、ほとんど1人で作り上げた・・・

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