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朝日新聞社

原発依存のままでは「炭鉱の町」になる 「原子のクニ」 原発マネー

初出:2013年1月8日〜1月14日
WEB新書発売:2013年3月8日
朝日新聞

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 佐賀県玄海町の歳入の6割が九電玄海原発がらみの交付金と固定資産税だという。この莫大なカネが豪勢なハコモノ施設に化けた。さらに「生活利便性向上事業」など交付金の使途は拡大し、施設の赤字や税収の落ち込み分は使用済み核燃料への課税でカバーしようと目論む。市民団体員は「あぶく銭」に依存した町がいずれ「炭鉱の町」のように廃れることを懸念し、地方財政の専門家は電源三法の功罪を説く。町と人心を麻痺させた原発マネーの実態を、資料とともに明らかにする。

◇第1章 玄海町潤す「あぶく銭」
◇第2章 交付金、37年で813億円
◇第3章 使途様々、無縁な分野も
◇第4章 見切り発車の巨額整備
◇第5章 制度緩和で使い道拡大
◇第6章 世界に冠たる推進体系


第1章 玄海町潤す「あぶく銭」

 玄界灘から大きく入り込んだ仮屋湾にそそぐ有浦川の河口に干拓地がある。
 限られた平地に、玄海町の町民会館や体育館、運動場など4施設がひしめく。
 1980年代後半から90年代前半にかけて整備された、これらの施設の事業費は計45億1300万円余り。うち96%を占めるのが、原発を立地することでもたらされた交付金だ。
 九州電力玄海原発1〜4号機が立地する町を歩くと、「電源立地促進対策交付金施設」などと記されたプレートが取り付けられた施設を多く目にする。
 「(85年着工の)3、4号機増設に係る交付金を受けて建設した」。町民会館と体育館の前にある記念碑にも、こんな説明文が、当時の町幹部や町議、施工した建設会社などの名前とともに刻まれている。

◎――次々と施設整備
 1号機の稼働開始は75年。以来、町は原発関連の交付金を利用し、保育園、老人ホーム、学校のプールや照明、漁業関係施設、浄水施設など、至る所の整備を進めてきた。
 2009年に国内初の営業運転が始まった3号機でのプルサーマル発電の受け入れにより、新たに30億円の「核燃料サイクル交付金」も配分されることになった。翌年に無投票再選を果たした岸本英雄町長は、こう掲げた。「原発のある町から、原発もある町に」
 新たな交付金は11年オープンの「薬用植物栽培研究所」、13年4月以降オープン予定の「次世代エネルギーパーク」に使われ、残額は藤ノ平ダム南側の町道改良工事につぎ込んでいる。
 台地に大きな河川はなく、しばしば干ばつに襲われた町はかつて、「佐賀のチベット」と呼ばれた。人々は出稼ぎを余儀なくされた。
 しかし、原発誘致で切れ目なく続く「原発マネー」を得た町は、95年度から全国でも数少ない地方交付税交付金を必要としない自治体になった。
 町民1人あたりの所得も09年度、県内20市町で3番目に高い275万8千円となった。12年度までの原発絡みの交付金の総額は290億円にものぼる。
 とはいえ、人口は、原発が動き始めたときより千人ほど減って6千人余りになり、学校は統合が進む。
 3・11後、すべての原発が止まるという「想定外」の事態を突きつけられた町は、町財政を試算した。
 11年にすべて廃炉になっていた場合、12年度から固定資産税はゼロ、電源立地地域対策交付金も大幅に減少、13年度の歳入は12年度に比べ3割超も減る。稼働した場合でも、固定資産税は年々減少するため、14年度には地方交付税交付金を必要とする自治体に転落するという。

◎――町「供給の対価」
 原発に絡む交付金や固定資産税が歳入の約6割を占める玄海町。岸本町長は12年6月の町議会で「税収が減り、近い将来、交付団体になる。住民サービスが低下しないようにしなければならない」と、新たに使用済み核燃料への課税をにおわせた。
 こうした町の姿勢に、唐津市の60代の男性は批判する。「財政が原発に依存してしまっている。あぶく銭で町を運営し、交付金が受けられないとなると騒ぎ立てる。今までいい目にあってきているのに」
 町の幹部は「対価」だと反論する。「どこかが電力を供給しなければいけない。それに、うちはほかの自治体のように地方交付税交付金をもらっていない」
 九電は想定する再稼働の時期を、玄海原発は13年12月と打ち出している。12年末、政権に復帰した自民党は、民主党政権時代の「30年代に原発稼働ゼロ」方針を見直しそうだ。岸本町長は言う。「年内に再稼働できる状態になるのが理想。なるべく早い時期に判断してもらうとありがたい」



第2章 交付金、37年で813億円

 九州電力玄海原発1〜4号機が玄海町に立地したことに伴い、これまでどのくらいの交付金が国からもたらされているのか――。
 朝日新聞佐賀総局が、県と玄海町に照会して集計したところ、1号機が運転を始めた1975年度から2011年度までの37年間に、少なくとも計813億7600万円を受け取っていることが分かった。
 一口に交付金といっても様々な名目で交付され、目的も時代と共に変化している。
 交付金は「電源開発促進税法」「発電用施設周辺地域整備法」「電源開発促進対策特別会計法」のいわゆる「電源三法」に基づいて、国から原子力関連施設の立地、周辺自治体に交付される。交付金制度は1974年に始まり、当初は立地に伴う「迷惑料」としての意味合いが強かったといわれている。

◎――事故で「地元対策」
 県や玄海町によると、玄海原発の立地に伴う交付金(一部は水力、火力分を含む)は、交付期限が終わった分を含めて11種類もある(次の表参照)。このうち、交付金の9割弱を占める電源立地地域対策交付金の年度ごとの内訳を分析してみよう。


 1号機が運転開始した75年度は、着工から運転開始5年後まで交付される「電源立地促進対策交付金相当部分〈(1)〉」が、まず5億6800万円交付された。これは98年度まで続き、総額は239億4400万円に上った。
 2号機の運転が始まった81年度には、発電した電気を県外に供給している自治体に国から交付される「電源移出県等交付金相当部分〈(2)〉」の1億円と、玄海町と唐津市の一部の家庭・企業の実質的な電気料金の割引にあてられる「原子力発電施設等周辺地域交付金相当部分〈(3)〉」の7200万円が交付された。
 これらは、79年に米国で発生したスリーマイル島原発事故を受け、原発への逆風が強まったため、地元対策として新たに創設された交付金といわれている。
 3・4号機が着工した85年度には、(1)が30億2800万円と前年度から大幅にアップした。これは発電出力に応じて算定されるが、3・4号機は出力が各118万キロワットで、1・2号機の55.9万キロワットの倍以上あることが主な理由だ。

◎――近年は「地域振興」
 90年代に入ると、交付金の名目も変化した。
 「地域振興」を主な目的とし、97年度には立地自治体に直接交付される「原子力発電施設等立地地域長期発展対策交付金相当部分〈(4)〉」が創設された。
 すぐさま玄海町に3億2千万円が交付された。(4)は炉が古くなるほど増額される仕組みで、2011年度には14億4500万円にまで膨らんでいる。現在では(2)と並んで主な「収入源」となっており、電源立地地域対策交付金の総額は、11年度は過去最高の35億6500万円に上っている。
 さらに、08年度からは新たに「核燃料サイクル交付金」が加わった。これは玄海3号機でプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を使って発電するプルサーマル運転に、県が同意したことに伴う交付金で、これまでに21億6700万円が入ってきた。
 (2)〜(4)の交付金は運転終了まで毎年入ってくる仕組みで、原発が稼働中かどうかは問わず、当面は継続されるという。


第3章 使途様々、無縁な分野も

 37年間で813億円を超える交付金。こうした原発マネーは何に使われているのか。2011年度を例に見ていこう。
 11年度は10種類の交付金が交付された(次の表参照)。


 3月11日に東日本大震災が発生したことを受け、県はまず、玄海原発で事故が発生した場合に必要な資機材の配備を進めた。
 服用すれば事故の際に放射性ヨウ素の影響を減らすことができる安定ヨウ素剤の、すでに配備していた分を更新した。原発から半径5キロ圏内の住民1万1700人の3日分、13万2千丸だ。
 地元の保健所職員らが着用する防護服もそろえた。事故の際、主に住民が被曝(ひばく)していないかを調べる、放射性物質測定用のサーベイメーターを購入したほか、大気中の放射線量を測るモニタリングポストを増設したり、専用の発電機を購入したりする費用にも充てた。放射線の内部被曝量を検査できるホールボディーカウンターなど専用機器の保守点検費用にも使った。
 これらは、緊急時の防災体制を整えるために使える原子力発電施設等緊急時安全対策交付金や、原発周辺の放射線量の状況調査に使える放射線監視等交付金が充てられた。

◎――虹の松原 景観維持
 一方で、玄海原発が立地する玄海町、隣接する唐津市の一部地域には「地域振興」の名目で様々な事業に支出された。
 黒松を中心に約100万本のマツが生い茂り、「日本一の松原」とされる唐津市の虹の松原は、国の特別名勝に指定されている。
 その虹の松原の景観向上のため広葉樹を伐採する事業のほか、近くの鏡山公園の古くなったトイレや展望台の整備にも、交付金が充てられている。2億3300万円が核燃料サイクル交付金から支出された。
 この交付金は、原発の設置や運転を「円滑に進めるため」に使うことができる。
 具体的には、立地する地元の地域活性化に使われる。玄海町と唐津市から要望があった事業について県がとりまとめ「地域振興計画」を作成。国に提出して承認を受けている。
 盛り込まれた事業は、虹の松原のほかに、玄海町の薬用植物の栽培研究開発事業、唐津市の水産業活性化支援事業などがある。原発とは関係がないが、県くらし環境本部企画・経営グループはこう説明する。「地域振興に使うことで、プルサーマル発電の必要性について、地域の理解が進む」
 同じ地域で従業員3人以上の企業を新設・増設し、電力契約をした場合、8年間、実質的に電気料金を割り引く「原子力発電施設等周辺地域企業立地支援事業費補助金」の制度がある。玄海原発周辺では約30件が対象で、1億2千万円の補助を受けている。

◎――調査船建造、教育に
 原発マネーは海の分野にも広がっている・・・

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