経済・雇用
朝日新聞社

成長市場・東南アジアに挑む「日本流」営業・販売の新潮流

初出:朝日新聞2013年2月6日〜3月15日
WEB新書発売:2013年3月29日
朝日新聞

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 成長を続ける東南アジアの国々で日本製品を売るための「日本流」に新潮流が出てきている。かつて「ちょっと高めの品ぞろえ」で買い物に意欲的な中間所得層を取り込んできたスーパーは戦略を転換し、「安売り」競争にも参入する。また出店が加速しているコンビニ各社は現地の感覚や舌に寄り添う「現地化」を進める。東南アジアで新たな「日本流」が生まれようとしている。

◇第1章 気配り営業に本領
◇第2章 安値の波、小売り新戦略
◇第3章 コンビニ、現地化追究
◇第4章 日本発、アジアで熱い


第1章 気配り営業に本領

◎飲料食品・小売り、欧米系に対抗
 日本の少子高齢化に危機感をもつ飲料食品、小売企業が東南アジア展開を急いでいる。現地では地元有力企業や先行する欧米系外資が立ちはだかる。日本でみがいたノウハウが通用するのか。現状や課題を追った。
 ベトナム・ホーチミン市の夜の酒場。「SAPPORO」のロゴが入った黒のワンピースの女性が、笑顔を振りまく。サッポロホールディングス現地法人の派遣社員だ。英サブミラー社のビール「ガンブリヌス」を売る女性も動き回る。でも、サッポロの販売員の動きは少し違う。
 落ちた箸をひろう。他メーカーの瓶でも開ける。そんな気配りが目につく。1杯目はオランダのハイネケンだった男性客は「親切にされ、ついサッポロを頼んじゃった」。


 ベトナムは、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国で人口は3位。今後の成長株とみて世界のビールが攻勢をかける。
 日本のビール市場は16年連続で縮小中だ。需要を求め、サッポロは1年ほど前にここで本格営業を始めた。現地生産の「サッポロプレミアム」は、値段が現地ビールのほぼ倍、1ケース40万ドン(約1800円)前後の高級ビールだ。
 営業の女性約650人を雇ったが、愛想笑いは苦手、接客もやや雑――それがサッポロ現地法人社長の岸裕文さん(50)の第一印象だった。だがベトナム人が納得できるように説明を重ね、丁寧さが売りの日本式営業が身についてきた。「日本では当たり前のやり方で違いがつくことがわかってきた」と岸さん。
 日本式を現地に持ち込む先輩企業は少なくない。
 菓子のロッテは15年前にベトナムに出て、現地シェア首位・米ガム大手リグレーの背中を追う。1千人の直販員がガム「キシリトール」などをバイクに積み、1人1日50店を回る。他社なら放置しがちな賞味期限切れ商品をこまめに取り換える。商談などで約束の時間をきちんと守るのも、現地では新鮮に映るという。
 ただ、現地での陳列棚の確保は店に払う販促費の多さに左右されがち。投資の先行は避けられず、ロッテは黒字化に11年かかった。サッポロはまだ赤字だ。
 明治シンガポール法人の悩みも、チョコレートやビスケットの営業で、販促費がかさむこと。胡加禄(オウカーロク)・営業部長は「価格競争は年々厳しくなっている」と嘆く。
 それでも、目立ち、手にとってもらわなければ始まらない。そのきっかけを作るのが営業の仕事だ。



◎成長市場に熱い視線
 日本にとって、東南アジアはかつて安い労働力で自動車や家電を作る「製造」の拠点だった。1970〜80年代に進出が加速し、85年のプラザ合意による円高が後押しした。
 食品や小売業も、現地で物を売る「市場」の可能性に注目し、味の素は63年にタイに工場を稼働、伊勢丹は72年にシンガポールに店を出した。イオンは84年にマレーシアに進出した。高度成長やバブル経済でたくわえた力を、さらなる拡大に振り向けたのだ。
 そして今、野村証券アナリストの正田雅史氏は「(2008年の)リーマン・ショックの打撃が一段落したここ2年、進出が増えている」と話す。東南アジアの人々も昔より飛躍的に豊かになり、たとえばベトナムは11年の1人当たり名目GDP(国内総生産)が1407ドルで、20年前の約10倍の規模だ。
 熱視線を集めてきた中国が家賃や人件費の上昇、日中関係の緊張に見舞われ、東南アジアの再評価につながっている面もある。
 進出歴が長い企業も、ここへ来て事業のてこ入れに動いている。日本アセアンセンターの中西宏太さんは「食品や小売りは人口がモノを言う。日本国内が高齢化し、若者の多い市場に出て行かざるを得なくなった」と、日系企業の切実さを強調する。


第2章 安値の波、小売り新戦略

◎独自商品で勝負 日本食で差別化
 ちょっと高めの品ぞろえの店を構え、買い物に意欲的な中間所得層の台頭を待つ――小売業が基本に据える東南アジア戦略だ。この「日本流」がいま、修正を迫られている。
 マレーシアの首都クアラルンプールにあるイオンのスーパー「バンダーウタマ店」。日本のイオンと趣がちがい、シャネル、ランコムなどの高級化粧品が並ぶ。食品売り場では、割高な有機野菜が売られる。
 イオンは1984年に進出し、いま30店。マレーシアの1人当たり国内総生産(GDP)は先進国水準とされる1万ドル目前で、売り上げは伸びている。
 しかし、消費者の目は肥え、多様性を帯びてきた。現地スーパー「ジャイアント」で買い物していた女性(55)は「イオンに行くのは特売日だけ・・・

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成長市場・東南アジアに挑む「日本流」営業・販売の新潮流
216円(税込)

成長を続ける東南アジアの国々で日本製品を売るための「日本流」に新潮流が出てきている。かつて「ちょっと高めの品ぞろえ」で買い物に意欲的な中間所得層を取り込んできたスーパーは戦略を転換し、「安売り」競争にも参入する。また出店が加速しているコンビニ各社は現地の感覚や舌に寄り添う「現地化」を進める。東南アジアで新たな「日本流」が生まれようとしている。[掲載]朝日新聞(2013年2月6日〜3月15日、5400字)

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