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社会・メディア
朝日新聞社

ビリオメディアの時代 ビッグデータが映し出す「世界」

初出:2013年3月12日〜16日
WEB新書発売:2013年3月29日
朝日新聞

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 10億人(ビリオン)を超す人々が使うソーシャルメディアや、全地球測位システム(GPS)がもたらす膨大な情報(ビッグデータ)を、朝日新聞は「ビリオメディア」と名づけ、それが映し出す世界を、さまざまな角度から取り上げている。天候についてのつぶやきを、より正確な天気速報に活かすウェザーニュースの試み、防災関連のキーワードの検索頻度から、地域ごとの防災意識の違いをさぐる調査、東日本大震災から2周年を経た2012年3月11日のつぶやきや検索キーワードの過去との比較など、ビッグデータの可能性をさぐる。

第1章 今も震災の渦中に つぶやきながら被災地を歩く
第2章 ビッグデータ、防災に活用
第3章 防災意識、太平洋側高め/大地震予測と一致
第4章 「震災」ツイート 2012年より2割増
第5章 ネットの関心、動く/東日本大震災、つぶやき・検索この2年


第1章 今も震災の渦中に つぶやきながら被災地を歩く

 「がんばろう東北!」というのぼりの前に、客引きの男たちがたたずむ。被災地を歩いた記者は2013年3月12日未明、「ぶんちょう」と呼ばれる東北地方最大の繁華街、仙台・国分町にいた。ほろ酔いの人波が続くネオンの陰にも、鎮魂の思いがあった。
 震災直後に取材に入った宮城県を11日、ツイッターでつぶやきながら再び訪ねた。2年の時間を読者(フォロワー)と一緒に考えたいと思った。企画「ビリオメディア」の手法だ。
 午後11時半すぎ、仙台市の女性から、こんなつぶやきが届いた。

 「今も震災という災害の渦中にいると思っています。2年は区切りではありません」

 居酒屋で聞いてみた。キャバクラの仕事を終えたミキさん(24)とミナミさん(22)。午後2時46分、それぞれ自宅で黙祷(もくとう)したと言った。津波で流された親戚がいる。九死に一生を得たという客に津波の恐ろしさを聞いた。「心に刻む特別な日」。そんな言葉が口をついて出た。
 11日正午すぎ、気仙沼港で大島中学3年の遠藤優美さん(15)と再会した。


 家は流され、祖父母は行方不明。震災4日後、避難所で炊事当番をしていた。当時、「悲しんでいても何もならない」と気丈だったが、質問を重ねるうち泣き崩れた。記者は同級生に「サイテー」と非難された。
 2年を経て、明かしてくれた。「本当は泣き虫だから、必死で我慢していた」。記者を思い切りひっぱたきたかったとも言った。11日の船上での慰霊は、参列を直前で見送った。「涙は卒業式で十分に流しました」。やはり気丈だった。
 やりとりをツイートすると、12年父を亡くしたという女性から反応があった。心の整理をどうつけるか。

 「泣きながら読みました」

 南三陸町では、追悼式に参列した後藤正博さん(50)が、こう語った。
 「1年目は無我夢中。なんとか乗り切っていこうという思いだった。色んなものが落ち着いた2年目。もっとつらかった」
 妻の弘美さん(当時46)は公立志津川病院の看護師で2男1女の母だった。患者を守ろうとしながら流された。3年目は「気持ちの切り替えの時期」という。
 阪神大震災を経験した女性は、こうつぶやいた。

 「前を向けない人に、前を向いてがんばることばかりを強要しないでほしい。じゅうぶん悲しんで、立ち上がっていけるような支援を」

 つぶやきへの反応は約170件。こんな声もあった。

 「忘れず考え動かなければ、と改めて考えさせられた」


第2章 ビッグデータ、防災に活用

 ツイッターのつぶやきなどデジタル空間にある膨大な情報「ビッグデータ」を、防災や災害対応にいかす取り組みが進んでいる。自然災害の予測、被災者のニーズ把握、緊急時の人の動きの分析。商品開発をはじめとする企業のツールから、暮らしを守る手立てに役割が広がる。


 「みぞれが雪に」「どんどん積もってる」。首都圏が7年ぶりの大雪となった2013年1月14日朝、気象情報会社ウェザーニューズ(千葉市)に情報が刻々と入った。
 気象庁は早朝まで「雪より雨の可能性が高い」としていた。都内の大雪注意報は午前10時41分。これに対し、ウェザーニューズは「都市部でも大雪」と気象庁の注意報より1時間ほど早く伝えた。この日届いた計3万4千件の生情報、ビッグデータが支えた。
 「ウェザーリポーター」が全国に400万人。所在地の天候を携帯電話などから届けてくれる。全国約1300カ所の地域気象観測システム(アメダス)よりきめ細かで、つぶさに変化が分かる。
 一方、気象庁が「大雪」と予報した2月6日もビッグデータが生きた。ウェザーニューズは、当時の気圧配置と過去のデータとをあわせた分析から「大雪にはならない」。結果は、「大雪」には遠く、JR東日本は列車の運転を間引いて備えたため、都心はかえって混乱した。
 何げないツイッターのつぶやきの活用も進む。ウェブサイト「ふってきったー」。雨や雪、地名がそろったツイートを地図に反映させている。運営する国立情報学研究所の北本朝展(あさのぶ)准教授は「ビッグデータが行政の情報を補完すれば防災にも役立つ」と話す。
 2年前にもチャンスはあった。東日本大震災の発生直後、経済産業省は「不足」と一緒につぶやかれた言葉を調べた。例えば乾電池。ニーズが高いのは「単1」と突き止めた。分析は発展途上で、十分には生かせなかった。精度を上げ、実地訓練もしたいという。被災地にカップ麺が届いても、お湯がわかせないといったミスマッチを解消する可能性を秘める。
 企業も動く。グーグルやツイッターの日本法人など8社は12年秋、共同研究の場を持った。震災直後のネット検索、つぶやき、携帯の位置情報による人の動きを研究者らに公開し、次への備えを探る。

□〈ビッグデータ〉 ツイッターでのつぶやきや、携帯端末の全地球測位システム(GPS)などで刻々と積み上がる膨大な情報で、人々の意向を探るのに使われてきた。商品開発などの分野からまず活用が進んだ。ビッグデータをもたらすのは10億(ビリオン)を超す人々が使うソーシャルメディアなどでの発信で、朝日新聞はこれをビリオメディアと名付けている。


第3章 防災意識、太平洋側高め/大地震予測と一致

 東日本大震災から2年を経て、国民のリスク意識が太平洋岸で高まった半面、日本海側では関心が低いままになっている様子が分かった。ネット検索やツイッターなどで日々積み上がる「ビッグデータ」を分析した。災害への関心を広く伝え、防災意識を保つ難しさが浮かび上がる。

◎〈ネット検索・つぶやきを〉ヤフー・NTT系と分析
 リスク意識を探る手がかりとして、ネット検索大手「ヤフー」の協力で「防災グッズ」という言葉の検索頻度を調べた。最多だった2011年3月13日を100として指数化し、都道府県ごとの比較では検索全体に占める割合を4段階でみた。ツイッターのつぶやき分析は「NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション」の協力を得た。
 それによると、「防災グッズ」の検索はもともと、地震・津波への懸念が強い高知、静岡、和歌山の各県で多かった。震災直後は、東北、関東などでも検索が増えていった。簡易トイレ、ラジオ、ヘルメットなどがあわせて検索された。


 関東から四国にかけては、政府が12年12月に示した「全国地震動予測地図」で、今後30年以内に震度6弱以上の揺れに襲われる確率が高いとされた。こうした地域では東日本大震災の後、リスク意識が共有されていたことがうかがえる。
 ある大手ホームセンターでは「静岡県では防災関連の商品の売り上げが(他県と比べ)2倍近い・・・

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