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朝日新聞社

殺人マダニが運ぶ恐怖の感染症 ウイルスの特徴と防御法

初出:2013年2月20日・3月21日
WEB新書発売:2013年3月29日
朝日新聞

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 38度以上の発熱や下痢、腹痛などの症状が現れ、血小板や白血球が減る。中国での致死率は12%――。2013年1月、日本で初めて重症熱性血小板減少症候群による死者が確認された。野外にいるマダニを介してウイルスに感染するとみられる。爆発的に広がる恐れは低いものの、春からはマダニが活発に活動しだす。マダニからウイルスが広がるサイクルや簡単な防御法などを紹介する。

第1章 追跡 マダニ感染症
第2章 ダニ恐々


第1章 追跡 マダニ感染症

 2013年1月、国内で初めて報告された重症熱性血小板減少症候群(SFTS)。野外にいるマダニを介してウイルスに感染するとみられ、過去8人の発症者が確認された。以前からあった感染症で、爆発的に広がる恐れは低いとみられるが、実態調査が本格化するのはこれからだ。マダニがウイルスを持つ割合や地域的な広がりなど謎も残っている。

◎以前から国内に存在
 1月末に国内で初めてSFTSによる死者が確認されたのを機に、次々に過去の患者が見つかった。これまでに5人が死亡し、3人が回復していたことが判明。古い例は、2005年までさかのぼった。
 原因ウイルスが米医学誌に報告されたのは2年前だ。09年に中国で多数の患者が出たことで、病気の解明が進んだ。38度以上の発熱や下痢、腹痛などの症状が現れ、血小板や白血球が減る。中国での致死率は12%。マダニを介して広がるブニヤウイルス科の新種とわかった。
 中国で見つかった患者は約200人で、97%は森林・丘陵地域に住み農作業に携わる人たちだった。
 一方、国内の8人はいずれも直前の渡航歴がなく、ウイルスの遺伝情報も中国とは一部異なる。このため、現時点では、以前から国内に広がっていたウイルスとみられている。
 これまで感染例が埋もれていたのはウイルスの目立ちにくい性質のためだ。細菌より微小で、未知のものは検出が難しい。爆発的に感染が広がるわけでもなく、高熱などの症状もほかの病気と共通する。死亡した宮崎県の男性はダニの一種のツツガムシが媒介するつつが虫病が疑われたが、今回明らかになるまで原因不明のままだった。
 国内の8人のうち2人はマダニにかまれていた。国立感染症研究所ウイルス第一部の西條政幸部長は「このウイルスはマダニが媒介するブニヤウイルスの一種。国内でもマダニから感染していると考えられる」と話す。


 国内の広がりはまだ見えない。これまでに調べたのは過去に保存されていた血液など35検体。発症が確認された8人はいずれも50代以上で西日本在住だったが、「東日本にもマダニはいる。SFTSに限らずダニを介した感染症には注意が必要だ」と川崎市衛生研究所の岡部信彦所長は指摘する。
 検査対象は死亡や重症患者に絞られ数も少ないため、軽症者の割合や年齢による傾向など病気の全体像も不明だ。厚生労働省は3月、医療機関に新たな患者の届け出を義務付けた。住民の血液を調べ、過去に感染した痕跡があるかを調べる調査も検討している。
 国内のマダニがウイルスを持つ割合も分かっていない。中国の流行地域では5・4%だった。マダニは、動物の血を吸って栄養を得る。ウイルスは唾液(だえき)を通じて動物に感染。感染した動物の血を別のマダニが吸うことでマダニの間で広がっていくと考えられている。


 山東省の調査では、ヤギ134頭の血液中の83%にウイルスの抗体が確認された。江蘇省の調査では、牛や犬、豚などでも確認された。ただ、これらの動物が発症するかどうかは分かっていない。人同士の間では感染者の血液や体液が体内に入ることで感染するケースの報告はあるが、せきやくしゃみといった飛沫(ひまつ)感染は確認されていない。

◎春から活発、草に注意
 ダニを介した感染症は、ほかにも国内で報告されている。日本紅斑熱が年間約180件、ライム病約10件、つつが虫病約400件と、蚊などに比べると、いずれも多くない。
 春になり、マダニが活動する季節を迎えるが、北海道立衛生研究所の伊東拓也主査(衛生昆虫学)は「普段の生活を変える必要はない。マダニのいる場所に入る時に、気をつければいい・・・

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