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政治・国際
朝日新聞社

衆院選「無効」判決の衝撃 一票の格差問題が暴いた危機

初出:2013年3月26日〜3月28日
WEB新書発売:2013年4月5日
朝日新聞

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 「一票の格差」が最大で2・43倍となった2012年12月の衆院選をめぐり、広島高裁などで2件の「選挙無効」判決が出された。弁護士グループが「無効(やり直し)」を求めた16件の訴訟で「合憲」の判断は一つもなかった。広島高裁の判決要旨も収録し、初の選挙無効判決の意味と衝撃を立体的に紹介する。

◇第1章 一票の格差「合憲」ゼロ/16判決出そろう 秋田も「違憲」
◇第2章 衆院選、初の無効判決/2012年投票、広島1・2区
◇第3章 司法、格差放置許さず/「投票価値の平等、悪化の一途」
◇第4章 政治、是正怠慢のツケ
◇第5章 一票が暴いた危機
◇第6章 一票の格差 広島高裁判決〈要旨〉


第1章 一票の格差「合憲」ゼロ/16判決出そろう 秋田も「違憲」


 「一票の格差」が最大2・43倍だった2012年12月の衆院選について、弁護士グループが無効(やり直し)を求めた16件の訴訟は13年3月27日、仙台高裁秋田支部(久我泰博裁判長)で「訴えがあった秋田1区の選挙は、違憲だが有効」との判決が言い渡され、すべての高裁判決が出そろった。16件中14件が「違憲」と判断し、このうち2件は「選挙無効」にまで踏み込んだ。
 残る2件は、憲法が要求する平等に反する状態にあるが、是正に必要な合理的期間は超えていないとする「違憲状態」の判決。違憲状態にも至らない「合憲」はゼロだった。
 格差が最大2・30倍だった前回2009年の衆院選をめぐる訴訟では、9件の高裁判決のうち4件が「違憲」(無効はなし)で、3件は「違憲状態」。「合憲」も2件あった。


 各高裁の判断を統一する最高裁判決は、早ければ13年秋にも言い渡される。11年3月の最高裁判決は、09年選挙を「違憲状態」とし、地方に手厚く議席を配分する「1人別枠方式」の廃止を求めたが、選挙は前回と同じ区割りで行われた。今回、多くの高裁はこれを厳しく見て違憲と断じた。
 この流れを踏まえ、最高裁が違憲判断を示す可能性が高まっている。仮に「無効」にまで踏み込めば、国政選挙では最高裁として初めてとなるが、可能性は低いとみられる。「違憲だが有効」という判断なら、1985年以来となる。

□〈12年12月の衆院選の「一票の格差」〉
 小選挙区間の最大格差は、有権者数が約20万4千人の高知3区と約49万5千人の千葉4区の間で2・43倍。最高裁が11年3月に「違憲状態」と判断した09年の衆院選の2・30倍を上回った。
 憲法が保障する「法の下の平等」に反するとして、選挙の無効を訴える裁判が14カ所の高裁・支部に計16件起こされた。
 国会は12年11月の衆院解散当日、小選挙区定数の「0増5減」を成立させたが、それに基づく区割りは衆院選に間に合わなかった。現在、その区割り作業が進んでいる。


第2章 衆院選、初の無効判決/2012年投票、広島1・2区


 広島高裁(筏津(いかだつ)順子裁判長)は25日、広島1、2区について「違憲で無効」とする判決を言い渡した。国政選挙の無効判決は戦後初めて。

 ただ筏津裁判長は、地方に議席を手厚く配分するため、47都道府県にまず1議席ずつを割り当てる「1人別枠方式」が廃止された後、衆議院の選挙区画定審議会(区画審)が、12年11月26日から区割り改定作業を始めているなどの事情を重視。直ちには無効とせず、1年後の13年11月26日を過ぎた段階で無効とする、異例の猶予期間を設けた。効力を判決後の一定時点から発生させる「将来効判決」の方法で、国会に、区割りの早期是正と、新たな区割りによる選挙のやり直しを強く迫る内容だ。
 判決はまず、現行区割りを「違憲状態」とした2011年3月の最高裁判決後、憲法上要求される是正の合理的な期間を検討。区画審が6カ月以内に区割りの改正案を勧告するとされることなどから、通常のリミットを1年とし、1人別枠方式は廃止されたものの、判決から衆院選までの1年9カ月で是正されなかった選挙の区割りを、違憲と断じた。
 さらに、格差が2倍以上の選挙区が、前回総選挙時の45から今回は72に激増するなど状況は悪化するばかりで、最高裁の違憲審査権も軽視されていると言及。「もはや憲法上許されない事態」との認識を示し、今回、違憲と判断しながらも、弊害が大きい場合はあえて無効としない「事情判決」を採用するのは適当でないと結論づけた。
 広島1区の当選者は外相の岸田文雄氏(自民)、2区は平口洋氏(同)。広島高裁は区割り規定そのものを違憲と判断したが、無効訴訟は選挙区ごとに起こす形式となっており、対象となった広島1、2区のみを無効とした。被告の広島県選管は上告するとみられ、最高裁で無効判決が確定しない限り失職しない。
 12年の衆院選をめぐる一連の訴訟では、5高裁・支部が違憲と判断(事情判決)。2高裁は「違憲状態」としていた。広島高裁では選挙権を持つ各弁護士が原告で、1人別枠方式での配分は、憲法が求める投票価値の平等に反すると主張。県選管側は「1年9カ月では、区割りを抜本的に見直す期間としては不十分だった」などと請求棄却を求めていた。
 県選管の橋本宗利委員長は「誠に残念。国とも協議のうえ、今後の方針を決定したい」との談話を出した。



□〈判決の骨子〉
 ・12年12月の衆院選当時の区割り規定は、憲法14条に違反する。
 ・民主的政治過程のゆがみは重大で憲法上許されない事態であり、憲法の規定に反する区割り規定に基づいて施行された選挙は無効。
 ・区割りの改定作業が始まっていることなどを勘案し、選挙無効の効果は13年11月26日の経過をもって発生する。


第3章 司法、格差放置許さず/「投票価値の平等、悪化の一途」


 「一票の格差」を問う訴訟が起こされて半世紀。再三の警告にもかかわらず、根本的な是正に取り組もうとしない国会に対し、裁判所が「伝家の宝刀」を初めて抜いた。衆院選をめぐり、広島高裁が言い渡した無効判決。「猶予期間」を与えたうえ、上告審も続くとみられるため、すぐに選挙をやり直すことにはならないが、政界に大きな衝撃を与えた。

 「前回の最高裁判決以降、投票価値の平等の要求に反する状態が悪化の一途をたどっている」「最高裁の違憲審査権も軽視されていると言わざるを得ない」
 広島高裁判決は、初めての無効判決に踏み込んだ理由をこう説明した。
 「一票の格差」訴訟は1962年に参院選に関して初めて起こされたが、以来50年余の間、無効判決は衆参を通じて、一審の高裁、最終審の最高裁でもこれまで一度もなかった。
 衆院選では中選挙区時代の76年と85年に2度、無効の一歩手前の違憲判決が最高裁で出たことはあった。
 だが、いずれも「区割り全体が違憲なのに、実際に議席を失うのは提訴された選挙区の議員だけ」「憲法に適合した区割りを定めるにしても、その選挙区の議員がいない状態で法改正を行う不都合が生じる」として、無効を回避してきた。
 2012年の衆院選をめぐる一連の訴訟は計16件起こされ、25日までに判決が出た8件のうち、広島高裁をのぞいて違憲判決は5件。76年と85年の最高裁判決を踏襲し、無効を回避していた。
 ただ、これまでも無効判決を予測させる意見はあった。85年の最高裁判決では、当時の寺田治郎長官を含む裁判官4人が「違憲とされた区割りが是正されないまま選挙が行われた場合、一定期間たった後に効果が生じる無効判決もありうる」との補足意見を示した。今回の広島高裁判決の論拠の一つにもなっている。
 とはいえ、2度の違憲判決が示されたのは、最大格差が4〜5倍に達していたころの話だ。「国民の代表である国会に対し、司法は抑制的にふるまうべきだとの空気があった」(元最高裁判事)といい、最高裁では無効どころか違憲判決も85年以来途絶えていた。 衆院選はこの20年間ほど、最大格差が2倍台で推移。高裁や最高裁は判決で是正を促しつつも、結論は合憲としてきた。その姿勢が変化したのは、2009年の衆院選からだ。
 最大格差は2・30倍で、05年選挙時の2・17倍と大きく変わらないのに、高裁判決9件のうち4件が違憲と判断。格差の大きさよりも、「その放置」を厳しくみる司法の姿勢が鮮明になった。最高裁も11年3月の大法廷判決で、18年ぶりに「違憲状態」と判断した。
 それでも国会は12年の衆院解散当日、「0増5減」の最低限の定数是正を成立させただけ。区割り作業が間に合わず、選挙は最高裁が「違憲状態」と指摘した区割りのまま実施された。
 このため、無効訴訟が12年末に起こされた後、最高裁内部でも「動きの鈍い国会への警鐘として、一部の高裁は無効判決を出すのではないか」との指摘が出ていた。今回、それが現実のものとなった。
 今回の判決で、「裁判所は無効判決を出さない」というこれまでの「常識」は崩れた。司法は、様々な不都合があってもなお、選挙を無効にするしかないと考え始めたと言えそうだ。
 ある現役裁判官は言った。「無効判決に驚きはない。最高裁で維持される可能性は低いだろうが、国会に対しては格差是正を促す強いメッセージとなる」



◎最高裁も「無効」なら議員失職/今後はどうなる?
 無効判決を受けて、今後、どうなるのか。
 一票の格差訴訟は公職選挙法に基づいて、有権者が地元の小選挙区の選挙無効を求める形となっている。広島高裁は訴訟対象となった広島1区と2区を無効としたが、被告の選挙管理委員会は上告するとみられ、判決の効力は最高裁で確定するまで生じない。
 12年の衆院選をめぐる訴訟の高裁判決は、26日に7件、27日に1件が言い渡されて全16件が出そろう見通し。これらを統一する最高裁判決が出る時期は、早ければ13年秋とみられている。
 最高裁はどう判断するのか。09年衆院選をめぐる11年3月の大法廷判決は「違憲状態」で、そこから一段階厳しいのは「違憲だが、選挙は有効」という判決だ。それを飛び越え、「違憲・無効」に踏み込む可能性は低いとみられる・・・

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