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経済・雇用
朝日新聞社

黒田日銀の危険な賭け 大胆緩和がもたらしたバブル気分とさめた企業

初出:2013年4月5日〜4月11日
WEB新書発売:2013年4月19日
朝日新聞

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 黒田日銀が発足早々、予想を超える金融緩和を打ち出した。株式市場では早くも「バブル気分」が広がるが、企業の設備投資や賃金増加はなかなか動き出さない。アベノミクスのもと大胆な賭けに出た黒田日銀の可能性とリスクを多角的に検証する。

◇第1章 決意の緩和、大胆船出
◇第2章 投資家はやバブル気分
◇第3章 企業はいまだ様子見
◇第4章 「財政赤字縮小を」


第1章 決意の緩和、大胆船出


 アベノミクスの第1の矢である「大胆な金融緩和」を担い、日本銀行に乗り込んだ黒田東彦(はるひこ)総裁が、いきなり新たな量的緩和政策を打ち出した。これまでの2倍のお金を流すという巨額の資金投入は、くらしにどのような影響をもたらすのか。デフレ脱却の切り札になるのだろうか。

◎暮らし好転? 両刃の剣
 黒田総裁は、国債や投資信託をどんどん買って、日銀が市場に流すお金(マネタリーベース)を2012年末時点の138兆円から、14年末には270兆円まで増やすという。日銀が流すお金が2倍になると一体何がおこるのだろうか。
 マネタリーベースとは、日銀が金融機関に流すお金のこと。金融機関はそれを元手に企業や個人に貸すので、お金はぐるぐる循環し(信用創造)、金融機関以外の民間部門が持つお金の総額(マネーストック)は約1100兆円に達している。日銀は、この金融機関の元手となるお金を2倍にし、民間に出回るお金の量を1100兆円から、さらに大きくするのが狙いだ。
 それは私たちの生活にどのような影響をもたらすのか。黒田総裁が期待しているのは、3種の効用だ。
 まず、国債を大量に買えば、全ての金利の指標になる国債の金利が下がる。住宅ローンや企業の借入金利の低下につながる。長期固定住宅ローン「フラット35」の金利は、「21年以上35年以下」が年1・80〜2・75%と、すでに過去最低水準だ。新たな緩和策の発表後、4月4日の東京市場では国債金利が過去最低になった。住宅ローン金利はさらに下がりそうだ。お金を借りて設備投資をする企業が増える可能性もある。
 2番目は、大量のお金を流し込まれた金融機関が、貸し出しを増やすことだ。多くの金融機関はこれまで、企業にお金を貸しても返済してもらえずに損をするリスクがあると考え、安定してもうかる国債の保有を増やしていた。しかしさらなる緩和で国債の金利は下がり、もうけは減る。むしろ緩和による経済活性化に期待して貸し出しを増やす可能性がある。
 三つ目は、消費者や企業の間で、物価が上がるのではないかという「予感」を高めることだ。物価や地価が上がると信じる人が増えれば、値上がりする前にモノを買ったり工場や家を建てたりする人が増える。
 でも、心配な点もある。円安による輸入品の物価上昇だ。日銀がお金をたくさん供給して、モノの量よりお金の量ばかりが増えれば、お金の価値が下がり、円安になる。
 燃料を輸入に頼る電気料金は5月から家庭向けが月最大221円上がる。パンや菓子の原料の小麦粉は6月末から値上がりする。モノの値段が上がれば、消費が減る。そうすると企業の売り上げも減り、従業員の給料が減るという悪循環に陥りかねない。黒田総裁は「経済情勢を見ながら政策を調整していく」と話す。デフレから脱却して物価は上がったが、生活が苦しくなったという不満が出始めれば、景気回復への期待が失望に変わる可能性もある。



◎政権味方、素早い転換
 「見事に期待に応えていただいた」
 安倍晋三首相は13年4月4日、TBS番組のインタビューで日銀の決定を高く評価した。
 12年12月の総選挙での大勝をひっさげて首相の座に返り咲いた安倍氏は、さらなる金融緩和には消極的だった日本銀行を、次々と屈服させてきた。
 白川方明(まさあき)・前総裁には日銀法改正をちらつかせ、1月には物価上昇率2%を目指す物価目標を「できるだけ早期に実現する」と約束させた。3月下旬には日銀批判の急先鋒(きゅうせんぽう)だった黒田氏を総裁に据え、別の候補の就任を期待していた日銀幹部らを落胆させた。そして、黒田氏から、思い通りの金融緩和策を引き出した。
 麻生太郎財務相も記者団に「次元の違う金融政策に踏み込んだ」と述べ、甘利明経済財政相も記者団に「110点ぐらいあげたい」と手放しで喜んだ。
 政権の強い圧力の前に、緩和に消極的だったはずの日銀では、素早い「変わり身」もみえる。
 3月の決定会合では、白井さゆり審議委員が、今回の決定よりもずっと小さな規模の「国債の買い入れ拡大」を提案したが、1対8で否決されていた。
 しかし、わずか1カ月後の今回の会合では、巨額の国債買い入れに、全員一致で賛成した。ある関係者は「体制が代わった。もはやアンシャンレジーム(旧体制)に遠慮する必要はない」と自らの豹変(ひょうへん)にも恥じらいがないようだ・・・

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