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経済・雇用
朝日新聞社

「マクド難民」 街をさまよう 失業者たちの遠い夜明け

初出:2013年1月13日〜2月18日
WEB新書発売:2013年4月26日
朝日新聞

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 ネットカフェや個室ビデオ店すら、もはや高嶺の花になった。心身を休めるためのよりどころは、深夜のファストフード店の固いイス。正社員になれず、景気次第で簡単にクビを切られる。日雇いの仕事にすらありつけず、予算削減が進む生活保護も認められない。社会の中で席をなくしてしまったまま、さまよう時間は長くなるばかり。「難民」を脱して、本当の自分のイスに座れる日は来るのか。

◇第1章 夜をさまよう「マクド難民」
◇第2章 「稼ぎ悪すぎアパートなんて」
◇第3章 働いていても生活できない
◇第4章 「怠け者のレッテル、悔しい」


第1章 夜をさまよう「マクド難民」

◎非正規の職まで失う

 大阪市の繁華街ミナミ。難波駅近くにあるマクドナルドは、午前0時になると店内の風景が一変した。サラリーマンや学生たちと入れ替わりに、くたびれた手提げ袋を抱えた男性たちが入ってくる。
 「マクド(マクドナルド)難民」。大阪でそう呼ばれる人たちだ。
 30〜40代ぐらいだろうか。この夜もぼさぼさの髪に、黒や灰色のジャンパー姿の数人が、テーブルにうつぶせになったり、ソファに足を乗せたりして所在なげに過ごす。
 「金がないから、ネットカフェには泊まらない」。パナソニックの工場で請負の仕事をしていた男性(35)は言う。深夜営業の店を渡り歩く生活を始めて1年近くたつ。
 昼はパチンコ店内のソファなどで仮眠をとる。街を歩き始めるのは夕方からだ。スーパーで格安の総菜を買ってビルの片隅で食べた。コンビニエンスストアをはしごして暇をつぶし、最後はマクドナルドに入って休む。
 「まさかこんな生活をするようになるとは」
 パナソニックの工場では、自動販売機を組み立てる製造ラインで、4人チームのリーダーだった。ラインの調子が悪いと、夜でも頻繁に電話で呼び出された。睡眠不足とストレスがたまり、体を壊した。残業代は払われず、給料は手取り20万円ほどで「とても続けられなかった」という。
 この男性と同じようにマクドナルドで夜を過ごすオキタさん(通称、40)も、2012年3月までは三重県亀山市にあるシャープの液晶関連の工場で派遣社員として働いていた。シャープが韓国企業にシェアを奪われ、工場生産が落ち込んだために仕事を切られたという。
 電機関係の工場で働きたいと大阪に来たが、希望の職はなかった。ときどき土木の現金(日雇い)仕事で稼いで食いつないでいる。気持ちも落ち込みがちになり、最近、精神科の治療を受けた。マクドナルドで100円のハンバーガーを食べて夜明けを待つ日が増えた。
 就職氷河期で正社員につけず、非正規社員になった若者たちが次々と職を失っている。明日のみえない不安のなかで、つかの間の休息をとる。深夜のマクドナルドはそんな場所になっている。
 だがその静寂を切り裂くように、午前2時前、大音量の音楽が突然、鳴った。
 飲食スペースの「閉店」を知らせるアナウンスに、男性たちは重い足取りで店を出る。ぞろぞろと向かった先は50メートルほど離れた新古書店ブックオフだ。
 また夜がくるまで、街に埋もれて過ごす。そうすれば、マクドナルドの席があく。




◎1杯100円、朝までいられる
 仕事がなく、深夜営業の店で夜を過ごす人たちが増えているのは、大手メーカーなどの人減らしのせいだけではない。景気の悪化が拍車をかけている。
 商売繁盛を願う今宮戎(えびす)神社の祭り「十日戎」が始まった13年1月9日。縁起物の熊手を手にした若者に交じって、カバンを三つ抱えた男性がマクドナルドに入ってきた。所持金は約300円。12年末から仕事を探してきたが、見つからない。1杯100円のコーヒーを飲みながら、途方にくれる。
 「日雇いの仕事やらへんか」。午前4時ごろ、店に入ってきた手配師風の男に声をかけられた。いつもは路上で誘われるのに、店にまで来るのは珍しい。いくら探しても希望の仕事がないのに、どんな日雇いがあるというのか。「どこへ連れていかれるか、怖くて」。この日は断った。
 今まで工場で働いていた人には、工事現場などで働く日雇いの仕事はきつい。しかも、ここ数年までの公共事業の削減と、最近の景気後退の影響で、良い条件の仕事は限られている。失業状態の人たちが、小さなころから通い慣れたマクドナルドに集まる。
 「ネットカフェに泊まれば千円ぐらいかかる。マクドナルドなら100円のコーヒー1杯でずっといられる」。深夜の店内でいくつもの携帯電話を充電していた女性(37)は言う。
 大阪市は全国に先駆けて、ホームレスに声をかけて住居などの相談にのる事業や、職を見つけるまで生活できる「自立支援センター」を最大半年、無料で開放し、支援している。だが、深夜営業の店で夜を過ごす人たちは、「路上テントなどに定住しておらず、どこにどれだけいるのか把握しきれない」と自立支援センターの施設長をする田渕勝彦さん。実態すら十分につかめず、政府や自治体の支援が届かない。その厳しい状況から、本来は武力紛争などで国を追われて避難生活を送る人たちを指す「難民」という言葉で語られている。
 社会の安全網(セーフティーネット)からこぼれ落ちる人たちの数少ない「受け皿」が、深夜営業店だ。
 マクドナルドでは「いまのところ、特に問題は起きていない。夜の利用が増えているので、24時間店舗は増やしていく」(広報室)としている。24時間販売をしていても、飲食スペースをいったん閉め、清掃時間にあてるかどうかは各店の判断にしているという。
 マクドナルドの店員も大半は非正規社員で、約17万人がアルバイトで働く。コンビニなどもフリーターが深夜営業を支えている。深夜の店は、非正規の「社員」と「元社員」たちが隣り合わせで過ごす場だ・・・

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