政治・国際
朝日新聞社

「敵」を見つけたい人々 在特会から「ナマポ」追及者まで

初出:朝日新聞2013年4月28日〜5月2日
WEB新書発売:2013年5月17日
朝日新聞

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 「在日韓国人をテポドンにくくりつけ、韓国に撃ち込みましょう!」などと叫ぶ右派系市民団体「在特会」、「沖縄左翼はシナの工作員」と反基地運動に罵声を浴びせる普通の人々、生活保護の不正受給者(通称「ナマポ」)を探しまわるネットユーザー――。あらゆる場所に「敵」を見つけだし、暴力的な言葉を浴びせる人々がいる。それを容認し、駆り立てる空気がある。日本はいつから、これほど狭量な国になってしまったのか。不寛容な社会の危うさを追うノンフィクション。

◇第1章 在日攻撃、牙むく言葉
◇第2章 訪朝公演「空気読んどらん」
◇第3章 「売国奴!」沖縄への理不尽
◇第4章 「ナマポ」受給者に不満の矛先
◇第5章 犯人探し、独善「無念晴らす」


第1章 在日攻撃、牙むく言葉

 2013年3月の日曜、昼下がり、東京・新大久保。
 「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の桜井誠会長(41)が、先導車から拡声機でコールする。
 「新大久保のゴキブリの皆さんこんにちは! こちらは『全日本・社会の害虫を駆除しよう清掃委員会』のデモ隊です」
 「在日韓国人をテポドンにくくりつけ、韓国に撃ち込みましょう!」
 なぜ、こうも激しい言葉を投げつけるのか。桜井会長はこう言う。
 「韓国や北朝鮮の振る舞いに本気で怒ってるから、殺せとまで言うんです。単に排外主義と決めつけないでほしい。怒りを間違えないでほしい」
 「在日韓国・朝鮮人が不当な特権を得ている」と主張する市民団体だ。外国人への参政権付与や生活保護の受給、朝鮮学校生の授業料無償化。次々と抗議の的を見つけては、過激なシュプレヒコールで練り歩く。2006年末の結成で、会員は公称1万2千人。
     ◇
 反対側の歩道には、デモへの抗議に集まった人たちのプラカードが並ぶ。指を突き立て「ザイトク帰れ」と叫ぶ一団も。韓流の街・新大久保で2月以降、繰り返されている光景だ。
 雑踏に隠れるようにして見ている眼鏡の男性(39)がいた。仮に生主(なまぬし)さん、と呼んでおく。
 在特会や同種の右派系市民団体のデモや街宣に、過去65回参加した。外から見るのは初めて。涙が出そうだった。
 在特会を知ったのは、数年前のこと。
 メーカー勤めのころ、海外との取引で日本が不当におとしめられている、と思うことが多かった。歴史問題でも領土でも外国に責められてばかりではないか。
 そんな時、ネットで在特会の動画を見つけた。自宅でパソコンに向かっては、興奮で机をバンバンたたいていた。後に妻から、そう聞かされた。
 生主さんが初めて参加したデモは11年8月、フジテレビへの抗議。韓流ドラマが多いのは偏向と訴えた。10月、民主党本部前の座り込みに加わった。政府が中国や韓国に弱腰なのが、許せなかった。
 デモの後の居酒屋では、気の合う仲間が何人もできた。会社員もいれば、主婦もいる。生主さんも脱サラして事業を起こし、小学生の子が2人いる。
 やがて、ニコニコ生放送の「生(なま)放送主(ぬし)」を引き受けるようになる。パソコンとカメラを手にデモを追いかけ、ネットで動画を中継する。頼まれれば全国どこへでも車を駆った。
 中継画面はいつも視聴者のコメントで埋まる。「そうだあああああああ」。多くの人が机を鳴らし、そして路上に出た。
     ◇
 「日本を、取り戻す」
 12年12月の総選挙結果は地方のデモの帰り道、車中で知った。安倍政権誕生に「高揚感がありました」。日の丸持参で街頭演説に出かけた仲間もいる。
 生主さんはその後、目標を見失った気がした。仲間うちのツイッターのつぶやきも急に減る。デモでより激しい言葉が使われるようになるのは、それからだ。
 中継のとき、デモ参加者と通行人との温度差は、前から気になっていた。飲み会で主張と少しでも違うことを言うと、みなすぐに激高した。
 でもその「怒り」の根拠って何だろう。
 「ネットで都合よい情報ばかり集めては、身内でそうだそうだと盛り上がっていただけではないか」
 立場の異なる人が書いた本を読んでみた。在日韓国・朝鮮人がなぜこの国にいるのか。歴史的な経緯を初めて知った。
 2月。自分は行かなかった大阪のデモで「朝鮮人を殺せ」と連呼するのを、動画で見た。
 ビールをあおった。
 3月、新大久保でのデモの前夜。迷いに迷った末、「決別宣言」を、自宅からニコ生で放送した。
 「殺せ、ゴキブリと言いながらのデモには、もう賛同できない。スタンスの違う人からは、モンスターに見えるのではないか」
 灰皿には吸い殻の山。
 「怒りを伝えるためにタブーを破るんだという。でも、あんな言葉を使わないとできないのか」
 1時間で5471件のコメントが殺到。「お前は在日認定」「氏(し)ね〜〜・・・

この記事の続きは、WEB新書でお読みいただけます。

「敵」を見つけたい人々 在特会から「ナマポ」追及者まで
  • 著者石橋英昭、多知川節子、上田真由美、清水大輔、岩崎生之助
  • 出版社朝日新聞社
  • 出版媒体朝日新聞

「在日韓国人をテポドンにくくりつけ、韓国に撃ち込みましょう!」などと叫ぶ右派系市民団体「在特会」、「沖縄左翼はシナの工作員」と反基地運動に罵声を浴びせる普通の人々、生活保護の不正受給者(通称「ナマポ」)を探しまわるネットユーザー――。あらゆる場所に「敵」を見つけだし、暴力的な言葉を浴びせる人々がいる。それを容認し、駆り立てる空気がある。日本はいつから、これほど狭量な国になってしまったのか。不寛容な社会の危うさを追うノンフィクション。[掲載]朝日新聞(2013年4月28日〜5月2日、7600字)

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