教育・子育て
朝日新聞社

小田原高校・青春スクロール 山と海に囲まれた伝統校で才能育つ

2013年05月24日
(11200文字)
朝日新聞

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 小田原高校の名物の一つが「百段坂」。その階段をそろって走り抜けていたのが農相などを務めた河野一郎と参院議長を務めた河野謙三だった。二人とも陸上選手として鳴らし、日本のスポーツ界に影響を与えた。豊かな自然環境と至誠無息(誠実を貫き通す)という校訓のもとで育った人たちの青春を振り返る。

◇第1章 健脚育む百段坂/箱根駅伝コースで練習
◇第2章 虫・ヘビ・釣り/自然と戯れる原点
◇第3章 入試出題で注目/「ふぞろいの林檎たち」
◇第4章 地元に積極貢献/バレーや卓球で好成績
◇第5章 「至誠」「堅忍」脈々と/経済界をけん引
◇第6章 教壇で落語/エンタメ才能続々
◇第7章 演劇へ導いた文化祭/舞台人育てる
◇第8章 時代先取るセンス/海外に羽ばたく
◇第9章 ソフトテニス全国制覇/サッカー準V
◇第10章 現職首長が6人/地方政治に根張る
◇第11章 (小田原城内高校)校歌に「梅の花」/良妻賢母ブランド
◇第12章 初代校長は松陰の甥/多忙な同窓会長


第1章 健脚育む百段坂/箱根駅伝コースで練習

 小田原高校(以下小田高)の名物「百段坂」をあえぎながら上る。遅刻の常習者にはさぞやつらい急勾配だったに違いない。それでも途中で振り向けば、相模湾が見渡せ、おおらかな気持ちになる。そんな高台への通学は、自然に健脚の学生を育むことになっただろう。
 自民党の実力者で農相などを務めた河野一郎(故人、1917年卒)と、参院議長を務めた河野謙三(故人、20年卒)兄弟はそろって走りながら通学していたという話がある。一郎も謙三もその後、早稲田大学の競走部で活躍、陸上をはじめスポーツ界に影響を与えた。


 東京五輪の審判団団長を務めるなど日本陸上界に大きな功績を残した渋谷寿光(故人、12年卒)から連なる「走りの系譜」が小田高には流れている。渋谷は正月に行われる箱根駅伝のコースを設計し、運営にも携わった。小田原市を走るのは往路では4区と5区。5区は箱根の山越えで有名だ。以上3人は旧制小田原中学の卒業生。


 駅伝ではないが、59年の全国高校陸上対校選手権大会総合優勝は今も語りぐさだ。箱根不動産社長の勝俣俊彦(71、60年卒)、小田原法人会副会長金子義明(71、60年卒)らの男子800メートルリレーは、大会新で優勝に花を添えた。「あの時のリレーは一人ひとりの速さやバトンのタイミングなどがすべて完璧だった」と勝俣。錦通り商店街を外国車に乗って優勝パレードしたことを昨日のことのように覚えている。
 箱根駅伝のコースを練習で走っていたのは日本テレビアナウンサー、新谷保志(36、95年卒)。連日よく走ったが、「朝練をどう理由をつけてさぼろうかと考えていた」というほどきつかった。とはいえ、そこは主将、3年連続アンカーの重責を担った。最後の大会では関東大会8位の成績で健闘した。今はプロ野球をはじめスポーツ実況が多く、今年は箱根駅伝の実況も担当。臨場感あふれる実況は、高校時代の駅伝経験が生きているようだ。


 新谷の3年下にNHKの小澤康喬(やすたか)(32、98年卒)がいる。地元、久野の山越え14キロ練習を「一番過酷だった」と語る。今はニュースウオッチ9で現場からニュースを伝える。「いかに反射神経よく動けるかが大切」と、猛練習で鍛えた足腰の強さを日々の報道に生かしている。



第2章 虫・ヘビ・釣り/自然と戯れる原点

 小田高は山と海に囲まれた抜群の環境のなかにある。山に遊び、海と戯れた高校生活から、自然科学への興味が湧く人間が出てきても不思議ではない。
 海洋生物学者で元横浜国大教授の酒井恒(つね)(故人、1923年卒)は日本のカニ1千種のうち、125種以上を新種として発表したカニ博士だ。昭和天皇のカニの先生としても有名で、「相模湾産蟹類」(丸善刊)など著書多数。
 酒井がカニ博士なら近藤正樹(78、53年卒)はアリ博士。「不思議だと思ったことは自分で解決しないとダメな性分」。アリの知識は生物部の先輩が紹介してくれた相洋高校の非常勤講師から学んだ。今は自宅を改装して、アリをはじめとする昆虫の生態を研究できる拠点づくりに余念がない。


 佐藤勝信(67、64年卒)は生物部部長だった。ヘビをポケットから出しては女子生徒を驚かせていた。同窓会では「佐藤君、ヘビ持っていないでしょうね」と今も言われる。2007年に自分のアパートを改装して「はこね おだわら昆虫館」を開館。セミやクワガタ、バッタなど2万点を展示、土日に限って無料開放している。佐藤が描いた精密な昆虫画が見ものだ。


 ヘビといえば、小岩井農場の特別常任顧問を務める野澤日出夫(72、58年卒)も爬虫(はちゅう)類が大好きだった。「マムシを部室で飼っていた」。仙石原での夏合宿では植物組や昆虫組に分かれて活動したが、野澤が好んだのはヘビだった。金時山登山もいい思い出だ。大学卒業と同時に小岩井農場へ。獣医師として家畜の診療とともに酪農指導もしながら50年が過ぎた。現地で同級生と再会、数人で「岩手小田高会」を開いたことも。
 海に縁があるのは、プロの釣り師を職業にする村越正海(せいかい)(54、76年卒)。何をもってプロを名乗るのか。海、川、渓流……。海なら磯釣り、船釣り、投げ釣りなどジャンルを問わず知識と技術を持ち合わせ、書籍やテレビなどの企画、取材、編集を1人でこなし、釣りの指導からゲームソフトの制作も請け負う。小田高では水泳部で平泳ぎの選手。泳ぐだけでなく、もちろん毎日のように小田原の海で釣りをしていた・・・

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小田原高校・青春スクロール 山と海に囲まれた伝統校で才能育つ
216円(税込)

小田原高校の名物の一つが「百段坂」。その階段をそろって走り抜けていたのが農相などを務めた河野一郎と参院議長を務めた河野謙三だった。二人とも陸上選手として鳴らし、日本のスポーツ界に影響を与えた。豊かな自然環境と至誠無息(誠実を貫き通す)という校訓のもとで育った人たちの青春を振り返る。[掲載]朝日新聞(2013年2月22日〜5月17日、11200字)

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